慌てて離した手
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目が覚めて窓から空を見ると
小雨が降っていた。

朝から雨なんてちょっと憂鬱だけど
気合いを入れて身支度を整えた。


お気に入りの傘を射して歩けば
少し前に見慣れた背中。

私は嬉しくなってその背中に
声をかけた。


「花山くん、おはよ!」

「…あぁ、名前か。」

少し後ろを歩いていた私の声に
顔だけ向けて短く返事をした彼。

たったそれだけの言葉だけど
あたしには嬉しくて堪らなかった。

「今日雨だねー」

「…そうだな」

ポツリ、ポツリ話す彼を見上げながら
歩いていると
後ろから走ってきた男の人の鞄が
勢い良く背中に当たった

「わっっ!」

雨で濡れた地面は
余計に滑りやすくなっていた。

尻もちを付くような体制に
(…あぁスカート濡れちゃうな)

なんて頭で冷静になっていたら
ぐいっと腕を引っ張られ
花山くんに支えられていた。

「名前大丈夫か?」

そう聞きながらしゃがんで
顔を覗きこみながら

「滑りやすいな…」

独り言の様に呟き
私の右手をさり気なく取って
花山くんは歩き出した。


突然の事で頭が回らなかったけど
慌てて

「あっ、ありがとうっ」

少し沈黙が流れた。

「…ん。」

と目を細めながら優しく笑う
花山くんの顔を見た時

急に身体中の体温が上がったかと
錯覚するくらいに熱くなって
心臓が煩いくらいに鳴った。

これ以上花山くんと
手を繋いでいたら
心臓の音が聞こえそうな気がして


「あっ!私っ今日当番だったんだ!」


咄嗟に花山くんの手を
慌てて離した。



花山くんの

「そうか。」

と呟いた声を背中で聞きながら
私は学校まで全力疾走した。


その日1日は
先生の声なんて全く耳に入らず
花山くんに触れた右手を眺めていた。


…手を繋いでいた時間は短かったけど
自分の気持ちが伝わりそうで
慌てて手を離しちゃった…

次会った時ちゃんと
花山くんの顔見れるかな…?





END
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