確かにさっきは、笑顔が好きだと言いましたけど。
やっぱり私はしょんぼりしたちょうどいい綱手様が大好きです…。
あれから向かったのは、綱手の行きつけのお店『朝酒』
朝酒というところにひかれて、綱手は通っているわけだ。
朝酒はいいぞ、朝酒を超すものはない!
綱手曰く、ここの店長は、朝酒の良さをよくわかっているそうだ。
この微妙なネーミングセンスをどうにかしてほしいところだが、私が言ったところで何も変わらないだろう。
『朝酒』が『昼酒』になるのが落ちかもしれない。
どちらにしても綱手はきっとここに通いつめること間違いなし。

…そして今に至る。


「やっぱり、朝の酒は最高だな!な」


朝早くの酒屋の人はけして少なくはない。
むしろここのお店の名前が『朝酒』だからだろうか。
ここに通いつめる人たちは朝によく来る。
そんなたくさんのお客さんの真ん中で、大声で叫ぶのだ。
朝からこんなにビロビロ酔う人はいない。
頬はすでにピンクに染まっている。


『ちょっと、綱手様。
迷惑になりますからやめてください』

「ん?
大丈夫だって!」


…何が?
ものを言っても変な方向に言葉が返ってくる。
返事になっていない綱手の返事に姫は白い目を向けるしかなかった。
…蛞蝓綱手姫とまでの異名を持つ人が…。
まさかみんな、こんな人だとは思っていないはず…。
もっと…


「もっと?
私にこれ以上何かを求めるのか?」

『!!
わ…わわっ!!
びっくりさせないでください!』


いきなり心をどんぴしゃり当ててしまった綱手にびっくりした私はつい叫んでしまった。


「ほら、姫だって叫んでるじゃないか」

『綱手様が叫ぶのと、私が叫ぶのは違います!
酔って叫ぶのと、そうでないのと。
ぜんぜん違うんですから!』

「じゃあ姫ものもう!
おじさん、もう一杯!」

『私はお酒は飲めません!』


反対する前におじさんはもう酒を持って来ていて、わざと音が鳴るように大げさに机に置く。
ウインクをして帰っていくおじさんは、得意げで、何とも言えない。


「誰も姫にやるなんて言ってないよ
子供が飲むもんじゃない」

『さっきと話変わってませんか?
あっ!
後ひと瓶だけってさっき言いませんでした?』

「そんなこともあったかねぇ…」


うまく姫をよけて酒を口に持っていく。
…あー世話が焼ける。
そのうち、だいぶわめいていたせいか、疲れがどっと押し寄せてきた。
もう、よっぽどの救世主が来ないと、この人をとめられない…。
もう半ば投げやりだ。
ちょっとは反抗できるようにならないと。
この人に振り回されるだけの人生になってしまう。


「…姫が犯行ねェ…」

『…すごい字になってます
私は「反抗」しますけど「犯行」はしません』

「ははははは」


…!!
って、また心読まれた!
いつもはぼけーとして、人の心を読めないのかあえて読まないのか。
全く私の心をくんでくれないあの綱手様が…!
私は『朝酒』の『おじちゃん』から譲ってもらったさやえんどうをちびちびと食べながら綱手を眺めた。
酔ってるだけで、頭にもアンテナは立っていない。
テレパシーじゃなさそうだ。
第一、綱手様に届けるための私のアンテナもない。


「…なんだい?
私の顔に何か付いているのかい?」

『いえ
…なにも』


綱手からの変な視線から逃れるように、目の前にあったさやえんどうに集中することにした。
……そういえば、このところちゃんとした朝ごはんを食べていないな。
いつも適当に盗んで、誰かからおごってもらったり。
…罪悪感、たっぷりだ。
この人にはそんな感情がないんだろうか。
あ、ないからこういうことをするのか。
親の顔が見たい。
すごくみたい。
ブルーな気分が襲ってきて、目の前でふらふらしながら酒を飲んでいる綱手に腹が立って来た。
…怒りをさやえんどうにぶつける。
少々憎しみをこめて、かみつぶした。
明日こそは、綱手様の賭けをとめなければ!
最悪の人間がここに出来上がってしまう
もう、出来上がっているのだけれど。

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