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「今日からここでお世話になります、名前といいます!分からないことだらけですが、宜しくお願いします」
まずは女中のみなさんに挨拶。人数はそんなに多くはない。この人数で一日回してるんだろうか、大変だ。
「若い子が入ってきて助かるよ。私らもう年で足腰にガタが来ててねえ。力仕事を任せることもあるけどいいかい?」
「はい!頑張ります!」
「今日はもう朝食と洗濯は済んだから、昼食の準備に取り掛かるよ」
女中歴が一番長いという芳江(よしえ)さん。分からないことがあれば何でも聞いてきな!と、とても頼りがいのあるおばs……お姉さんだ。
「こんなに量が……」
「隊士が多いからね、まずこのじゃがいも全部皮剥いて!」
「は、はい!」
ピーラーでしゃしゃっと皮剥くだけだが、気を抜くと指の皮まで剥いてしまいそうだった。
私が剥いたじゃがいもは、他の女中さんが切って調理する。工場の流れ作業の様だった。
「次は人参!」
「はい!」
「次は大根!」
「はい!」
***
「お疲れ様、あとは隊士の持ってきたおぼんに乗せて行くだけだからね」
「了解です!」
もう既になかなかに疲れてしまった。
住み込みだから明日からは朝から仕事がある。きっと今日よりも大変だ。
「お、この前の、中の下の女じゃねーかィ。今日も顔浮腫んでんな」
突然浮腫んでると言われ、思わず顔を手で覆う。
声がした方に振り返るとあの時のクソガキ、沖田なんとかがいた。あの時の言葉は忘れたくても忘れられない。
あれから私は中の下の呪いにかかってしまったではないか。
「てっきり俺にビビって女中の仕事断ると思ってやしたが」
「だーれがビビるか!ばーかばーか」
「……ガキかよ」
口喧嘩に慣れてないせいで、子どもみたいに言い返す。
自分で言っておいて少し恥ずかしくなる。
「まあまあ総悟、入ってきたばかりなんだから優しくしてあげなさい」
「あ、この前のゴリラ……」
「この子俺のこと嫌いなの!?初めて会った時から当たりキツくない!?」
「ゴリラさんは昼食バナナでいいですか?」
「せめて人として扱ってぇ……」
「……こいつぁなかなか肝の据わった女でさァ。絶対服従させてやらァ」
な、なんかメラメラしてるこわっ!なんなのこの人、銀さんたちに聞いた通りのドSなの?可愛い顔してドSなの!?
私別にドMじゃないんですけど!
けど顔が好みなので悪くないかも、と思えてきてしまう私であった。
その後、隊士達が押し寄せバタバタとあっという間に時間は過ぎていった。
「あの、副長さんって今日はいないんですか?」
なかなか顔を見ないものだから、気になって芳江さんに聞いてみた。
「あの人は今日は非番じゃないかねえ。なに、名前ちゃん土方さん狙い?」
若いわねぇとニヤニヤして嬉しそうな芳江さん。
やっぱ女の人はこういう話好きだなあ。残念ですが恋愛しにここに来たわけではない。
「いや狙ってるとかでは無いです!男前だとは思いますけど」
「たしかにあの人顔だけはいいのよねえ、顔だけは」
「ニコチン中毒以外に何かダメなとこがあるんですか?」
「これから分かるわよ」
そういって詳しくは教えてくれなかった。
教えてくれてもいいのになあ、ちぇー。
顔の割に剛毛だったり、顔の割にマザコンだったりするのだろうか。指をくわえる癖があるとか?どんな欠点があるのか少し楽しみになる。
昼食ラッシュが終わり、やっと女中も交代して休める。
思い切り伸びをすると骨がバキバキと鳴った。
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