痛み止め | ナノ



暁にデイダラを迎えてから数ヶ月が経った。サソリは何度かデイダラと共に任務をこなしてきたが、毎度その戦闘スタイルにはヒヤヒヤさせられていた。
好戦的で無鉄砲で、所構わず爆発させ、毎回傷をつくって帰ってきた。幼いデイダラはまだ効率的な戦い方を知らなかった。
サソリは初めてデイダラと出会った際のイタチとの戦いを見て、「早死にするタイプ」だと思ったが、これではそのうち本当に早死にしかねない。デイダラの傷を治療しながら、サソリはどうしたものかと考えていた。


ある日の任務。簡単な任務だと高を括っていたデイダラは、一人で敵の陣地へ乗り込んで行ったが、思わぬ敵の反撃に起爆粘土を誤爆させ自ら爆発を食らってしまい、その痛みと衝撃に怯んだところを狙われた。
それまで敵から見えないところでデイダラを見守っていたサソリが異変に気付いた。サソリは咄嗟に三代目風影の傀儡を使い、今にもデイダラに斬りかかろうとする敵を一瞬にして殺した。
爆発を食らった肩から血を流すデイダラの前に敵は倒れた。爆発による煙が充満している中、三代目風影の傀儡の後ろからサソリが現れた。

「だん…」
「その傷じゃもうお前は使えないな…オレが仕留めてくるからお前は外に出て隠れていろ」
「…うん」

デイダラはよろよろと立ち上がり、ガラスの割れた窓から飛び降りた。建物の周囲に生えている木々の影に姿を隠したのを確認すると、サソリは任務を続行すべく移動を開始した。



デイダラが木陰に身を潜めていくらか時間が経った。その間火傷を負った肩を押さえつつサソリが一人で戦っている城を見つめていた。自分の起爆粘土の爆発のせいで所々から煙が立っている。

「旦那…」
「呼んだか」

突然背後から聞こえた声に、デイダラの肩は大きく跳ねた。

「なに驚いてやがる」

クク…とサソリに笑われて一瞬ムッとしたが、肩の傷が痛むことを思い出して顔をしかめた。

「ぐ…」
「…痛むのか」

サソリが傷とデイダラの顔を交互に見て言った。その火傷の傷は赤く爛れて血が流れていた。大怪我というわけではないが、放っておいたら感染症にもなりかねない。今後の任務にも支障をきたすことになっては困る。

「ったく…治療してやるからさっさと帰るぞ」

サソリに促され、デイダラが起爆粘土で作った鳥に二人で乗りアジトへと戻って行った。



この件でサソリは本格的にデイダラをどうにかしなくてはと思うようになった。何故あんなにもデイダラは危なっかしいのか。それを考えた際行き着いたのは、デイダラが痛みを感じる人間だから、ということだった。
自分はとうの昔に「痛み」という感覚は捨てた。そのため今までの戦闘でも危ない目に遭うことはなかった。今回デイダラは自ら爆発を食らい怪我をし、怯んだ瞬間に命を狙われた。そうでなくとも、敵との戦いの中で攻撃を食らうこともあるだろう。その怪我で動きが鈍れば当然死のリスクは高くなる。

つまり痛みを感じるから危険に身を晒すことになる。サソリのなかでそう結論が出た。
そこでどうするか。一番簡単なのはデイダラを痛みを感じない傀儡の体にしてしまうことだったが、勿論デイダラには嫌がられた。しかしこれは想定内だったのでサソリは次の案を考えた。そして、あることを思いついたサソリは早速部屋に篭り作業を開始した。


長いこと部屋に篭っているサソリを気にして、デイダラはサソリの元を訪ねた。

「旦那…入ってもいいかい?」
「…ああ」

デイダラがドアを開け中に入ると、猫背で机に向かうサソリが目に入った。

「長いこと一人でなにやってんだ、うん?」
「…ちょうど出来上がったところだ」

そう言うとサソリはくるりと振り向き、小さい瓶を手に持って見せた。デイダラが近寄って見てみると中には茶色い液体が入っている。

「なんだいこりゃ?新しい毒か?」
「お前のために作ってやったんだぜ」
「なっ、オイラを殺す気か!うん!?」

驚いて、入ってきたドアのところまで慌てて後退りするデイダラを見てサソリは声を出して笑った。デイダラは緊張した面持ちでサソリを見つめている。

「ちげぇよ…こいつは痛み止めだ」
「痛み止め…?」

その言葉を聞いて些か安心したデイダラが再びサソリの元へ寄って来た。

「お前が任務の度に、この前みたく怪我をして敵に狙われてたんじゃやってられねぇからな…こいつを任務前に飲めば半日は痛みを感じないで済む」
「旦那…」
「まぁその代わり薬の効果が切れた時にはそれまで蓄積された痛みが一気に襲ってくるけどな…クク」
「…すまねぇ、旦那」
「あぁ?」

