過去形で愛の告白
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ヤクザの彼と私だから…


学校で初めて彼を見たとき
目の錯覚じゃないかと思った。


先生達よりも大きい身体
顔にも大きな切傷
近寄り難い雰囲気にみんな怯えていた。

彼の名は花山 薫。

平凡に育った私でも
彼の名前は知っていた。

花山くんは有名なヤクザ。

それも組長。

この時点で私と花山くんの
生まれた環境の違いに溜息をつく。



同じクラスになって
最初はみんな怖がっていたけど
花山くんは物静かで温厚な人だった。

授業も真面目に聞いているし
掃除のときも隙あらばサボろうとする
男子を尻目に花山くんは嫌な顔せず
黙々と掃除をしていた。

たまにびっくりするような
発言や行動でみんなを驚かせたけど
周りを傷付けるようなことは
一切しなかった。

花山くんを色々観察しているうちに
私は花山くんに好意を寄せていた。


私が話しかければ口数は少ないけど
ちゃんと返事をしてくれる花山くん。

私は毎日花山くんに話しかけ
少しづつ仲良くなっていった。



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学校が終われば私は
前を歩く花山くんに声をかけ

「一緒に帰ろう」

そう声をかければ一旦足を止め
私を見下ろし

「あァ」

とだけ発してまた歩き出す。


一緒に帰れることが嬉しくて
顔がにやけてしまった。






「花山ァ!」

突然後ろから呼ばれ私が振り向くと
いかにもな怖そうな顔をした
男の人達がたくさん立っていて

怠そうにその男の人達を見た花山くんは
チラッと私を見て

「名前、先行ってろ」

それだけを言うと私から離れ
男の人達の方に歩いて行った。


どうしていいか分からず
でも花山くんに言われたことを
守ろうと花山くんから離れた。


道を曲がり少しだけ顔を覗かせば
男の1人が花山くんに言い寄っていた。

(大丈夫かな、花山くん…)


いくらヤクザだって言ったって
1人であんな人数をやるなんて
流石に不安になった。

(けっ警察とか呼んだ方がいい…?)

1人悩んでいると男の人達が
花山くんに襲いかかった。

よく見るとその手にはナイフや
鉄の棒などが握られていて
私は一気に怖くなった。


(花山くんが死んじゃうっ…)


ナイフで刺され棒で殴られた身体からは
たくさんの血が出ていて
私は足が震えてその場に座り込んだ。


頭では助けを呼ばなきゃと思うけど
身体が強張り動けなかった。


「…ウゥ…」

ドスンっと音がした方に目を向けると
男の人達の1人が倒れていた。

それから1人、また1人と
花山くんは男の人達を倒して行く。

いつも見ていた花山くんではなくて
無表情に相手の腕や足の骨を
両腕でへし折り、顔を容赦無く殴る姿に
私は恐怖で身体が震えた。

まさかあんな風に簡単に
人を壊してしまうなんて…


男の人達が悪い人だとは思うけど
無残に横たわりもがく
男の人達の姿に言葉を失った。




男の人達が動かなくなったのを見て
花山くんはスタスタと
こっちに向かってくる。


(怖い、)


そう思って花山くんから
離れようとしたけど足に力が入らない。

角を曲がって来た
花山くんと目があった。


花山くんは険しそうな顔をしたあと
私の腕を掴み立たせてくれた。

「あっありがとう」

上手く笑えない私を置いて
花山くんは歩き出した。


私は追いかけることも出来なくて
その背中を見ていた。



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家に帰り花山くんを思い出す。
学校で見せている顔と
今日みてしまったヤクザとしての顔。


嫌いになったわけじゃない。
ちょっと怖かっただけ。




でも私は花山くんを想う気持ちを
その日から辞めた。
諦めたって言った方がいいかな。



余りにも花山くんと私では
住む世界が違いすぎた。

一緒になれないことなんて
分かっていた。


「あぁー、初めての恋だったのにな」


誰に言うでもなく1人呟くと
涙が溢れていた。







次の日私はいつものように
花山くんに挨拶をし、
花山くんも普通に返してくれた。


いつもと同じ。
私達はただのクラスメイト。



自分の心を誤魔化しながら
私達は高校を卒業した。

「元気でね、花山くん」

「あァ、名前もな」

最後に交わした言葉はそれだけだった。



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それから10年後、私の元に
高校の同窓会の知らせが届いた。

行くか悩んだけど昔のみんなに
会いたかったから参加した。






会場に入ると懐かしい顔たち。
久しぶりの旧友と話をしていると
会場の扉が開いた。



そこに立っていたのは
白いスーツを着た花山くんだった。

一瞬周りが騒ついたけど
すぐにみんなは花山くんに近付く。

花山くんの優しさを知っている
クラスメイト達は笑いながら
花山くんを迎い入れた。



遠くから花山くんを見れば
目があってしまった。

花山くんは真っ直ぐ私の元に歩いて

「少し話さねェか?」

その言葉に頷いて2人で会場から出た。





外は少し肌寒く首に巻いていた
ストールを肩に掛けた。

「花山くん、元気だった?」

「あァ、名前は?」

「いつも通り元気だよ」

たわいない会話。

沈黙が怖かった。


「転入した俺に1番に
話しかけてくれたのは名前だったな」

「そうなの?」

「あァ」

パーラメントの煙草を取り出し
火を付ける花山くん。



煙を吐く花山くんに
今なら言える、そう思った。



「私ね、花山くんのこと好きだった」



煙草を吸いながら私を見る花山くん。



「…ん、名前…俺も…」



その先を聞きたくなかった。



「っ、あたし、戻るね」

花山くんの言葉を遮り足早に
会場に戻った。


会場に向かう途中トイレを
見付け中に入った。


「今更、告白なんてね…」




花山くんの言葉の続きは分かっていた。
あの時確かに私達は同じ想いだった。

でもそのあとの言葉はきっと


「俺も好きだ、でも今は…」



"結婚しているから"


言わなくても分かるよ。

花山くんの左手の薬指に光る指輪。

卒業して何年か経ったとき
耳にした話を。

"花山が結婚した"





今なら時効だと思って口にした。

「好き"だった"」

過去形にして伝えた私は狡いよね…


でも過去形にしてしまえば
お互い傷付かないと思ったんだ。


時が経っても変わらない想いは
いつまでも止まらず涙となって零れた。


涙を吸って重くなったストールに
自嘲気味に笑い、また泣いた。





END
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