あの子はテニス部のマネージャーとだけあって、とても華やかな顔立ちをしていて、明るくて優しい。まさに欠点なんかないぐらい。
そんな人間って今時信じられないし、絶対裏があると思う。
私は、そう、心が汚い人間だから。だから、きっとあの子みたいにはなれない。
容姿も並みの並。大した特技さえない。至って普通の人間である。普通が一番とか言うけれど、あの子を見たら何度も自分を比べてしまうし、その度に暗い気持ちになる。


同じクラスの幸村くんとはとても話が合う。取り柄のない私でも植物のことには詳しかったからだ。たまたま美化委員の仕事として、学校の花壇の手入れをしていたら、幸村くんがやってきて気さくに話しかけてくれたことを今でも覚えている。もしかしたら打算的だと思う人もいるかもしれないが、本当にたまたまだった。
まさか、幸村くんがガーデニングが趣味だとは思わなかったし。美化委員だとも知らなかった。

毎週のように幸村くんと話しているうちにいつしか恋心を抱くようになった。
だけれど、いつもチラつくのはあの子の姿。幸村くんの横で楽しそうに話している姿は、絵になるぐらいだった。
きっと、幸村くんの横にお似合いなのは、あの子のような子だ。私なんてとてもじゃない。身の程知らずにも程がある。それに噂であの子は幸村くんのことが好きなんだと聞いたことがある。
噂は分からないけれど、彼女の顔を見たら分かる。幸村くんの横にいる彼女ら幸せそうで幸村くんがよっぽど好きなんだろうな、と。
到底、幸村くんに告白なんて出来る訳がなく、時間だけが過ぎていった。

いつしか、私は花壇に立ち寄らなくなった。会うたびに好きになってしまうなら、もう関わらない方が良い。そもそも、共通の趣味が無かったらなんの縁も無かった人だ。雲の上の人であっただろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか午後のホームルームも終わっていて、日が沈みかけていた。教室は私以外いない。改めて見ると教室って広い。いつも40人近くの人間が収まっていて、狭く見えるけれど、私一人しかいない、教室は広すぎてなんだか気持ちまで寒かった。暖房をつけようと椅子から立ち上がった時に、ちょうど教室の扉がガラリと空いて誰だよと思ってそちらを見ると幸村くんが立っていた。

「久しぶりだね、みょうじさん」

『あ…幸村くん』

どうして彼がここにいるのだろう。彼はテニス部のユニフォームを身につけていて、いつも見ていたのは制服姿の彼だったから、新鮮だった。制服姿の彼はまさに優等生で柔らかい雰囲気というか儚げな印象があっだったが、ユニフォーム姿の彼は男らしくテニス部の部長という風格と力強さを表していた。
それにしても、何故、部活中の彼がここに来たのだろう。しかも彼はC組だ。

「君に言いたいことがあるんだ」

『改まってどうしたの』

彼は綺麗に笑った。ああ、私が見ていたいつもの幸村くんだ。私も思わず笑い返す。部活を抜け出して来たのだから、よっぽど重要なことではないだろうか。幸村くんは私をじっと見つめる。いきなり真剣な表情になったから、私はどきり、とした。



「俺はみょうじさんが好きだ」

『うそ…だって、幸村くんはあのマネージャーの子と……』

「ライバルのなまえのことかい?ライバルのなまえには何度か相談に乗ってもらったよ。告白するなら早くしてこいってさ。ライバルのなまえが俺のこと好きだっていう噂が流れたけれど、あれは根も葉もない噂だよ」


そんなはずはない。あの子が幸村くんを見つめる時の顔は、まさに恋する女の子の顔で。
…幸村くんが私のことを相談するたびに、あの子はどれほど苦しかったのだろう。それを考えると涙が出そうになった。
ああ、あの子には敵わない。心までもあの子に負けたというのが、みじめで仕方がない。
私はあの子に嫉妬していたのに、あの子は自分の気持ちを押し殺して幸村くんを後押ししたんだ。
大好きな人に告白されて嬉しいはずなのに、あの子の心情を考えるととても喜べなかった。
だけれど、私は幸村くんの想いに応えたい。だって私も幸村くんのことがずっとずっと好きだったから。


『私も幸村くんが大好きです』


やっと伝えられた想い。
ごめんなさい、ありがとう。




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