happy ever after/1

※リクエストもの
※ちょっとだけ連作、ええ、ちょっと
※最終話後、西東です。








管理国家ラビリンスは、永きにわたり国民を洗脳し、支配してきた狂気のコンピューターメビウスから解放された。
伝説の戦士プリキュア、6人のプリキュアのおかげだ。国民はそう感謝していた。本当のところは6人ではなかったが、録画されていたメビウス戦を見た当のプリキュアたちですら、これであの二人はプリキュアじゃないといっても誰も納得しないだろうなあとおもった。そこへ天然最強リーダーが言った。
「6人じゃないよ、ラビリンスのみんなみんながプリキュアなんだよ!だってあのとき戦ったのは、みんなのハートだもん!」
その解釈はちょっときれいにまとまっているうえに事実をうまく覆い隠してくれるので、まあ、そういうことになった。


で、みんなで幸せゲットだよ、といいたいところだが、イースには納得できないことがあった。

長い長い曇り空を終えたラビリンスを、東せつなに擬態したイースは歩く。いや、擬態とはいえない、これも自分の姿だ。日光江戸村のような和風の長屋通りを通り過ぎた。ライトアップされた雪像を通りすぎ、ジャングルを通り過ぎ、海底の神殿を通り過ぎ、お菓子の家を通り過ぎた。
その間にすれ違ったのは、地球風の女性、暴れん坊将軍、魔女、忍者、人魚、妖精、ハルピュイア、花魁、フランス貴族、狼男、しゃべる猫、バーバリアン、その他その他。

自由意志を剥奪されていたはずの国民たちは、管理から解かれるやいなや異様なまでの順応力と、貪欲ともいえる享楽的感性を見せた。交流のあるパラレルワールドへ観光し、留学し、交流のないところにもこっそり紛れ込み、もともと高い能力でそれらをがっちり取り入れ、ラビリンスへ持ち帰った。四ツ葉町へ派遣された幹部がスイッチオーバー、の音声コードで用いていた、ナノマシンによる自己遺伝情報変換装置により、先方の原住民の姿で過ごすものも増えた。これに関してはイースも同じことをしているので人のことは言えない。いや、四ツ葉町の世界の文化だって持ち込んでいるし、やるなと言いたいわけではない、好きなものがふえるのはいいことだ。いいことだが。

「…まじめにやってたあたしはなんだったのよー!!!!!!!!」

思わず路上のまんなかで叫んだイースに、すれちがった半魚人が、ぎょっとして立ち止まった。頭上の天使が落下しかけた。

ウエスターだけが異常に規格外なのだと思っていたのに、どうもラビリンス本来の国民性は「楽しそうならなんでもいいじゃんやってみようぜー」らしい。彼こそがスタンダードな民族性の持ち主であり、自分やサウラーのほうがイレギュラーだったのだ。イースは思う。マザーコンピューターメビウスの制作は、退廃的な堕落が原因だったのではなく、みんな好き勝手しすぎるからちょっときちんとしようぜという良心だったのではと。というか今からでもああいうの、作ってしまいたい。ああ、灰色の管理国家が懐かしくなる日がくるなんて。

世界中のおもちゃ箱をあつめてひっくりかえしてぐっちゃぐちゃにしたようなお祭り騒ぎの中、せつなはうなだれた。
とぼとぼと歩き、目的の場所にたどり着く。同僚の経営するドーナツカフェ、ラビリンス支店である。経営といっても彼にも本業があるので、出店ペースはじつに気まぐれなのだが。
「せつなー、どうした元気ねえなー」
西隼人の姿をした同僚は、ハートの穴のドーナツが描かれたエプロンでにこにことトングを振った。やたらにバリエーションの多い国民の中で、西隼人の姿は若干地味とも言えた。それでもこの国でも、彼がもてているのを知っている。彼が異性を惹きつけるのは、容姿の美しさばかりではないのだ。周囲が美男美女だらけの環境において、せつなもそれを認めざるをえなかった。
「ちょっと…お祭り騒ぎにあてられて」
「せつなも瞬も、静かなところが好きだもんな。でももうちょっとがまんな、みんな浮かれてんだよ」
「わかってるわ」
「そろそろ国政の方向も定まる。そうしたらもうちょい落ち着くだろ」
ごきげんにドーナツ用フライヤーに向き直った彼の横顔を、そっと観察する。彼は議会の招集以外では西隼人の姿をとっている。カオルちゃんにもらったドーナツカフェのエプロンをそれはそれは大事にしていて、たぶんその着用のためだろう、と思っている。他の理由なんてないに決まってる、期待なんて、していない。こいつは「英雄ウエスター」にむけられる数々の秋波をまったくもって気に掛けることなく、西隼人としてドーナツ作りを楽しんでいるのだ。いずれは誰かのものになるのだろうけれど、今はまだ、いちばん近くにいるのはわたしだ。虚しい考えだが、なぐさめにはなった。
「明日の会議でこんどこそ政体を定めたいって瞬が言ってた。議員統治制か共和制の方向だ」
「明日か… いつも以上に大事な会議になりそうね。がんばりましょうね、…隼人」
「おう、がんばろうな、せつな」
大きな手でくしゃくしゃと頭をなでられて、胸の奥までくすぐったくなった。かわいいな、好きだなあ。いつからそう思うようになってしまったのかはもう思い出せないけれど、気づいたころにはすっかり妹扱いだったけれど、でも、やっぱり好きだ。どうにかして、この手が自分のものになればいいのにな。

呼び名にちょっとずつ恥ずかしさを感じながら笑みを交わす二人は、まだ知らない。
翌日の会議で、二人の関係が永遠に変化してしまうことを。






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流星庵さんからいただいたリクです。なんかスイッチはいりました。リク内容はのちほど

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2010/02/07


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