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その声は、"大切なこと"を告げたに違いないのに、そういうよりはむしろ酷く淡々としているようシェリーには聞こえた。

だから思わず尋ねてしまう。

「それってそんなに大切なこと?」

「重要だから強調すんだろうが。お前大丈夫か」


……間髪なく馬鹿にされることが分かっていてもだ。
反射的にぴくりと動いたシェリーの右手を、しかし止めたのは意外にもウォンを諌めるバーディーの声。

「ウォン、ちょっと黙ってろ」

不服そうに、はん、と鼻を鳴らしたウォンは、けれどそのまま口を閉ざし、シェリーから目をそらす。

それを見て、バーディーはゆっくりとシェリーに目を向け直した。


「……シェリー。一つ、はっきりさせておく」

「何を?」

「俺は君に手を貸してやると言った。パロマまで同行もする。君に足りない知識も惜しみなくお貸ししよう。だけど、根本は変わらない。これは『俺の』旅でなければ『俺たちの』旅でもない。

これはただ『君の』旅だ」

「私の……?」


そう繰り返しながら、いまいちシェリーにはその違いが分からなかった。同行し、力を貸してくれるというバーディー。でも、私"たち"ではない、という。


「つまり、どの道を選びどんな状況に陥ったとしても俺たちは責任を負わないってこと。君の旅だ。君の思うように進めばいい。その結果が分かっていても俺たちは、君の判断に口を挟まないと誓うよ」

「……な」

「その代わり俺には、君に全ての選択について、それが例え時間の無駄になろうとも、提示する義務がある。君が聞かなくとも、俺は語ろう。手を貸すと言った以上、襲撃に合えばある程度は守る。でも命はかけない。俺の人生はまた別のものだし、君の選択のもと進んだ旅路だ。それが原因で君が亡くなったとしたら、それは君の選択の結果ってことだからな」


当然のことだと、なんでもない顔で語るバーディーにとって、それは確か当然の考え方なのだろう。しかしシェリーにとってそれは衝撃的でもあった。

自分の人生と他人の人生。
こんなにもきっぱりと、線を引かれたことはこれまでにない。

手伝ってくれると言った。それは寄り添い合い、まるで運命共同体のように助け合ってパロマまで向かうのだろうというシェリーの考えは、ここにばっさりと切り捨てられたのだ。


『ここで一つ、はっきりさせておく』
それは、シェリーの甘い考えを見透かした彼らの線引き。


「以上をはっきりさせた上で《タカル》を説明しようと思うけど。何か質問は、お嬢さん」

空気を和ませるようにくすりと笑うその顔を、見上げる。


バーディーは分かってる。

触れたことのない考え方。
線引きという名の拒絶。

何故この人たちは、パロマまでの同行を申し出たのか。

彼の言葉、行動全てに、シェリーが疑問を抱いていることを。だからこそ、先手を打ったのだろう。

質問は許すけれど、文句や反論は許さない、と。
そして目で語る。
質問すらも許さないと、そう。


そんな風に線引きし、拒絶するくらいなら、他人に同行などせず自ら動けば良かったのだと思う。
それかずっとあの洞穴にいれば良かった。


わざわざ言葉で線引きしなければ分からない、お荷物の庶民の訪問は、彼の待っていた"その時"ではなかっただろうに。


彼は何故唐突に、動くことを決めたのか。


だが、シェリーはそれらを初めから言葉にするつもりはなかった。いくら無謀を代名詞に持つ彼女でも、分かっているのだ。
認めたくない話だが、彼女には知識や力が圧倒的に足りないこと、そしてバーディーらがその欠落を補うに足る存在であることを。


「ないわ」


あえて挑発に見つめ返す。その視線をまっすぐ受け止めて、初めてバーディーの目がにやりと笑った。


いいね、その目。そう朗らかに言って。



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