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「じゃあとりあえず明日の朝、必要な荷物持ってまた来てください」
「はい!宜しくお願いします!」
さっそくだけれど職も住むところも決まってしまった。
もう桜は散ってしまったけど私の新生活はこれからだ。
今日はお祝いだー!ビールでも飲むかー!
***
「就職おめっとさん」
「おめでとうアル!」
「おめでとうございます!」
あの後、万事屋に菓子折りを持って仕事と住むところが決まったことを報告しに戻った。
お礼も兼ねて万事屋の三人を連れて食べ放題に来た。
出会って間もない三人だが、親しみやすくて昔からの友達みたいに自然に接することが出来た。
「ありがとう!今日は私の奢りだから食べて食べて!」
「きゃっほーい!ご飯取ってくるアル!」
「神楽ちゃん、走ったら危ないよ!」
セルフサービスなのでさっそく尋常じゃない量のおかずやらご飯やら取りに行ってがっつく神楽ちゃん。
こんな小さい体のどこにこんなに入るのか……ってかこんなに食べて太らないの?羨ましい。
「思ったより早く決まって良かったですね!一体どういうお仕事なんです?」
新八くんが網に乗せた牛タンをひっくり返しながら言った。
「真選組の女中!住み込みだから家探す手間も省けたよ!」
「はぁ!?お前真選組で働くの!?やめとけやめとけ、あんなイカ臭いところ」
「サド野郎もいるアル。あいつには気を付けるヨロシ」
「みんな真選組の人とお友達?」
「友達じゃねーよ、ただの腐れ縁」
世間は意外と狭かった。
真選組との関わりがあったらしい。皆の口からは悪口しか出てこないけど、仲は悪くもなさそうだった。
神楽ちゃんはまたおかわりに行ってしまう。元取るどころか店が大赤字である。
「そういや、なんかゴリラがいたんだよね」
「ああ……あの人は姉上の……」
「新八くんお姉さんいたんだ?あ、もしかしてお姉さんの彼氏とか!?」
「いえ、ストーカーです……」
ストーカーかいいいい!!
あのゴリラ警察じゃないの!?ストーカーなんかして大丈夫なの!?なんなのほんとあの人!人じゃない、ゴリラだった。と心の中で激しく突っ込んでおいた。
「つーか住み込みで働くならあまり遊びに行けねえなあ」
銀さんがチョコレートマウンテンで汲んできたチョコを飲みながらボソッと呟いた。それ、飲み物じゃないよ。
「え、お金払わなくても遊んでくれるんですか!?」
「お前、なんでも金払ってなんとかしようとするのやめろ。また変な男に捕まっちゃうよォ!?」
「そうネ。銀ちゃんみたいな金も仕事もない男に捕まったら大変ヨ」
「そうですよ、銀さんだけはやめといた方がいいですよ」
「お前らなあ……」
心から笑った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
たとえ安い食べ放題でもみんなで食べるごはんは格別だった。
住んでたところを離れて、友達も家族も居ないし少し心細いかもと思っていたけれども、万事屋がこの街にいるなら安心だ。
90分の食べ放題なんてあっという間、というより神楽ちゃんの食べるスピードと量が凄まじく、半強制的に追い出されてしまった。
「はー、お腹パンパンアル」
「そりゃあんだけ食べればね……」
もういっその事フードファイターにでもなった方が食費も浮くし、稼げるのではないかと思ってしまった。
「おーい、お前ら先に帰っといて。銀さん達これから大人の遊びするからさ」
「大人の遊びって何アルか」
「お酒飲んだりでしょ、神楽ちゃんは僕が送って帰りますね」
「大人の遊びって何アルか、どんな遊びアルか。入れたり出したりするアルか」
「はいはい、帰るよ」
半分新八くんに引きずられながら帰ってった。
ああいう下ネタはどこで覚えてくるのかな……銀さんの影響かな。
「朝まで付き合えよ」
「大人の遊びって何アルか」
「神楽のマネすんな!入れたり出したりするんだよ!!!」
「ナニを入れたり出したりするアルか」
「お前結構下ネタ好きだな!?結構ってかめちゃくちゃ好きだろ!」
ボケると全力で突っ込んでくれるのが嬉しかった。
「てか私明日から仕事なんですけど」
「俺だって明日仕事だっつーの」
「……まあお酒飲みたいしいっか」
かぶき町を歩いていると、キャバクラだったりホストだったりオカマバーだったりと大人のお店が立ち並んでる。
これが憧れていたかぶき町か。キラキラしていて騒がしくて、街を眺めているだけでも楽しい。
店選びに迷ったが、とりあえず私たちは近くの居酒屋に入り、お通しで出てきた煮物をつまみながらまずは一杯。
「「かんぱーい!!!」」
ビールジョッキを軽く打ち鳴らし、一気にぐびっと飲み干す。濃厚な味わいで柔らかな口当たり、苦いがこれが美味いのだ。
「ぷっはー!!!一杯目のビールはやっぱ美味い!!!」
「お、いい飲みっぷりだな。次いっとく?頼んじゃう?」
「じゃあまたビールいっとこかな!あと、あん肝と枝豆!」
「おっさんかよ!!!」
「うるさいよ!女子はみんな心におっさんを飼ってるもんだよ!」
「そうなのォ!?夢が壊れるじゃねーか!やめろや!」
いつのまにか銀さんにもタメ語で話すようになってしまった。
まあ出会った時から失礼な事言いまくってたけども。
結構なペースでお酒を胃に入れていく。
銀さんは目が据わって来て、死んだ魚の様な目をしてるよ。いや、それは元からか。
「だーかーらぁ!結野アナのケツが理想なんだよ!あの揉みごたえのありそうなケツ!最高!結野アナと結婚してえ!」
「銀さんが結野アナと結婚なんて無理無理!ギャハハハハ!」
もう結構アルコールが回り、こんなくだらない事でも馬鹿みたいに笑えてしまう。座っていてもなんだか頭がふわふわしてるのがわかる。けどまだいくらでも飲めそうだった。
「よっしゃ、二軒目いくぞォォ!」
「うぇーい!」
飲み会とは、二軒目からが本番である。
ほぼ一年ぶりの飲みで浮かれていたのもあるけれど、死ぬまで飲んでやるぞ!と回らない頭で考えていた。
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