ふわり…ふわり…と闇を登ってゆく。
…もしかしたら降りているのかもしれない。
いや…流れているのかも…。
明らかにおかしい状況なのに、なぜか心は冷静だった。
…というより、頭がほわーん、としている。
起きたばかりの頭。
自分がどこにいるかより、寝ていたい。
…今の状況を表すなら、そんな感じ。
そのうち、真っ暗な闇にポツポツ……。
小ぶりな雨が降ってきた。
そして、それは暗い闇に溶け込んできえる。
……。
私は……死んじゃったのかなぁ…。
さっき、綱手様の顔を見た気がするのに…。
守れなくてごめんなさいと、あやまった気がするのに…。
結局何もしてあげられなかったなぁ…。
私の役立たず。
不規則に落ちてくる、雨粒。
やわらかい布にくるまれたような、闇。
…ここは…どこなんだろう?
「…姫っ………っ」
と、いきなり闇に声が届いた。
闇が軟らかいせいか、あいかわらず、ほわーん、としている。
「っ…姫……っ……」
声はと切れ途切れだが、悲しさを帯びていた。
そして、その声が大きくなるに従って、雨はふってくる。
何がそんなに悲しいの?
誰を呼んでいるの?
…こっちにおいでよ。
そうしたら、辛さなんて忘れられるよ……。
だが、声はやまず、闇に響き渡る。
「っ…姫……」
「姫!!!」
大きな野太い声が聞こえた。
闇全体が震える。
……とたん
『ん…』
闇から一筋の光が刺しこんできた。
そして徐々に光の一点は広がってゆく。
……広がって……広がって……。
あたりが真っ白に包まれて……。
次第に、その真っ白から、緑や、青や、黄色……。
「姫!姫!
……目を覚ました!!」
そして…。
綱手がいた。
辺りを見回すと、先ほどのまぶしさはない。
そして、闇もない。
「………姫!
よかった……!」
綱手は顔を覆って泣き出した。
ほとんど初めて見る綱手の涙。
綱手の隣には自来也もいた。
『…わたし………帰ってきた?……』
突然の出来事に頭がついてゆかず、そう問うてみた。
それに、自来也は鼻をすすりながら、うん、うん、とうなずいた。
春の風が吹き抜ける。
やわらかいにおいに、ほっと、力が抜けた。
光がある。
風を感じられる。
心がある。
そうか、帰ってきた。
…わたし…いきてた…。
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