夢か現か | ナノ



「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、世話をかけたな」

飲み屋の亭主に心配されながら、扉間は兄の柱間を担いで店を後にした。完全に出来上がってしまった柱間は夢と現実の狭間にいるようで、時々意味不明なことを譫言のように口にしていた。その足元は覚束ず、扉間にもたれ掛かるようにして足を引き摺っていた。

「まったく…里の長にもなろう者が、こんなことでは示しがつかぬぞ…」

木ノ葉隠れの里は昼間とは異なる夜の顔を見せていた。里を走り回っていた子供たちはこの時間にはもうおらず、代わりに大人たちが自分の時間を楽しんでいる。こんな時間でも人通りは絶えず、この場所の治安がいかに良いかを示しているようだった。少し前までは戦乱の世だったなど嘘のように、平和な時間が流れていることを実感させられる。

扉間は明るい夜道を柱間を引き摺りながら歩んでいった。そして千手の邸へと到着すると一族の者たちが出迎えてくれた。しかし兄のこのようなふしだらな姿はあまり仲間内にも晒したくなかった扉間は、一人で兄の介抱をすると言い兄の寝室へと消えて行った。

薄暗い寝室には既に布団が敷かれていた。一族の誰かが気を効かせたのだろう。有難くその布団の上に柱間を寝かせた。呆けた顔で「うーん」と譫言を漏らす柱間に一族を束ねる長の面影は無かった。元からそこまで威厳のある風貌というわけでもないのだが。

「…兄者、いつまで寝ぼけているつもりだ」

扉間が上から声をかけるが柱間の様子は変わらない。はぁ、と溜息をついて諦めた扉間は柱間の隣に腰を降ろした。
面倒だからこのまま寝かせてしまおうと扉間は思い至った。寝やすいように帯を緩めてやろうと柱間の上体を起こし、締められている帯に手をかけた。すると柱間が扉間の手を掴んできた。

「兄者、起きーー」
「……マダラ…」

柱間の口から発せられたその名に耳を疑ったが、今確かに目の前にいる兄はマダラと言った。相変わらず酔って寝ぼけている兄、柱間はあろうことか弟である扉間をマダラと間違えているのだ。

「…」

ふと扉間はこの大馬鹿な兄の顔面に水遁の術を喰らわせて目を覚ましてやろうかと考えた。そして印を組む為に掴まれた手を振り解こうとした時

「…お前からとは…珍しいな…」

扉間は目を見開いた。
自分のことをマダラだと思っている兄に言われたその言葉の意味を理解できない扉間ではなかった。

扉間は柱間とマダラが懇意な間柄にあることは知っていた。そして二人が肉体的関係にあることも。感知タイプの扉間は夜中に二人が一つの部屋にいること、そしてその後の二人のチャクラの乱れから全てを悟っていた。

その時柱間が寝ぼけたまま掴んでいた扉間の腕を引っ張り自分の方へ引き寄せた。油断していた扉間はあっさりと柱間の腕の中に収まってしまった。そのまま背中に腕を回される。慌てて脱出を試みるが、酔ってはいても流石は千手一族の頂点にして金剛力の持ち主。ぐっと腕に力を込められてしまっては扉間にはどうすることもできなかった。

「くっ…」
「逃げんでもよいぞ…マダラ」

もがく扉間を窘めるように柱間が耳元で囁く。長年共に生きてきた兄の聞いたことのないような熱のこもった声に全身が総毛立った。呼ばれた名は自分のものではなくても、その声は扉間の頭の中を木霊し、抵抗することを忘れさせた。
大人しくなったことに気分を良くした柱間は、扉間の首筋に口付けを落とした。突然のことに肩が大きく跳ねた。

