泡沫花火 | ナノ



任務の帰り道、やたらと人が多いと思ったらどうやら近くで祭りが催されているらしい。浴衣を着た女たちや色とりどりの提灯が街を彩っていた。

「先輩、お祭りですよお祭り!賑やかでいいですね〜!」
「浮かれてんなよ、トビ。まぁお前の仮面も、祭りの会場でなら目立たなくていいかもな、うん」

スタスタと人の波をすり抜けながら歩くデイダラの後を、トビは左右に並ぶ屋台をキョロキョロと眺めながら着いて行く。
街を抜けてお囃子が聞こえなくなるまでしばらく歩くと、街が一望できる小高い丘に着いた。

「街を上から眺めるってのもいいもんですね。お祭りのところだけあんなに鮮やかですよ」

トビがおもむろに地面に腰を下ろしながら言った。

「オイ、なに座ってんだ、さっさと帰ー」

デイダラが座り込むトビに言い放つ前に、空がパッと明るく色づいた。トビの方を向いていたデイダラが目線を移すと、大きな炸裂音と共に空に花が咲いた。しかし花は次の瞬間には煌めきながら夏の夜空へ溶けて消えていった。
儚く散る一瞬の美。これはまるでー

「先輩の芸術みたいですね」

とトビが仮面の奥から空を見上げながら言った。

「先輩、花火好きでしょ?」
「…アートだからな、うん」

デイダラは、昔サソリと花火を見た時のことを思い出していた。ちょうど今と同じように任務の帰り道でのことだった。二人が林の中を歩いていると、遠くから爆発音が聞こえた。

「…なんだ?」
「この音は…きっと花火だ!行こうぜ旦那ァ!」
「なっ、おい、デイダラ!」

デイダラは粘土で大きな鳥を形作り、サソリの手を引っ張って共に飛び乗った。間も無く鳥は大きく羽ばたき、空中へと舞い上がる。
木々を越えると、墨で塗りつぶしたかのような真っ黒な空が広がった。遠方に目をやると、煙が薄っすらと漂っている。

「チィ…なんでオレが…」
「あの煙が花火の証拠だ!もう一発くるかな?うん」

サソリがデイダラの顔をチラと見ると、デイダラは子どものように目を輝かせて次の花火を今か今かと待っていた。永遠の美を謳うサソリにとって、一瞬で消えてしまう花火には惹かれるものは無かった。

(こんなもののどこがいいんだか…オレには理解できねぇ)

そんなことを思っていると、目の前のデイダラの表情がぱぁっと明るくなり、そして声を上げた。

「きたぞー!うん!」

サソリが空を見遣ると、ひゅるる、と光の玉が尾を引きながら空を昇っていき、フッと消えたかと思うと先程と同じ爆発音と共に大きく色鮮やかな花火が広がった。そして一瞬にして雫が零れ落ちるようにして消えていった。

「うーん、うんうん!これぞ一瞬の美!芸術は爆発だ!」

デイダラは感嘆の声を上げた。すると次々と小さな花火が打ち上がっていった。ふとサソリを横目で見た。サソリは黙って花火を見上げている。サソリの顔が花火のカラフルな光によって照らされ、硝子玉の目はきらきらと煌めいていた。デイダラはその美しい横顔に見惚れてしまっていた。
デイダラの視線を感じてか、サソリがデイダラの方を向く。

「どうした、お前の好きな花火だろう?見ねェのか?」

突然目が合ってデイダラの心臓が小さく跳ねた。正面から見てもサソリはやはり美しかった。
気まずくて慌てて不自然に目を逸らす。顔が赤くなっているかもしれないが、それは花火の光が隠してくれると思った。心臓は大きく脈打ってはいたが。
花火の音をバックに二人の間に沈黙が流れた。

