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「それでお父様、お願いって…(いやだわ、きっとうちのイヴにはもう近づくなとか言われるんだわ、アタシこんなだしイヴはあんなにかわいいんですもの)」
「ギャリーくんもその顔だとおおよその見当がついているようだけれど」
「…ええ」
「うちのイヴの」
「ええ」
「婚約者になってくれないかな」
「…はい、お父様… わかってます、彼女の成長によくない影響があるんじゃないかって案ずる気持ちは十分に」
「うん」
「でも、アタシ!あの子を悪い道に連れ込むつもりも教えるつもりもありません!」
「うんうん」
「大事にしたいんです、会うなと言われるのは仕方ないし真に彼女のためならそうするつもりだってあります、でもそれだけは伝えておきたいんです!」
「いや別に会うなとは言ってないよ」
「ええそうですとも、だから婚約者とか、」
「うん」

「…うん?」
「だから、婚約者に」
「お父様」
「なんだい」
「アタシの記憶が確かならば、イヴは10歳にもなってないんですけど」
「よくあることだよ、こどもの時分にフィアンセを決めるのは。生まれる前からだって、そんなに珍しくはないさ」
「…… それは、家柄の事情があってでしょう。アタシは見てのとおり」
「失礼、調べさせてもらったよ。まあ、家柄の事情ではないけどね」
「……なら、なぜです」
「イヴが君のことを好きだからだ。今までどんなプレゼントにも、人にも、心を動かさなかったイヴが、君のことを好きだからだよ。娘がほしがるものを与えてやるのは、父親として当然の心理だろう?」
「犬猫のようにおっしゃるんですね。失望しました」
「最善だと思っているんだが」
「…婚約者ですって? あなたそれで、アタシがいたいけなイヴに婚前交渉けしかけたらどうするんですか」
「君はそんなことしないよ、わかってる」
「…………結婚なんて、一生しません。実家のことを調べたなら、理由はおおよそ想像がつくでしょう」
「どうしてもだめかい?」
「どうしてもだめです」
「そうか、残念だ。せっかくイヴにいいところみせたかったのに」
「そもそもプレゼントで尊敬を得ようなんてあさましいです」
「手厳しいね。参考までにきくけれど、イヴのなにが不服だい?
頭はいいし、かわいいし、引っ込み思案だけど素直だし、それにとてもかわいいじゃないか」
「かわいいを二度言いましたね。その意見には全面的に同意しますわ。でも、それはおともだちとしてです。あんなこどもを婚約者として見ることなんてできるわけないでしょう」
「だからこそ今のうちに婚約して、大人になってから食べればいいじゃないか」
「あんたなにいってんですか。そうですね、イヴがあと10年早く生まれてたら、お受けしたかもしれませんね」
「そうか」
「そうです」
「だそうだ。ごめんよイヴ」
「!?」
(父親がギャリーの後ろに声をかけるので、ギャリー、時分が座るソファの背もたれの裏を見る。体育座りのイヴ)

「って、イヴ!いつのまに!?」
「……さいしょから、ずっと」
「ていうかなんでそんなにぽろぽろ泣いて…て、そうよね、いやよね婚約なんて、だいじょうぶ、だいじょうぶよイヴ、アタシが身勝手な父親から守ってあげるわ!(抱き上げてよしよしする)」
「うー…ううう…ぎゃりー……」
「ほーらいいこいいこ」
「けっこん…」
「うんうん、そうねえ」
「けっこんして……」
「え?」
「ぎゃりー、けっこんして、ふえええ、けっこんーーーふえええええええ」
「ちょ、ちょっと、イヴ、あの、イヴ」
「あーあギャリーくん、がまんづよいイヴをそんなに泣かして、ひどいオネエだ」
「うるせえあんたは黙ってろ。
あ、あのねえイヴ、そうねえ、けっこん、って、うん、おんなのこらしくてかわいい夢だわ。イヴはおおきくなったら素敵な花嫁さんになるとおもうわ。でもそういうことばは軽々しく言うものじゃ」
「…かるくないもん。ギャリーとけっこんしたいもん…」
「(…アタシったら、ちいさな子のいうことをなにまじめに考えてるのかしら。この年頃なんて週がわりで「すきなひと」がかわったりもするのに。相手がイヴだからって、真剣にとらえすぎてるわ。うん、大人として、今することは「拒絶」ではないわね)
…そうね、じゃあ、」
「じゃあ?」
「10年たったら結婚しましょう」
「…ほんと?」
「ほんとほんと(どうせ覚えてるわけないし気持ちも変わるでしょうし)」
「…10年じゃなくてけっこんできるねんれいになったらでもいい?」
「う、うーん…? まあ、いいわ…よ(それでも5年以上あるし)」
「じゃあ、やくそくして?」
「するする、ゆびきりしましょう!ねっ」
「…ゆびきりじゃなくて」
「なくて?」
「(ばさっ)ここにあるほうてきしっこうりょくのあるこうせいしょうしょにサインして」
「」
「うちの顧問弁護士が連名で作った書類だよギャリーくん!不履行の際は法の番人と権力の犬が動くよ!」
「いい笑顔だわねあんた!」
「ぎゃりー、さいんして。はやく」
「い、いや、あの、あのねイヴ、こういうことはね」
「…だめ…? ギャリー、うそついたの? イヴにはうそをつかないって、いつもいってくれてたのに…」
「う… その…せめて、おとなになってから、もう一度…」
「だめ! …だめだよ、わたしがおとなになるまでまってたら、ギャリーはだれかにとられちゃうよ…いますぐやくそくしてほしいの」
「…イヴ… …わかったわ。約束しましょう。
でも、この書類はだめよ(そっと取り上げて片手で丸めて投げ捨てる)」
「あっ」
「…罰されるのが怖いから結婚する、なんて、そんなのただしくないし、ほんとにあんたがしたいことでもないでしょう」
「……うん……でも」
「だから、もっとちゃんとした誓いをしてあげる。(イヴを降ろして膝立ちになる)」
「…ちゃんとした?」
「そう、目を閉じて?」
「…うん」
「…あなたが結婚できる年齢になるまで、アタシのとなりは空けておいてあげる。だから安心して、ちゃんといい女になって、それからもう一度いらっしゃい(顔をかたむけて近づける)」

「…」
「…」
「……っ(イヴ、キスされたところを押さえて、真っ赤になって走り去る)」
「…やれやれだわ」
「ギャリーくんうまく逃げたなー、ずるい大人だなー」
「あんたに言われたくありませんよ。なんなんですかこの書類、上流階級ってこんなもん作れるんですか(書類を拾って広げる)」
「作れるわけないじゃないか、後ろ暗いところのない一般男性と幼女を婚約させる法的拘束力のある書類なんて」
「……なんですって?(再度にぎりつぶす)」
「いやあでも思ったより成果でてよかった。これでイヴも当分は満足だろう、でこちゅーか…落とし所としてはこんなものか」
「……これが…生まれながらの支配者層…!」
「まあしばらくは恋人作ってもイヴには隠してやってくれよ」
「女は怖いけど、金持ちも怖いわぁ…」




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パパが乗り気なギャリイヴ

2012/05/26
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