君の手
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「社長ー!待ってくださいよー!」



ズンズンと前を歩く人物に
必死に声を掛ける。


「…フン」


一瞬立ち止まって横目で睨むこの男こそ
まさに今私が働いてる会社の社長。

丑嶋 馨。


前に働いていた喫茶店を辞め仕事探しを
していたときに金融業の求人を見て

(安定してそうだな)


と思った私はカウカウファイナンスの
会社に入った。


だけどその考えは甘過ぎた。


金融業だけどいざ働いてみたら
"裏"金融業だったのだ。

だからって今更辞めるわけにも
いかないし必死で仕事に
励んでいるんだけど…



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丑嶋に言われたアパートの
部屋のドアを叩く。


「…なんだよ。」

現れた男は髪もボサボサ、目は虚ろで
髭も伸ばし放題、
おまけにすっごく汚い格好をしていた。


若干その男に引きながらも


「佐竹さん、利息の回収に来ました。」

そう目の前の佐竹に告げると

「今金ない。今度でいいじゃん」

ドアを閉めようとした。


「だめです!利息はしっかり貰います!」

閉められそうなドアを
必死にこじ開け声を張った。

「だからないっって言ってんだろ!」

佐竹の威嚇にちょっと身が引けたが
社長に怒られる方が怖い!

気を引き締めて再度催促すると


「あんたもしつこいな…
そうだ。部屋の中探せばあるかも」

とドアを開け放して
部屋の奥に消えて行った。


私はその後を付いてゴミが散乱した
薄暗い部屋に吐き気を堪えながら進むと
ガシッと腕を掴まれ床に押し倒された。

(…えっ!えっ、なに?)

自分の侵されている状況に
頭が付いていかない。


「いいだろ!」

鼻息の荒くなる佐竹の顔に血の気が引く。


(叫ばなきゃっ!)


「…いやっ!」


怖くて叫びたいのに大きい声が出ない。


佐竹の手が胸に伸びた時
私は目をキツく瞑った。


「ぐぇ…ぃてぇ…」


いつまでも動かない相手と変な声。

恐る恐る目を開けると
佐竹が頭を押さえていた。

(?)

頭の中はハテナで一杯だった。


すると薄暗い部屋から腕が伸びてきた。

(オバケ…?)


動かない頭で思った瞬間
その腕は佐竹の髪を掴み後ろに引き摺った。


「いたい!」

叫ぶ佐竹。


「ナニしてンの?」

地響きとも言える声が聞こえた。


「しゃ…社長?」


一瞬私の方を見て社長は
佐竹の顔を蹴り上げた。


「利息ちゃんと払えよ!」


その声はさっき聞いた佐竹の威嚇より
何百倍も凄味があって怖かった。


「…はい」


佐竹は小さく返事をして
利息分きっちり払った。



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「…社長。ありがとうございました」


いつもの様にズンズンと
前を歩いていた社長が急に振り返り
パーカーのジッパーを下ろし
服を脱ぎ出した。

「社長?」

何をしてるのか聞こうとしたら
頭にパーカーが降ってきた。

「着とけ」

それだけ言うとまた背中を向け
前を歩く社長。


「…ありがとう、ございます」


貸してもらったパーカーを羽織り
ジッパーを上げようとするけど
なかなか上がらない。

(…手が震えてる…)


佐竹に襲われそうになったあとも
気丈に振舞ってはいたけど
やっぱり怖かった…

あの時もしも社長が来なかったらと
思ったら目の前が歪み出した。


いつまでも追いかけて来ない
名前が気になり後ろを振り向くと

手が小さく震えて
今にも泣きそうな顔をした名前がいて
俺は名前に近付いた。





俯きながら地面を見ていたら
大きな手が私の手を掴み
ジッパーから手をどかされ
首元までジッパーが上げられた。


「…名前…無理すンな」


そう言葉が降りてきた時
ぎゅっと抱き締められた。


「しゃ…ちょ…」


私は一目も気にせず
社長の胸で思いっきり泣いた。



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「落ち着いた?」

凄く優しい声にウンと頷けば
ぽんぽんと頭を撫でてくれた。


「名前行くぞ」

差し出された手は大きくて優しくて
とても暖かかった。


「名前、今度からは俺と回れ」

そう言う社長に

「社長がいたら安心です」

笑顔で言いったら口角を少しだけ上げて
笑ってくれた。





「あっ!社長の笑顔初めて見た!」

子供のようにはしゃぐ名前に

「うるせェよ」

なんて言いながら俺は
繋いでいた手を強く握った。





その二人の姿をたまたま
回収終わりの柄崎が目撃したことにより
朝まで柄崎の愚痴に付き合わされる
高田の姿があったとか、なかったとか。





END
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