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朝、耳を舐められて目が覚めた。
怖くて寝たフリしてたんだけど、耳どころか顔もベロベロ舐められて、気持ち悪くて横に転がり起き上がった。
「あ、なんだ定春くんか……」
銀さんだったらどうしようかと思ったわ。
二日酔いにはなってない。頭もすっきりしてる。
とりあえず顔を洗おうと和室を出たら銀さんがソファーで寝ていた。私が和室で寝ていたから気を使ってくれたのかな……気遣いが嬉しくてふわふわの頭を撫で、洗面所へ向かった。
今日から女中になるんだ!気合い入れよう!
酒で浮腫んだ顔をパンッと叩いて、冷たい水で洗顔し気合を入れた。
神楽ちゃんもまだ寝てるみたいだし、朝ごはんでも作っておいたら喜んでくれるかな?なんて考えながら冷蔵庫をあけると、卵とハムといちご牛乳しか無い。
昨日ビールを探して開けたら空っぽだった事を思い出す。
お風呂を出てからバスタオル一枚で部屋をうろついてた事も思い出した。うっ、頭が!
なんてこった、彼氏と別れることが出来て開放的になっていたと言い訳させてくれ!!あんな格好で居たのに何も無かったのが救いだ。
とりあえず忘れよ、ご飯炊こう。
ケチャップもあったからオムライスなら作れるだろう。具はハムしかないけれど仕方がない。
炊けたご飯とハムをケチャップで炒めて、塩で味を調整する。
匂いを嗅ぎつけたのか、神楽ちゃんが目を擦りながら起きてきた。
「いい匂いがするアル……」
「おはよ、今オムライス作ってるからもう少し待ってね」
「オムライス!?朝からオムライスアルか!?きゃっほーい!!セレブの朝食ネー!!!」
こんなにはしゃいでくれるとは。けどセレブの朝食はハムと卵だけじゃできないんだよなあ……
「銀ちゃん起きるネ!名前がオムライスつくってくれてるアル!」
「あ゛ー、うるせえ頭いてえ」
「銀さん二日酔い?」
「ちょっと飲みすぎたわ……」
「二日酔いにオムライスはちと重いかな?神楽ちゃん、銀さんの分も食べる?」
「いやいやいや食べるよ!!!?銀さんも食べるよォ!?」
銀さんは飛び起きると頭が痛いと顔を顰めた。
あれだけお酒飲めば二日酔いもするよね、分かる。
「銀ちゃんは寝ときなヨ!無理すんなヨ!」
「うっせー!お前は俺の分も食いたいだけだろーが!」
ゴツンと神楽ちゃんの頭にゲンコツを落とす。
神楽ちゃんも仕返しをして朝からギャーギャー賑やかな朝である。微笑ましい。
「はいはい、ご飯出来たから暴れない!」
「「はあい」」
なんか大きい子どもが2人も出来たみたいだった。
結婚願望はまだないけどいつか家庭持てたらこんな感じなのかなあ、なんて考えながら皆で食べて食器の片付けもして、新八くんも出勤してもっと賑やかになった。
「名前さん今日から真選組でお仕事なんですよね、頑張ってくださいね!」
「ありがとう新八くん。新八くんもツッコミ頑張ってね」
「いやツッコミ頑張ってねってなんですか」
新八くんはお母さんだ。万事屋のお母さん。
ツッコミとお母さんの両立は大変だろうけど頑張ってほしい。
そんなこんなしてるうちに、私も出勤する時間が近づく。
「そろそろ行こうかな」
「荷物あんだろ、送ってく」
私の抱えていた荷物をひょいと奪って、玄関に向かう銀さん。澄ました顔をしてるけど優しいんだから。
「また食べ放題行こうね!」
別れが惜しくなり、部屋から出たところで振り返った。
神楽ちゃんも新八くんも笑顔で、あたたかく見送ってくれる。
「食べ放題もいいけど、また名前のオムライス食べたいアル!」
「いいなあ、僕も食べたかったです名前さんのオムライス」
「今度ちゃんとしたオムライス作ってあげるからね!」
二人とお別れし、私は銀さんのスクーターの後ろに乗って屯所へ向かった。
見えなくなるまで二人は手を振ってくれていた。
「もっと……してくんねえ?」
銀さんが何か言った気がするけど、スクーター乗ってるし風の音で何を言っているのか聞き取れなかった。
「なんてーーー!?」
「もっと密着してくんなァい!!??」
何言ってるんだこの人は。
まだ酔っ払ってるのか、とりあえずシカト。
「シカトですかァァアア!!??」
「聞こえませーーーーん!!!!」
そんなアホなやり取りをしてたら、あっという間に屯所に着いてしまう。
「銀さんありがとうね、色々と……感謝しかないよ」
「なーに別れの挨拶みたいになってんだよ」
コツンと軽く頭を小突かれたあと、髪をわしゃわしゃされる。昨日とっても楽しかったから余計に別れが惜しくなってしまう。
「ちょっと寂しいかもしれない」
「いつでも会えるだろーが。また飲みに行こうぜ」
「うん」
「あーあと、オムライス美味かった」
目逸らして小指で鼻をほじりながら銀さんはそう言った。照れ隠しなのか、可愛いなと思った。
「また作りに行くね!」
「おー」
またね、と手を振って屯所の門をくぐった。
ここ数日、目まぐるしく環境が変わっていく。今日から私は女中だと自分に言い聞かせ、気を引き締めた。
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