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ずいぶん長く眠った感覚があり、頭がズキズキと痛む。重たい瞼を開けると知らない天井がそこにあった。
「ここどこ……」
体をゆっくりと起こして部屋を見渡すと、白くて大きい犬が丸まって寝ていて、ここは万事屋なんだと把握する。
「よ、起きたか。お前帰ってる途中から泣き疲れて寝てやんの。寝てる奴後ろに乗せんの怖えーからやめろよな」
確かに昨日スクーターに乗って帰っていて、銀さんの背中を涙でびしょびしょにしてから記憶がない。そのままずっと寝ていたのか……通りで頭が痛いはずだった。
「あーごめんなさい。めっちゃ寝てたみたいで」
「なかなか起きないから死んだのかと思ったぜ」
「死んでるのは銀さんの目でしょ」
「お前なあ……出会って二日目で普通そんな悪口言うか?肝座ってんなァ」
呆れ顔の銀さんを横目に天井に向かって伸びをする。
凝り固まった肩がボキボキと鳴る。
どうやら外は明るい。
壁掛けの時計に目をやると短い針が2を指していた。
同棲してた家を出てきてそのままだし、住む場所も職もないので、一旦ここに荷物を置かせてもらって探しに行くことにした。
部屋だけでも決まればいいなあ。
早く探さないと私ダンボールハウスで住むことになってしまう。それだけは女子としてどうにか避けなければならぬ。
***
「お嬢さん、見ない顔だねぇ」
不動産屋を何件か回ったがなかなか条件の合う物件がなく、公園のベンチで求人誌を広げていると、ワンカップ酒を持ったサングラスの小汚いおじさんに声をかけられた。
「家と職を探していて……」
「お嬢さんもかい、まだ若いのに大変だねぇ俺もマダオなんて呼ばれてどれくらい経っちまったか……」
「迷子になったダメなおっさん、マダオですか」
「ああ、人生の迷子にね……って初対面なのに失礼だろ!まるでダメなおっさん、略してマダオだからね!?」
「あんまり変わらないでしょ」
「……まあ、お嬢さんなら若いしすぐ働き口見つかるよ。キャバクラとかどう?知り合いの子も働いててさ」
「キャバクラはもういいやあ……ってかお店で遊ぶお金なんてあるんですか」
「いやあ昔はよく遊んだもんだよ……これでも結構稼いでたんだ昔は」
「ふーん、まあ私が万が一部屋も職も見つからなかったら、この公園にお世話になるのでよろしくお願いしますね。」
「ああ、お嬢さん名前は?」
「名前です!じゃあそろそろ行きます。じゃあね、マダオさん」
マダオと名乗るおっさんと別れ、再び職と部屋を探す旅に出た。
住む込みの仕事とかあれば一石二鳥なのに。
「よーし、めげずに探すぞー!」
空に向かってえいえいおー、と右手を空へ翳した。
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