バスロマン

※桃さんリク!
※リク内容:
『最終回後一緒に暮らしてる西東(南もいます)で、東がちょうどお風呂からあがったときに西がはいってきてバッタリ』がみてみたいです!できればまだふたりはつきあってないけど両思いな設定で』
※王道ネタですね! やってみました。






俺は薄っぺらい扉の前で悩んでいた。脱衣所の扉の前だ。その奥が浴室である空間の扉の前だ。
扉のむこうでは僅かに衣擦れの音がする。服を脱いでいるのだ、せつなが。
以前はチームメイトで、そういえば性別が俺と違ったなーというようなやつだったが、最近は恋愛小説なんかどっさり読むようになったり、自発的にかわいいかっこするようになったり、俺に甘えているんじゃないかと思える瞬間があったり、するようになったやつだ。恋する乙女ってやつだ。で、その相手はたぶん俺だ。直接きいちゃいないが。
で、たぶんむこうも、旅行雑誌だけでなくデートコースなんかが載った雑誌を買うようになったり、あいつが同年代の男と話してたら俺が不機嫌になったり、甘えられたらうれしくなってちょっとさわってみたり、という俺の変化とその理由に気付いている。でもまだ、念のためにいっとくと、つきあいましょう、そうしましょう、みたいなやりとりはしていない。

俺は覗くつもりはない。が、過失として、俺はこの扉を開けてもいいことになっている、のかもしれない。明言はされてない。10分ほどまえのことである。




「ほー」
「わかるといえばわかるけど不思議な慣習ね」
俺とせつなは、とくに生活に密着した慣習を学ぶため、もっとも庶民らしい媒体の書物を読んでいた。つまりまんがよんでた。
ラブコメもので、ヒロインが入浴しようと脱衣所で服を脱いでいたところにうっかり主人公がドアを開けてしまい(そんなもん気配でわからんはずがないだろうと思うんだが)、で、いろいろあって、女の子の肌を見てしまったから責任をとる、結婚しよう!という流れになっていた。なんでマンガってのはえろいもんみると鼻血出すようになってるんだろうな。試しにせつなが裸になってるところを想像してみた。…頭に血はのぼるな、うん。なるほど、血液が猛スピードで駆け巡るから血管をぶち破るんだろうか。鼻の粘膜は弱いっていうしな。
「ねえ隼人」
「ん」
目の前の男が自分の裸を想像してるなんて考えもしてないだろうなって顔でせつなが俺を見上げる。俺も、とくになにも考えていませんよという顔でそちらを見る。
「女の子は、裸を見られたら、その人と結婚しなきゃいけないらしいわよ、こっちの慣習だと」
「そうみたいだな。男は責任をとらなきゃいけないらしいな。責任の意味がよくわからんが」
「えーっとね、でね、さっきお昼食べたばっかでしょ、だからまだ全然時間としては早いんだけど、」
そこで、えっと、んーっと、と、ゆるくたわんだ髪の毛の先をいじりながらもじもじしているせつなはかわいい。だいたい言いたいことはわかったが、ぜひともせつなの口から聞きたかったので俺は黙っていた。
「そのね、お風呂はいってこようかなあ… あ、入るとは断言してないからね、えーっと、その、じゃあ、本でも読んでこよっかなー…自分の部屋で… だから全然お風呂とか入るつもりないけどねー…」
耳の先まで真っ赤にして、せつなはふらふらとリビングを出た。
うーむ…あいつも相当切羽詰っていたか…かなり捨て身なあれだよなこれは…

俺らは、互いの気持ちを知っていた。相手が知っていることも、知っていた。
けれど、いまさら素直になるにはちょっといろいろありすぎた。それでもどうにかなりたくて、触れる範囲の場所をフルに触り続けていた。言葉だったり、からだの一部だったりで。だけどその、触れる範囲を拡張したいという焦げ付きはこのところ強くなっていたし、あいつからもそれを感じていた。

この際、なりゆきでそうなっちゃったということにしてしまえ、というその提案は、アリだとおもう。女の裸は好きだし。好きな子の裸なら、もう最高だ。それを見ていいことになったんだし、アリだとおもう。
脳裏に「押すなよ!絶対押すなよ!」という、以前テレビで見たあれが過ぎったが、うん、大丈夫なんだよな?あれは押していいんだよな?な?



