わたしのからだをみたすもの(西東)

※本編中せつな独白
※西東ですが西不在




熱いお風呂は気持ちいい。桃園家に来るまで知らなかった。故郷では衣服は原子レベルでの再構成だったし、肉体の衛生は滅菌シャワーの一種を用いて保たれていた。
薄い桃色のような乳白色の湯で、せつなはゆっくり躰を延ばした。心地よい痺れに似た感覚がからだの先端にまで伝わってゆく。
(ウエスターは、お風呂に入ったことあるかしら)
無いような気もしたし、有るような気もする。きっかけさえあれば、あの男は何でも実地体験だ。知らないなら教えてあげたいな、と考えてしまってから、自戒した。
最近は、こんなことばかり考えている。

たとえば散歩中にみかけた、鮮やかな新芽、植樹の隙間が作り出すなんとも複雑な光のカーテン、通学路で見つけた、雨粒に濡れてきらきらしている蜘蛛の巣、祈里の家でいっしょに遊んだミルク色をした仔猫、夕日と同じ色に溶ける校舎、タイをととのえてくれた美希のおかあさんのきれいなネイル、そういう、きれいなものに出会うたびに、彼に伝えたい、わけあいたい、そう思うだけで、きれいだと思う気持ちがよりいっそう強くなる。
そうして、想像の中の彼はいつも無邪気に喜んで笑いかけてくれるけれど、現実では、場合によっては自分を殺すつもりでいることを思い出しては、さざめいた湖がやがて静かな水面を取り戻していくように、輝きの残像だけがのこる。そんな繰り返しだった。

与えられることを待つ者は、それだけしかできない。与えたい、分けあいたいと思ったとき、世界のとんでもない豊かさが見えた。

かつてあるじへ抱いていた歪んだ執着と真逆の欲求につけるべき名前を、自分はおそらく知っている。熱い湯船のように全身をつつみ、あたためて、幸福にしてくれるものの名前を。届かずとも輝きつづけるそれを、それでもいつかは輪のようにつなげることができたならと、そんなことばかり考えている。






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たまにはただのポエムもかいてみる

↓萌死注意
ぬぬじさんより


2010/01/20


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