「…オイ」

沈黙を破ったのはサソリだった。サソリは、僅かに振り向こうとしたデイダラの外套を掴みデイダラを自分の方へ引き寄せた。そして自分の唇をデイダラの唇に押し当てた。

「っ…だ、旦那!?」

花火の光でも隠せないくらい顔が紅潮していくのがわかる。頭が真っ白になって危うくチャクラが乱れるところだった。

「隙だらけだぜ、デイダラ」

低く艶っぽい声でサソリが囁いた。してやったりと目を細め悪戯っぽく口角を吊り上げる。デイダラにはもう花火の炸裂音は聞こえなくなっていた。

「なにアホ面してんだ、もう帰るぞ」
「あ…ああ……ってアホ面ってなんだよ!うん!」

ククッとサソリが小さく笑うのが聞こえたような気がした。やはりこの男には敵わないと、デイダラは鳥を操りながら思ったのであった。


「先輩、黙っちゃってどうしたんですか?いつもの芸術トークはしないんですか?」

黙ったまま真顔で花火を見つめるデイダラに違和感を感じたトビが口を開いた。

「…昔のことを思い出してた。うん」
「それって、サソリさんのことですか?」
「……」

デイダラは答えなかったがそれが答えだった。するとトビがそれまで座っていた場所を離れ、膝を抱えるデイダラの隣にやってきて腰を下ろした。

「花火、綺麗ですね」
「…ああ」
「先輩も綺麗ですよ」
「…は?」

振り向くとわけのわからないことを言う奇怪な仮面がデイダラの目の前にあった。その威圧感にデイダラは少し後退る。

「デイダラ先輩」
「なんだ」
「僕、先輩がサソリさんのこと忘れられなくても構わないです」
「?」

トビの態度はいつもと明らかに違っていた。こんな真剣な物言いをする姿は初めて見る。

「トビ…?オイどうしたん…」
「先輩のことが好きです」

一瞬の沈黙の後、ドンと大きな音と共に花火が上がった。色とりどりの光が二人を照らし出した。

「デイダラ先輩がサソリさんのことを今でも好きなのは知ってます。サソリさんの代わりでも穴埋めでもいいですから、僕のこと好きになってくれたら僕がきっと先輩を楽しくするし、芸術トークにも付き合うし、誰を殺しに行くのも手伝うし」
「トビ」
「はい?」
「お前は旦那の代わりにはならねぇよ、うん」

デイダラは目線を花火に戻した。

「お前はお前だ。旦那の代わりでも穴埋めでもねェ。」

「旦那のこと忘れる気はねェけど、お前が旦那の後釜になることを認められないほど、オイラもガキじゃない、うん。今はお前が、オイラの隣にいて、一緒に花火を眺めてるんだ」

デイダラはトビのことを嫌いではなかった。サソリが死んで傷心していたデイダラがここまで回復できたのは、底抜けに明るいトビがそばにいたからだった。その態度が素なのか意図的なのかはわからないが、このお調子者はデイダラを悲しみから救い出した。今ではデイダラの心の中にはサソリとは別の場所に、トビがいる。

「…ありがとうな、トビ」
「えっ、先輩、それって…OKってことですか!?じゃあ今から僕たち恋人同士ってワケですね!?やった〜〜!では先輩、早速恋人らしいこと、しましょうよ〜!!」

すっかりいつもの調子に戻ったトビは、ペラペラと早口で喋りながら腕を広げデイダラに迫った。迫りくる面をデイダラは手で押さえつけなんとか制止する。

「そんなつもりで言ったんじゃねーよ!調子に乗んな!うん!」
「んもぅ先輩照れちゃってー!そんなところもカワイイですけど!」
「離れろってんだ!お前後でアートすんぞ!うん!」

その頃、最後の花火が上がった。これまでのどの花火よりも大きく、色鮮やかな美しい花を咲かせ、煌めく雫となって消えた。
すっかり静かになった空に、花火とは違う爆発音が響いたのを街の人々が聞いたとか聞いていないとか。









NARUTOで初小説でした…
言わなくてもわかると思いますが元ネタはあのEDの歌です。あれはサソデイ前提のトビデイと解釈するととても美味しいんです…
でもデイダラちゃんは旦那のことを忘れようとか嫌いになれたらいいのにとかどうして出会ってしまったんだろうとかは思わない気がするんですよね…
デイダラちゃんには旦那との思い出をずっと大切にして欲しいな!



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