円形の火影邸のつくり。
等間隔にかけられた達筆な文字。
赤土でつくられた壁。
4階建てで、たぶん最上階が火影室だ。
妙に人気がないのは気のせいだろうか。
平和な証拠か、それとも警戒されているのか。
「姫」
すぐ近くで聞きなれた声がする。
気づかないうちにいつもの癖が出ていたらしい。
今まで訪れた土地は治安がよいとはいえないところばかりだった。
知らないうちにまず警戒するという癖がついていた。
『いえ、とても平和な里で。
正直びっくりしてたんです』
平和ボケした里だからな、綱手の声が部屋の置くに吸い込まれる。
火影室だ。
踏み込んでみて姫は拍子抜けた。
火影とはこの里の一番えらい物の代名詞であり、五大国のひとつである火の国の統率者だ。
天井や壁、床はもちろん、欠損だらけだ。
部屋はこじんまりとして、火影、すなわち綱手がすわる机だけが美しく磨かれていた。
一度金持ちの商人の家に上がり、病を治療したことがある姫は、このあまりの質素さに火影の立場を疑った。
少し部屋を見渡すと、右の本棚に巻物やら書類やらがあふれんばかりに納められている。
その隣に4つの写真が立てかけてあり、8つの目玉がこちらを見ている。
おそらく右から、初代火影、左は4代目火影だ。
「それは歴代の火影たちだ」
外の眺めを見ていたのだろう綱手がこちらを振り向いた。
強い光を持った威厳のある彼らの姿。
姫は写真の前に危うく跪きそうになった。
何とも言えない威圧感があった。
きっとすばらしい火影だったのだ、彼らは。
そして綱手様はその5人目だ。
色んな思い出があるのだろう、一つ一つ思い出しているようにも見えた。
机をひとつなでてから、綱手は椅子にゆっくり腰かけた。
綱手の目は8つ目と同じ色をした光だった。
『…火影みたい』
「みたいじゃなくて、火影だけどね」
口角を少し上げてにやりと笑った綱手を見て、姫は確信した。
綱手様はいままでの火影以上の人だと。
姫は笑った。
この里は素敵だ。
この里は力を富で示さない。
人々の笑顔は心からの笑顔だ。
『木の葉ってとってもいいところですね。
私、好きになりました』
「そりゃあ、よかったね」
私の里。
今日からここが私の家。
木の葉の里。
…なんて素敵なのかしら!
『……人』
「姫、クナイをしまいな」
乱暴にドアが開く。
ドアノブが悲鳴を上げて、半分傾いた。
だからこの部屋は傷だらけなのだ、姫は納得した。
「五代目火影に用があるってばよ!」
『…てばよ?』
全体的にオレンジを主張した、姫と背丈のあまり変わらない男の子だった。
少しせっかちそうにみえる。
足の裏についた泥を床になすりつけながら部屋に入り、磨かれた机を容赦なくたたく。
…あぁ、せっかくきれいな机なのに…。
指紋が付いた。
私になんのようだ、綱手様がたずねる。
はじめてみるに等しい真剣な綱手のまなざし。
…火影様だ。
「あのさ、あのさ。
五代目火影は医療のスペシャリストって聞いたんだ!
いますぐにでもなおしてほしい奴がいるんだよっ!」
「すまないが、私は火影の儀式やら、ご意見番のじじーやばばーに顔を見せなければならないからね。
姫、お前が行って来い」
『わかりました』
そこでキレイなブルーの目と始めて目があった。
姫はいつか見た大海を思い出した。
混じりけのないきれいな青だった。
どこまでも深い深い青。
どこからかさざ波が聞こえてきそうだった。
「…キレイな人だってば…」
彼の大きすぎるつぶやきは姫の耳にしっかりと届いた。
『あーえっと、お名前は?』
「…うずまきナルトだってばよ!」
『じゃあ、ナルト。
私を案内して』
「!!…え…でもねぇちゃん。
木の葉の病院の人たちでも治せなかった重症なんだってば」
姫は自分でもわかるほど、にやりと笑いすぎた。
それにナルトはたじろぐ。
『私を見くびってる?』
「いや!!
そんなんじゃないってば…ただ…」
ナルトは友だちが一週間も寝たきりなこと。
強力な術を食らったこと。
誰が治療しても全く回復しないことなどを話した。
「姫は私が認めるただ一人の医療忍者だ。
そこらのやつとは桁違いだぞ」
綱手もあの得意な笑みでナルトをみる。
『私は三ノ宮姫
ナルト、よろしくね』
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