「!!…あ、にじゃ」
「お前の反応は初々しくて可愛らしいの…」

そしてそのまま柱間が顔の方に唇を寄せてきた。扉間は咄嗟に顔を背けてかわした。

「マダラ…今更…接吻ぐらいで…恥ずかしがらずとも…」

柱間がその名を口にする度扉間の胸は締め付けられた。兄は弟である自分を恋人と間違えて迫っている。自分に向けられた欲望ではないのだと分かっていた。

しかし扉間は兄の柱間に兄弟以上の感情を抱いていた。幼い頃、柱間は唯一生き残った自分を必ず守ると約束してくれた。扉間も柱間の為に決して死なないと心に誓った。果てしなく続いていた戦乱の世の中でお互いがお互いの為に存在していたあの頃から扉間は兄に特別な思いを寄せていた。兄弟な上男同士、叶う恋ではないと理解していたし思いを告げる気もなかった。ただそばにいるだけでよかったのだ。あの頃のまま、変わらずに。

だがマダラという存在が、柱間をあの頃から変えてしまった。柱間の中でマダラの存在が日に日に大きくなるのを扉間は感じていた。敵対し命懸けで戦ってもなお柱間のマダラへの思いは消えなかった。マダラは柱間を殺す気で戦い、ついには自害か弟を殺すかの二択を迫った。それなのにマダラが今、扉間がどんなに欲しくても望むことすら許されなかったものを手に入れている現実が、扉間を苦しめた。

今、柱間は自分とマダラを間違えている。その事実自体は釈然としないが、このままならかつて望んでいたものが手に入るのではないか…そんな狡い考えが先程から脳裏をよぎっていた。

「マダラ…」

柱間が再び顔を寄せて来る。扉間は悩んだ。
「こんな機会はもう二度とないかもしれないぞ。間違えている兄者が悪いのだ。お前は何も悪くない」
と悪魔が囁いているようだった。続けて悪魔は言う。
「マダラとしてでも、兄者から向けられた情欲を、受け入れたいと思っているんだろう?受け入れてしまえ。一度くらいいいじゃないか。今まで苦しんだじゃないか」

そうだ、間違えている兄者が悪い。オレはずっと我慢してきたのにこの仕打ちだ。一度くらい、夢を見てもいいではないか…

今度は顔を背けなかった。扉間は正面から柱間の口付けを受け入れた。初めての感触に戸惑う扉間をよそに柱間は舌で唇を割ってきた。されるがままの扉間の口内に熱い舌が侵入し、舌に絡みつく。互いの唾液が混ざるような濃厚な口付けを兄にされていると思うと扉間の頭は真っ白になり代わりに頬は羞恥で真っ赤に染まった。

「ふっ…んんぅ…」

心臓がばくばくと暴れ、呼吸もままならなかった。それでも柱間の深い口付けは続いた。旨いものをじっくり味わうかのように角度を変えては食らいついた。扉間はなんとか付いて行こうと必死だった。そしていつしか腕を柱間の首に回し自ら舌を絡めていた。兄の唇の感触を脳裏に焼き付けるように積極的に己の唇をそこに押し当てた。扉間の表情はすっかり蕩けきっていて、柱間との口付けに陶酔していた。

すると柱間は、恍然としている扉間の浴衣の衿元から手を差し込み脇腹を撫でた。

「!?」

柱間の手が扉間の脇腹から胸へと滑り、やがて乳首へと辿り着く。柱間はそこを指の腹でコリコリと弄る。次第にその突起は硬くなりピンと立った。

「あっ、あ…」

口付けから変わって今度は胸への刺激に意識が集中する。扉間はそこを弄られてここまで感じるとは思わなかった。未知の快感に体が震えるのは触れる手が兄のものだからだろうか。

「ふ…マダラ…気持ち良いか」

そう言って今度は扉間の下半身に手を伸ばした。そこは不自然に膨らみ浴衣の裾を僅かに押し上げていた。柱間がそこに触れた瞬間扉間は大きく跳ねた。

「あに、じゃ…そこは…っ」
「いいだろう…?それに…オレももうこんなだ…」

柱間が自分の浴衣の裾を左右へ押し分けると、膨らんだ下帯が見えた。扉間はゴクリと生唾を呑み込んだ。これから起こることを想像すると更に体が熱を持った。

「久しぶりだからの…優しくしないとな…」

言葉通り柱間は優しい手つきで扉間の下帯を取り払う。露わになった陰茎が冷んやりとした空気に触れて扉間はぶるりと震えた。そしてそこを見ている柱間の目線に気が付くと猛烈な羞恥心に襲われ顔が湯気が出そうなほどに上気した。
柱間は扉間の陰茎に手を伸ばし、優しく包み込んだ。やんわりと握り上下に擦りあげた。

