怒りもだいぶおさまって、枝豆の味が、口に広がり始めたころ…。
綱手は、もちろん、ビロビロによっている。
むしろよっていなかったら驚きだ。
ため息ついても、白い眼向けても、まったく反応なし。
というより、無視されている。
あー、お酒、13本目か
この店で一人で13本飲む人はいるんだろうか。
多分史上初だろうな、世界で比べても。
…そういえば、お酒代、誰が払うんだろう…
不吉な予感が頭をよぎった。


「じいさん、酒一杯!」

「あいよ」


ドアの上の鈴が揺れて、かわいらしい音とともにはいってきたのは、白いふさふさ…というよりギザギザ…の髪のおじいさん。
でもおじいさんというにはまだ若く、おじさんというには、老けていた。
…とりあえず、なんだか不思議なふいんきをまとった人だった。
おじいさんというのは気が引けるので、ギザギザ頭さんとよぼう。
ギザギザ頭さんはカウンターに座って、豪快な笑い声でおじさんと話を始めた。


((…変わった人だな…))


そう思ってしばらく姫はそのギザギザ頭さんを観察していた。
ギザギザ頭さんの発するものが尋常ではなかった。
綱手様と同じ匂いがする。
手のごつごつや、あの首の筋肉や。
相当な戦闘経験がある、この人には。
ん…


『…………あの傷……』


一瞬、手首に切り傷が見えた。
ほんの一瞬でそれが本当なのかさえ、もう確かめようがないのだけれど、たぶんあれは十字の傷だった。
よく見ると言えばよく見るものだが、あの異様な長くて太い傷に、頭で引っ掛かるものがあった。
今までたくさんの患者を診てきた。
それこそ、道端でけがしている子や、病気ももちろん。
その中の一人なのだろうか。
必死に過去を探り始める。


((…だいぶ昔にあったような…))


おじいさんを治療したのは最近ではない。


((その時は確か綱手様が隣にいたわね))


昔だということは、まだ私が未熟だったころ。
すなわち、綱手が隣にいて、私を見てくれていた。

((……綱手様とギザギザ頭さんは友達?))

綱手とギザギザ頭さんは仲良く話していたっけ。


『!!
………あぁ!
自来也のおじ様!!』


ピンっと何かがつながって、つい叫んでしまった声に、白いギザギザの髪さんはこちらを振り返った。
うん、間違い無い。
あの間抜けそうな顔、でも優しそうなオーラをまとった…。
振り向いたギザギザ頭さんは少々目を丸くして


「姫…か?」


と、どうも頼りない返事をくれた。


『はい!
姫です!
やっぱり、自来也のおじ様だ!
どこかであった人だと思ったもの!』

「そ…そうか…、姫か。
…大きくなったのぉ」


少し戸惑いながらもこちらに来た自来也は私の頭をポンポンと叩いてくれた。
ごつごつとした大きな手のひらは、心を温めてくれた。
ほっと息をもらす。


『どうしてこんなところにいるのですか?
旅に出ているのではないのですか?』

「うむ。
旅をしとった。
じゃが、一大事があって綱手を探しとったんだ…。
なかなか見つからないと思って、ここで休んでいたんだが…
まさか、ここで姫に会うとはな」


自来也も偶然を心底驚いているようだった。
そうだろう。
綱手は常に行く道を変えていて、どこにいるのかわからない。
全く情報がないまま探しに来たのだから、うなずける。


『綱手様をですか?
何か急用でも?』

「そうだ。
姫がここにいるということは…綱手もここにいるのか?」

『はい
毎日一緒ですから。
そこで今、ビロビロによっていますよ
話し相手になるかどうか不安です』

「…やはり……姫の近くにいたか。
…助かったが………綱手も相変わらずだな」

『ここのところずっとこんな感じで…。
…今はたぶん何をはなしても通じませんよ
明日ではだめなのですか?』

「いや
そうぐずぐずしてられん」


酔いが最高潮まで達したのか、真っ赤に染まっている綱手の頬。
手元のふらふらで、どこから見ても危ない。
盃が綱手の手から離れたのを受け止めて、肩に手を添える。


『綱手様、自来也様がいらっしゃってます』

「…自来也?」


目だけを横に向ける綱手。
その目の端に、自来也がうつった。


「おぉ!
自来也じゃないか。
遠くに修行に行ってたんじゃなかったのか?」

「緊急の用事があってのぉ」


そういって、自来也は綱手の前に腰をおろした。
姫も自来也の隣に腰をおろした。
自来也が旅を中断してまで、綱手に伝えなければならなかったこと。
…姫は変な胸騒ぎがした。


「時間がないから単刀直入にいう。
木の葉から、次の火影になってくれと要請が来ている」

『!!』


自来也の言葉が頭でエコーする。
綱手様が火影に?


『自来也様!
では今の火影様は?!』

「…三代目火影様は三日前、亡くなった」

『!!』


私は一度、木の葉を訪れたことがあるそうだ。
だが、その時の記憶は全くというほど頭に残っていない。
かすかに脳裏にかするものは、やさしい笑顔と手のひら。
その主が、三代目火影と知ったのはつい最近のことだ。
心の中にどこかかすり傷をつけたかのように、チクリと痛んだ。


「……ありえないな…断る!」

『!!』


しんみりとした空気に綱手の声が凛と響く。
酔っていた目はしっかりと光がさして、その言葉に自来也の目が少しばかりみひらかれた。
姫も同じように目を開く。


「…おまえなら引き受けてくれると思ったんだがのぉ…」

「ふんっ、昔のことだろ、それは。
火影なんてクソよ。
ばか以外やりゃしないわ」


それだけ言い捨てて、賭けの上着を片手に、店を出た。


『綱手様!』


今まで見たことのない綱手の剣幕に戸惑った。
一瞬、自来也をそのままにしておいていいのかと思ったが、綱手がものすごいスピードで店を出ていくので、綱手の後に続いた。


『………あ……。
そういえばお酒代……』


綱手の無言の圧力に、姫は何も話せなかった。
そして、ちら、とお店のことを思い出した。



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