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「あっ…やっいやだっ……いざ…ああっ」

黒一色の寝室に、悲鳴混じりの嬌声が響く。普段よりも力無く、掠れた声に、臨也はごくりと喉を鳴らした。

「嫌じゃなくて、気持ちいい、で、しょ?素直になりなよ、シズちゃん」

中のしこりに当たるよう角度を変えて突けば、一瞬びくりとした後、弓形になっていた背が更に反る。
強くなる締め付けに臨也は眉をしかめ、耐えるように目を瞑る。

絶対に離しやしない、そう思い細く引き締まった身体を抱き締め、更に強く揺さぶった。






「は?今何て言ったの?」

臨也は今し方聞いた言葉が理解出来ず、パソコンから顔を上げた。仕事は途中だが、それどころではない。手早くデータを保存し、パソコンの電源を落として立ち上がる。

幾分か剣呑な瞳で相手を見据え正面に立つと、静雄は少し後退り舌打ちをした。

「だから…手前と別れたい…って言ったんだよ…」

小さな声だったが、静かな部屋にはよく響く。耐えきれなくなったかのように、そのまま静雄は俯き、黙り込んだ。


「ねえ、シズちゃん…エイプリルフールならとっくに過ぎたよ?」

臨也は肩を竦め、溜め息を吐いた。それは、今ならまだ穏便に収めてやろう、という彼なりの合図。事実、これまでも静雄が臨也に別れを切り出すことは幾度とあった。
今まではその全てが喧嘩の延長であり、所詮は勢いでの一言だから、直ぐに撤回されていたが。



けれども、静雄は顔を上げないまま、小さく首を振った。

「冗談なんかじゃ…ねえ…」

それに対し、臨也は何か言いかけ、けれど結局口を閉じたまま、徐に静雄の腕を掴んだ。

そのまま無言で、静雄を引き摺るようにして歩き出す。

「てめっ…離せっ」

何処へ連れて行かれるか察した静雄は、どうにか拘束を解こうと、暴れるが臨也の力はそれを上回り、全く緩まない。


そのまま昏い廊下を進んだ臨也は、ある部屋の扉を開けると、静雄を思い切り突き飛ばした。バランスを崩した体は容易くベッドへと沈み込む。

臨也は俯せに倒れた身体へ乗り上げると、何処からか取り出した手錠で静雄の腕をベッドヘッドへと拘束した。
静雄は本能的な恐怖に、逃れようと手錠をうるさく動かすが、全く揺るがない。腰辺りに座った臨也が、耳元へ息を吹きかけるように囁く。

「この手錠は特注品だから、いくらシズちゃんでも壊せないよ。まさか使うことになるとは思わなかったけど」

怒りを感じさせない程静かな声で話す臨也の方へと、静雄は必死で顔を向け睨みつける。

けれど臨也はそんな眼光を物ともせず、するりと愛おしそうに頬を撫でて笑った。その妖艶な笑みに静雄は恐れだけでない甘い痺れが背を震わせるのを感じた。

「俺から離れようとしたらどうなるか、しっかり身体に刻み込んであげる」

さあ、お仕置きだよ―――






「くそっ…もうっ…くうっ」

押し殺したような喘ぎ声と、淫靡な水音が部屋に響いていた。既に三本の指を美味しそうに飲み込み、言葉とは裏腹に腰を揺らす静雄の痴態に、臨也は目を細めた。

ほんのりと色付いた静雄の背中には、臨也がつけた紅い跡が散らばる。臨也の執着を表すかのような無数の跡。



常ならば、静雄は声を消そうと、自身の手で口を塞いでいるが、手錠に繋がれていてはそれも適わず、唇をきつく噛み締めていた。

それに気付いた臨也は、すかさず静雄の口内へと指を突っ込み、掻き回す。

下半身へと与える指の動きと、口内の指の動きを連動させ、静雄を攻め立てる。射精感を高められるも、決定的な刺激は与えられず、静雄は頭の中がぐちゃぐちゃになっているようだった。


「シズちゃんのここ、イキたくてヒクヒクしてるよ―――ねえ、指じゃ足りないでしょ?」

揶揄するような口調に静雄は一瞬、思考を取り戻したようだったが、直ぐにまた激しく指を動かしてやれば、翻弄され文句は喘ぎに変わった。

「あっ……いざや、いざやあっ………もっ…いざやあ………」

熱を吐き出したくて泣きながら、名を呼ぶ静雄に、我慢が出来なくなったのは臨也の方だった。

早急な手つきでベルトを外し、張り詰めた自身を取り出した。けれど直ぐには挿入せず、静雄の双丘をなぞる。
いつまでも与えられない刺激に焦れたのか、静雄が熱に浮かされたような表情で振り返る。

臨也はそんな静雄と目を合わせると、優しく微笑んだ。

「ねえ、俺のが欲しかったら誓ってよ、俺と絶対に別れないって」

過ぎた快楽に涙をぼろぼろと流しながら、それでも静雄は躊躇ったように目を瞑った。けれど、ほんの僅かに首を縦に振る。
瞬間、臨也は声も掛けず一気に静雄へと押し進めた。

「ああああっ―――」

突然の刺激に声を抑えきれなくなった静雄に口づけ、臨也は微笑った。

「愛してるよ………」







手錠を解かれ、臨也の背へと腕を回される。きつく抱き締められ、細い滑らかな肩へと静雄は顔を埋めた。

元より静雄は別れを告げれば、こうなるだろうと予測していた。臨也の自分への執着は、たった一言で消えるような脆さはない。
だから、別れを切り出したのは、どれだけ臨也が自分を求めているか確かめるための戯れ言。

"ああ、なんて幸せなんだろうか―――"

酷く浮かれた気持ちを隠しきれず、静雄の口元が微かに上がる。一瞬で掻き消えたそれは、目を瞑ったままの臨也には見えなかった。





本当に執着しているのは、どっち?







*互いに執着し合う2人を書きたかったのに、ただのヤンデレ×ヤンデレになってしまった…




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