で、脱衣所の扉の前だ。耳をすましていれば、だいたい向こうの状況はわかる。服を脱いだとか、下着を脱いだとか。せつなのそういう姿を考える。たぶんいままで見たことのあるどんな女性の裸より、どこもかしこも俺好みのパーツなのだ、絶対。だってせつなだし。俺は変態か。いやいや紳士だ。すげー紳士だ。
髪をまとめている気配。それから、浴室の扉が微かに開いた音、つまり、今、何も着てない状態で、浴室のドアノブを握っているわけだ。
行くか?行っちまうか? ええいやってやれ。
俺は声もかけずノックもせず、ばたん!と大きく扉を開けた。

そうして、そこには、

一糸纏わぬ姿で、
ゆるく揺れる黒髪と、
なめらかでまっしろな肌が作る強いコントラストが
艶めかしい、









瞬がいた。






「…おおおおおおお!?おま、なんでこんなとこいるんだよ!」
「自分ちの浴室にいてはいけない理由はないだろ。さっき起きたから眠気覚ましのシャワーだよ、ていうか早くドアしめろ」
「あああああ… うあああああああ…!(慟哭)」
「ちょっと…僕の美しい生まれたままの姿を見てそこまでめりこむ理由わかんないんだけど」
「なんの声、隼人ー…って瞬ー!はやくドアしめて!」
「そのばかがドアのところでうずくまってなければね」
「じゃあせめて片手を腰にあててモデル立ちしてないで隠して!」
「どうしようせつな…俺、瞬に責任とってやんねえと…」
「だ、だいじょうぶわたしも見たわ!わたしたちふたりで瞬と結婚しましょう!」
「おれたちふたりで…せつな…!」
「はやと…!」
「どうでもいいけどドア閉めてくれないかい」



で、まあ、そのあとひと騒ぎあったんだが。

「…時間を置きすぎたのが敗因ね」
「ああそうだ、俺はけっこう待ったぞ!」
「だって…そりゃ、そんな…すぐには思いきれないもの…」
すねたようにそう言うせつな。そうだな…ごもっともだ。もとはといえば、俺が言えないのが悪いんだ。そんでこいつにばっかり度胸が必要で、俺は何にもしないで、ていうか得しかしないことさせようとしてた。なにが紳士だ。男だろうが俺は。よし、もう言おういま言おう。息を吸い込んで、言おうとしたちょうどそのとき、せつなは俺の左腕を抱きかかえて、こて、と頭を寄せてきた。
シャンプーの匂い。頭ちっせえ。かわいい。
「さわいだらおなかすいちゃった、ドーナツ食べにいきましょ」
「…おう」
「わたしねえ、エンゼルクリームがいいなー。隼人は?」
「…じゃあチョコファッションで」
「はんぶんこしましょうね」
にっこりとせつなが笑う。まじかわいい。
不思議なことに、ドーナツとか、なんか他の食べ物でもそうなんだが、半分にすると、一人でひとつ食べるよりうまい。どう考えても食べられる量は半分になっているのに、満足感が倍以上になるし、ふしぎなくすぐったさがある。
ドーナツのことを考えて、まあいいか、と思う。今言わなくてもいい。今は、無理だ、そういう時期だ。無理をしても、あんまり幸せなことにはなれない気がする。そうじゃなくて、もっと自然に言える瞬間が、必ず来る。逃避じゃなくて、そんな確信を、せつなのつむじをながめながら唐突に感じた。

俺の左腕を両腕で抱き寄せるせつなと、ドーナツを半分ずつ食べるために、俺達は出かけることにした。

念のためにいっとくと、つきあいましょう、そうしましょう、みたいなやりとりはしていない。







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というわけで桃さんリクでした。
長編連載中に書き上がってたんですけども都合によりおまたせしてしまいましたー

そしてラベルの晴さん宅「オンリーユー」が衝撃のリク達成率です(もちろんしゃべってないしリクもらったときのレスもわたしは内容ぼかしてたはず)。な なにかを受信なさったのかしら…!?
桃さんは…晴さんちのほうが満足度高いとおもいます… ほかにもあまずっぺー西東たくさんなのでぜひ。






2010/02/23


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