薬の説明をしていると、デイダラが目を伏せて小さな声で呟いたのが聞こえた。

「オイラが足を引っ張ったから…薬、作ってくれたんだろ?だから…ごめん…うん」

デイダラは申し訳なさそうに首を垂れていた。デイダラはデイダラで反省していたようだった。しかし次の瞬間ぱっと顔を上げて言った。

「…でもオイラ嬉しい!旦那がオイラの為に薬作ってくれるなんてな!」

デイダラは頬を薄く紅色に染め、サソリへ笑顔を向けた。子どもらしい無邪気な笑顔に、サソリもつられて思わず頬が緩む。

「ありがとうな、旦那!」
「…オレはただ任務の遂行の為に作っただけだ…」
「へへ、それでも嬉しい、うん!」

サソリから薬瓶を受け取ったデイダラは、それを愛おしそうに眺めた。

「これがあればもう旦那の足引っ張らなくて済むな!うん!」
「フン…本当にそうなってくれればいいがな」
「大丈夫だって!痛みを感じなければこの前みたいにヘマしてもそのまま敵を倒せるし!」
「…そのヘマを無くしてくれればそれでいいんだが」

薬を与えたことで更に無謀な戦いをしなければいいが…と少し不安になったが、自分でもサポートしつつデイダラの戦術をもっと効率的にしていけばいいとサソリは思った。

(ったく…どうしてオレがここまで面倒見てやってるんだか…)

ここまで考えて、自分の甲斐甲斐しさに笑ってしまった。しかしデイダラのことを考えると何故だか放っておけなくなるのだ。誰かを殺す為に毒を作ることはあっても、誰かを守るために薬を作ったことなんて今までなかった。

「…もういいだろう、オレはこれから傀儡のメンテナンスをするから出てけ」
「わーったよ、旦那」

サソリが机に向き直りながら言うと、デイダラは素直に応じた。サソリの部屋から出て行こうとするデイダラを横目で盗み見ると、その手には大事そうに薬瓶が抱えられていた。
それを見て、サソリはなんだか核が暖かくなるような奇妙な感覚を覚えた。

しかし間も無く、静かになったサソリの部屋に再びドアをノックされる音が響く。またデイダラが来たのかと思ったサソリだったが、ドアを開けて入ってきた者を見て驚いた。

「イタチ…」

訪ねて来たのはイタチだった。イタチは部屋に入ってきたものの、ドアの前に立ったままサソリのほうへ寄ってはこなかった。

「お前がオレを訪ねてくるなんて珍しいじゃねェか…」
「先程デイダラとすれ違ったのですが」
「デイダラと?」

イタチの口からデイダラの名が出るとは思わなかったが、自分の部屋を出た後イタチとすれ違ったのだろう。大して驚くことでもない。

「だからどうした」
「いえ…彼がとても嬉しそうだったものですから」
「はァ?」

イタチは何を言いたいのか。サソリは自分よりも一回りも若いこの青年の言うことがわからなかった。

「デイダラは、私に自慢してきましたよ。『旦那が薬を作ってくれた』って。嬉しそうに瓶を抱いて…」
「…」
「貴方が相方のために薬を作るなんて、一体どういう風の吹き回しですか?」

(デイダラめ…余計なこと言いやがって…)

サソリは恥ずかしいようなこそばゆいような気分になった。デイダラがイタチに意気揚々と自慢する姿が目に浮かぶ。

「…別に、あいつが任務中にヘマしてオレの負担が増えるのが癪だっただけだ」
「任務中にヘマをしてその結果怪我をするのも死ぬのも個人の責任でしょう。以前の貴方ならそのまま切り捨てていたと思うのですが」
「…」
「ずいぶん面倒見がよくなったんですね、サソリさん」

イタチがふっと柔らかく笑った。
確かに、以前の自分ならとうに見捨てていた。前に組んでいた大蛇丸はそんなヘマをするような者ではなかったが、お互いに無関心で最低限のやりとりしかしなかった。それなのに、今こんなに相方のことを考えて薬まで作っている。一体自分はどうしてしまったというのか。

「デイダラに死んでほしくないのでしょう?」
「…ッ」
「大切な人に生きていてほしい…誰もが思うことです」
「…今日はぺらぺらとよく喋るな、イタチ」

苦い記憶が蘇ってきそうで、サソリはイタチを睨んだ。

「まぁ、デイダラの能力は役に立ちます。それに彼が来て組織の雰囲気も明るくなった」
「確かに、あのガキのせいで賑やかにはなったな。時々煩くてかなわねェが」
「デイダラをよろしくお願いします」

何故かイタチにデイダラを頼まれた。そしてそのままイタチはサソリの部屋から出て行った。

「イタチの奴…なんのつもりだ…」

再び静寂の訪れた部屋でサソリは一人イタチに言われたことを思い出す。
デイダラに死んでほしくない…本当にそうなのか。はっきりと答えは出ないが、デイダラが自分にとってなにか特別な存在になっていることは認めざるを得なかった。

「…こんな感情、とっくに消えたと思ってたんだがな…」

デイダラのことを考えると自分が思っている自分ではなくなってしまいそうで。しかし、あのやかましくて危なっかしくて放っておけない相方は自分にとってなんなのか。少なくともその答えが見つかるまで、サソリはデイダラを守ろうと、決めたのだった。








原作で腕潰されたりでかい手裏剣刺さってもあんま痛そうじゃないデイダラちゃんが気になって、考えた結果旦那の作った痛み止め説が生まれました。



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