「うぁ…あ…」

自分でもそう滅多に触らない敏感なところを兄に触られているという事実が扉間を一層昂らせた。扉間の陰茎はどんどん質量を増し大きく、硬くなっていく。

「あっ…ああ…あ、も、出る…っ」
「良いぞ、ここに出せ…」

耳元で囁かれたことが引き金となり扉間は呆気なく達してしまった。白濁が柱間の手のひらに纏わり付いている。

「はぁ…はぁ…す、すまない…」
「謝るな…それよりお前が頑張るのはこれからぞ…?」

柱間は扉間を押し倒した。扉間の浴衣は捲れ下半身が露わになってしまった。柱間の体によって足は左右に開かされている。自分に覆い被さる兄の顔を扉間は虚ろな目で見上げていた。今の兄は見慣れた朗らかな顔ではなく、欲望に素直な雄の顔をしていた。兄が自分に向けてそんな顔をする日が来るとは思ってもみなかった。たとえそれが寝ぼけた上での勘違いだとしても。そう思うと無性に泣けてきた。

そんな扉間をよそに柱間は慣れた手つきで扉間の後孔を探り当て、先ほど手のひらに吐き出された精液を塗りたくった。

「ひっ!」

誰にも触れさせたことのない場所へのぬるぬるとした感触に思わず声を上げた。緊張して知らず知らずのうちに扉間の内腿に力が入る。これから行われることはわかっていた。

「よしマダラ…まずは少し慣らそうな…」

柱間は優しく声をかけるとその秘められた孔に指を挿した。ズブズブと奥へ侵入してくる指に扉間は奇妙な感覚を覚えた。柱間は指の数を増やしていく。孔が拡げられる感覚に目をきつく閉じて耐える。そして孔の中で指が蠢き内壁をも押し広げられる。

「う…」

初めての感覚に戸惑い呻き声を漏らす。すると柱間は指を引き抜き、扉間に顔を寄せ唇に軽く口付けを落とした。

「それでは…挿れるぞ…」

柱間の逸物が扉間の後孔に充てがわれる。塗られた精液が潤滑剤となってするすると侵入してくる。しかし立派な柱間のそれが体内に入ってくるという異物感と内臓が押し上げられるような感覚に耐えることは扉間にとって苦行だった。

「うぐ…っ」

しかしある一点を柱間の先端が突いた時、その苦しみは途端に快感へ昇華した。

「うぁっ!?あ、ああ、そこっ…!」
「そうかマダラはここが良いのか…」

扉間の感じるところを見つけた柱間は幼い頃のように無邪気な顔をして笑った。しかしその笑顔とは対照的に腰の動きには大人の色気があった。普通に生活をしていて兄に色気を感じることはそうはなかったが、情事の際にはこんなに色っぽくなるのかと驚いてしまった。
柱間は扉間の前立腺を攻め続けた。そこを擦られる度扉間は出したこともないような嬌声を上げる。その縋るような声を耳にして柱間が更に興奮し動きを早めた。互いの肉がぶつかる音と卑猥な水音、そして扉間の喘ぎ声が耳を犯す。

「ああっあ、あにじゃ…っ!」
「う…そろそろ…出す…ぞ…っ」

一層腰の動きを激しくする柱間に体を揺さぶられる。扉間は背を弓なりにしならせ、声にならない叫び声を上げ二度目の射精をし、同時に柱間も扉間の腰をぐっと掴みそのまま吐精した。兄弟は同時に果てたのだった。



「ん……」

柱間が目を開けると、そこは飲み屋ではなく己の寝室だった。まだ日の出前らしく、部屋は薄暗い。障子の向こうの僅かな明るみだけが頼りだ。空気は澄んでいるがどうにも体中が汗でべとべとで気持ちの良い目覚めではなかった。

ふと横に目をやると、扉間が隣で寝息を立てていた。何故隣で扉間が寝ているのか…と疑問だったが、飲み屋で飲んでいた途中からの記憶がないことを考えると、扉間が酔い潰れた自分をここまで運んで介抱し、扉間もそのままここで寝てしまったのだろうと推測できた。

