「みょうじさん、ちょっといいですか?」 光の部活が終わるのを待って1人で教室で本を読んでいたら、あの子が話しかけてきた。昨日の、雨の時の、光を好きであろう子が。 『どうしたの?』 「あの、みょうじさんって財前くんと仲が良いよね?付き合ってるの?」 『え?いやいや、仲が良いのは家族みたいなものだから。まさか、付き合ったりしてないよ』 ここで、同じ一つ屋根の下で共に暮らしてます!なんて言ったらややこしくなるから、伏せておくことにした。 「良かった!私ね、財前くんのことが好きなの」 うん、知ってる。たぶん好き好きオーラが出てるから、周りはわかってると思う。てか鋭い光のことだ。本人も気づいているかもしれない。あー、そうだろうねと話を流そうとしたが、 「あの、良かったら協力してくれないかな」 『え…』 すごい積極的な子だとびっくりした。光のファンは控えめな子が多いし、今まで頼まれたとしてもラブレターを渡して下さい、程度のもの。この子もそのタイプだと思っていた。そこには本気ではなく、ただ想いを伝えられたら、なんてものしか感じられなかった。あとは、当たって砕けろ!みたいな感じで直接告白する子が多い。 「だめ、かな…?」 駄目だ。私、こう、ものすごく女の子らしい女の子は苦手みたいだ。 ものすごく可愛い。私には絶対真似出来ないぐらい可愛い。こんな子が来たら大抵の男はノックアウトされるのではないだろうか。しかも、たぶんこの子は自分をよく分かっているのだと思う。 『いや、良いけど、光は今は彼女とかいらないって言ってたんだけど…』 「それでも、好きだから頑張りたいの」 押しが強いな。うーん、どうしたものか…と内心困っていると、ガラリと教室の扉が開いて、ご本人様登場と言わんばかりのグッドタイミングで光が顔を覗かせた。 「なまえ、帰るで」 『あ、ひか「財前くん、部活お疲れ様!一緒に帰らない?」 光は私の言葉を遮った、この子に明らか不機嫌な顔をして、アイコンタクトで「誰やねん、こいつ」と言わんばかりの顔をする。ええええ。昨日会ったよね。 「ごめんけど、俺、なまえと帰るんやけど」 「みょうじさんはちょっと学校で用事があるんだよね」 『ええ…と、あ、うん…遅くなりそうだし、先に帰ってて大丈夫だよ』 「…ほな、俺は待っとくわ」 女の子は私の目をガン見してくる。分かったよ、協力すればいいんでしょう。 『光、本当に時間掛かるし、部活で疲れたでしょ。それに、この子を送ってってあげて欲しいの。ほらこんな時間帯だし』 光はなんでやねんと言わんばかりに私を一瞬睨むと、「ほな、帰るで」と言って教室から出て行った。 女の子は嬉しそうにその後に続く。 教室に残された私は、はあぁと思わず大きなため息をついてしまった。 光と一緒に帰りたかったなー 今出て行ってもおかしいから、教室の窓からグラウンドを見下ろす。他の部活も早々に切り上げたようで、グラウンドは静寂な空気に包まれていた。 しばらく見下ろしていると、早歩きの光と、あの子が見えた。 あの子は一生懸命、光に話しかけている姿が印象的だった。あー、私も誰かを好きになりたいな。 |