一目惚れのきみへ
____________________________


花屋で働く私の店に
大柄な男の人が来店した。

店のドアを窮屈そうに屈んで入り
真っ直ぐ私を見つめ

「薔薇の花束をくれ」

それだけ言うと視線を反らす。



物凄く身体が大きくて
右頬に傷痕のある怖そうな
彼に唖然としていると
店の奥にいたおじさんに

「名前ちゃん」

そう呼ばれて私ははっと我に返った。


「どの位のサイズにしますか?」

上を見上げ悩む彼に

「プレゼントですか?」

「…見舞いだ」

その言葉に私は淡々と
薔薇を数本手に取った。


5分後
薔薇の花束が出来上がった。
私は店の外で待つ彼に声を掛けた。

「お待たせしました」

無言の彼。

「お気に召さなかったですか?」

俯きながら怖々聞くと

「上出来だ」

お褒めの言葉が降りて来て
私は嬉しくなり顔を上げた。




切れ長の瞳を細めて
優しく薔薇の花束を見る彼。

大柄で怖そうな見た目に
想像の出来ない表情を見た
私は一瞬にして恋に落ちてしまった。






彼から目が離せなくて眺めていると
バチっと目が合い
私は慌てて目を逸らした。


「これで足りるか」

手渡されたそれは1万円札で

「はいっ…あっ!お釣りを」

私が言い終わる前に
彼は立ち去ってしまった。


1万円札を握り締め店に戻ると
心配そうな顔をしたおじさんが
店の奥から出てきた。

「大丈夫だっかかい?」

「はい。見た目は怖かったけど
凄く優しい人でしたよ」

私の言葉に目を丸くするおじさん。


「あの人は有名な花山組の組長で
花山さんだよ」

「へぇー、組長か。…え?組長?」

サラッと言うおじさんの言葉に
最初こそは聞き流したが
"組長"と言う言葉に驚いた。

確かにそれっぽい格好だったけど
まさか組長だったとは…


握り締めた1万円札に気付き

「花のお金頂いたんですけど
お釣り渡す前に帰ってしまったんです」

おじさんに事情を説明すると
花代はレジに入れて残ったお金は
好きにしていいと言われ遠慮したが
エプロンのポケットに無理矢理
お釣りを入れられてしまった。


その後もしばらく上の空でずっと
花山さんのことばかり考えていた。




____________________________



花山さんが来て最初の方は
(また来てくれるかな?)
なんて期待していたけど
1週間、2週間、3週間が経っても
花山さんは姿を見せなかった。



諦めかけていたとき
ずっと待ちわびていた花山さんが
店のドアを屈んで入って来た。

嬉しくなり近付くと

「薔薇の花束をくれ」

前と同じ言葉に

「はいっ!」

と返事をする。


薔薇を手に取り花束を作ろうとしたら
前はすぐに外に出て待っていたのに
何故か私の近くで待っている花山さん。


視線が気になってドキドキしてしまい
手早く花束を作れなかった。


沈黙が怖くなって


「この前渡しそびれたお釣り返します」

あの日のお釣りを私は可愛い動物の
イラストが描かれた封筒に入れて
いつでも渡せるようにと
ポケットに入れて持ち歩いていた。

花束を作る手を一旦止めて
花山さんに向き直ると

「名前はなんだ」

いきなり聞かれ

「名前です、苗字名前」

咄嗟に答えた。


「名前か。…好きな花は」

さり気なく私の名前を呼び
好きな花を聞いてくる花山さん。


名前を呼ばれたことで
ドキドキしてしまった私は


「えっと…桃の花が好きです」

私は少し悩み白や濃いピンク色に色付く
桃の花を指でさして言うと

「その花で別に花束を作れ」

追加の注文だった。
私はすぐに薔薇の花束を作り上げ
桃の花束も作った。



「出来ました」

2つの花束を花山さんに渡すと
切れ長の瞳を細めて花束を見ていた。


「…ん」

1万円札を2枚手渡され今度はすぐに
お釣りの準備をして
急いで花山さんの元に戻った。

「お釣りと、この前のお釣りです」


封筒も一緒に手渡すと
封筒だけ手にした花山さん。


「あのっ、お釣り…」

言いかけたとき

「取っとけ」

まただ。

「ダメです。受けってください」


花山さんの手にお釣りを渡そうとしたら

「次来るときの花代だ」

と言い残し去って行った。






"次来るとき"ってことは
近いうちにまた来てくれるってこと?


思いがけない約束に頬が緩んだ。








それから2日も経たないうちに
花山さんが来て薔薇の花束と
桃の花束を抱えて
店をあとにする花山さん。

それからその姿を周りの人は
毎週みることになる。










「花山さん!」

「よう。名前」

「いつもので良いですか?」

「あァ」



私は桃の花の花束を作りながら

「花山さん、この桃の花の
花言葉知ってます?」


「知らねぇ」

少し照れながら


「"あなたに夢中"って意味です」

言い終わったあと急に
恥ずかしくなって急いで手を動かした。

チラッと花山さんを見ると
顎に片手を添えて

「そうか」

とだけ口にした。




2つの花束が出来る。

これを渡してしまえば
花山さんとの時間は終わってしまう。

「お待たせしました!」

2つ花束を渡すとなぜか
桃の花束だけ押し返された。

「気に入らなかったですか?」

いつもとは違う行動に不安になった。


「名前にやる。今の俺の気持ちだ」

渡された桃の花束を見つめ
言葉の意味を理解したら涙が零れた。


桃の花束を受け取ると


「名前、お前が好きだ」

少し顔を赤らめ
目を伏せて言う花山さん。


いきなりの告白にびっくりしたけど



「私も花山さんのことが好きです」

真っ直ぐ言えば花山さんは私を見つめ
切れ長の瞳を細め優しく笑った。

そう、私が惹かれたあの笑顔だった。

想いが通じ合った私はいつまでも
花山さんと桃の花束を交互に眺めた。





END
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -