13
「つっかれたあー!」
ぷしゅっと缶から良い音が鳴る。
部屋の前の縁側に腰をかけて、月を眺めながら缶ビールに口をつける。久しぶりの労働でどっと疲れたからか、昨日銀さんと飲んだビールとはまた違った美味しさだった。
仕事量も多いし邪魔してくるやつもいる。
けどなんとなくやり甲斐は感じる。
誰かの役に立つのってとても気持ちいい。
ここでやっていけそうかも知れないと思った。
「初日から飲んでるのか」
振り向くとそこには副長さん。
ぶっきらぼうで、少し近寄り難い気もするけど、そういうところもクールでかっこいいと思う。
今日洗濯物を運ぶのも手伝ってくれたし、こう見えても優しい人なんだろう。
「疲れた時はビールですよ!副長さんも飲みます?」
「いや、俺はいい」
「ちぇー」
「ちぇーってなんだよ!ちぇーって!」
「クールな人が酔ったらどうなるのか気になって」
「別にクールじゃねえよ」
そう言ってタバコに火をつけた。
この人いつもタバコ吸ってるな、と赤くなっていくタバコの先端をぼーっと眺めていたら、物欲しそうに見えたのか、
「吸うか?」
とタバコの箱を差し出してくる。
少しからかってみたくなり、下ネタを投下する。
「えっ、そんな、こんなところで……?意外と積極的なんですね?」
「……って何を吸うつもりだテメーは!」
「ナニってナニですよ」
「女がそんな下品なこと言ってんじゃねえ!」
「ちぇー、副長さんはもっとお上品でお淑やかな人がお好みで?」
「……べつに」
副長さんは目を逸らしタバコの煙を吐く。
あ、これは図星だったな?
「……女中、やっていけそうか?」
「まあ大変だけど頑張れそうです」
「ならいいけどよ。また総悟の野郎に何かされたら言えよ」
やっぱり、優しい人だ。気にかけてくれて……今まで何人の女を落としてきたんだろうこの人は。
残りのビールを一気に飲み干す。1本じゃほろ酔いにすらならないけど、また顔が浮腫んでると色々言われそうだし、今日はこの辺にしておこう。
「さて、寝ますかね」
「寝坊すんなよ」
「1本しか飲んでないから大丈夫ですよ」
おやすみなさい、とそれぞれお互いの部屋に戻った。
今日からこの部屋で過ごすんだな、とまだ何も無い部屋を見渡した。
今日はよく眠れそうだ。
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