扉間の寝顔をよくよく眺めてみると、いつもの鋭い目つきや厳かな表情も今は影を潜めている。そのあどけない寝顔は昔布団を並べて寝ていた頃のことを思い出させた。
柱間が眠る扉間の頬に手をやろうとしたその時、閉ざされた紅い瞳が開かれた。

「ぬお!?扉間…」
「あっ、兄者…」

勢いよく上半身を起こした扉間に柱間は驚く。扉間はばつが悪そうに顔を伏せた。

「あ…扉間、昨晩は…迷惑をかけたようだな…」
「え…」

心臓がどきりとした。扉間はあの後、重い身体に鞭打ち情事の痕跡を残さぬように必死に後始末をしたのだった。しかし疲れ果てそのまま兄の隣で寝てしまったのは誤算だったが。

「飲み屋で酔い潰れてしまったようだの…それからの記憶がないのぞ…お前がここまで運んで、介抱してくれたんだろう?」
「あ…ああ…まぁな…」

やはり昨晩の兄弟間の禁忌を、柱間は覚えていないし気付いてもいなかった。覚えていたらそれこそ大問題なのだが、扉間は僅かに心寂しさを感じてしまった。

「…扉間?どうかしたか?」
「いや…なんでもない」

いけない、兄者に憂心を抱かれるような表情をしてしまったか…
扉間は普段通りの自分に戻ろうと意識して鋭い目つきを作った。そして目の前で眉を下げている兄に向かっていつものように説教じみたセリフを吐こうとした。

「…だが兄者、一族の…いや、いずれ里の長になる男が人前で酔い潰れて醜態を晒すのはいただけないな…」
「う…それは本当にすまなかった…以後気をつけようぞ…」
「ああ…頼むぞ兄者」

柱間が首を垂れて落ち込むのも見慣れたものだった。そんな柱間を一目して扉間は立ち上がった。腰を動かした時に鈍い痛みが走ったが顔には出さないように耐える。

「…オレも兄者の部屋でそのまま寝てしまって悪かったな…もう自分の部屋に戻る…」

未だ項垂れている兄に背を向け襖の方へ向かおうとした時、浴衣の裾が引っ張られた。振り向くと柱間が手を伸ばし裾を掴んでいる。そして顔は扉間を見上げていた。

「…なんだ兄者」
「はは…扉間、時にはこうして共に寝るのもよかろう?」
「!?」

やはり本当は気付いていたのか?扉間の体は凍りついたように動けなくなってしまう。

「…どういうことだ?」
「いやぁ、お前の寝顔を見ていたら子供の頃を思い出してな!なんだか懐かしくてな…たまには兄弟枕を並べるのも良いものだと思っての」

柔らかい笑顔で柱間は言った。その言葉は扉間の予想していたものとは違っていて、こればかりは能天気な兄に感謝しなくてはと扉間は内心ほっとした。

「…兄者がどうしてもと言うなら…オレは構わんが」
「どうしてもだ!」
「…そうか」

無邪気な兄にふ…と頬を緩ませる。もしも昨晩のことを覚えていたらきっとこんな顔はできまい。今後の兄弟関係にも支障を来すことになってしまっただろう。これで良い、と扉間は昨晩の出来事を心の奥底にしまい込むことにした。




扉間の出て行った後をしばらく見つめていた柱間ははて、と首を傾げた。

「…昨晩はやたらとリアルな夢を見た…」

マダラを抱く夢。しかし夢にしてはあまりにもリアルすぎた。感触や熱までまるで現実のように感じたのだ。

「しかし…」

ただ、声が、そして自分を呼ぶ呼び方が違ったような気がした。朧げな記憶でははっきりとはしないが、いつものマダラのように"柱間"とは呼ばれなかったように感じた。自分が抱いていたのはマダラではないのか?しかし考えたところで答えは見つからなかった。

「まったく…扉間の寝ている隣でオレはなんて夢を…」

過度な酔いとは恐ろしいものだと改めて自覚した柱間は、ベトベトの体を清めるため、風呂場へと向かうのだった。








こんな形でしか体を重ねられない兄弟もいいかなと…
ただ扉間が可哀想なだけですけど!



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