Passion(西東)

※今回はえろいことをしたような記述があります
※えろいことそのものの描写はないですが自己責任で




夕食を食べて、少し話をしたら帰るつもりだった。

自信ありげにしてただけあって、隼人のローストビーフはたいしたものだった。
二人並んで座って、みるともなしにバラエティ番組を眺めてたわいない話をして、ふと目があった。
じっとわたしの目を見たまま隼人は、わたしが抱えていたパンダのぬいぐるみを優しく取り上げてテーブルに置いてしまった。
太い腕に引き寄せられて、そっと唇が重なる。
そこまでは、今までもよくあったこと。

その日は何がちがったのかなんて、どれとははっきり言えない。
いつもよりキスが長かったとか、重ねる角度が深かったとか、抱きしめる腕の力の強さとか、触れ合う面積が広かったとか、そういう、ささいなことが積み重なってのことだったとおもう。
唇を舐められて、口を開いた。後頭部を抱える手の指先が耳の輪郭をなぞる。
舌をからめあうこんなキスは初めて、だと思う、たぶん。いやらしい水音と隼人の吐息が自分の口の中で響いて、その音にさらに煽られた。頭の芯が甘く痺れる。服の上からだってわかる逞しい体躯に、自分の躰の柔らかいところを押し付けた。
夢中で舌を食べあう、息継ぎをして、ふと見つめあった。

「…はやと」
自分の甘い声音に自分でおどろいた。
シャープな頬のライン、真顔だと怖いくらいの精悍な顔立ち、青い瞳。視界が涙で潤んでいる。呼吸が荒い、頬が熱い、もっと、足りない…
太い首に両手をかけて引き寄せようとして、彼に肩をつかんで引き離された。
「せつな、そろそろ帰んねーと…送る」
言葉でじゃれようとしてるんじゃない、本気を感じてとまどった。
立ち上がってしまった隼人を見上げるわたしが、どう見えているかなんて考えないことにする。
「…どして?」
「どして、って…そりゃ… 桃園さんちが心配するだろ」
「メールするわ、泊まるって」
「泊ま… …ばか、中学生のお嬢さんにそんなことさせるか」
腕をひけば、そのままもう一度ソファに座った。
「…したくせに」
「っ」
背中に腕を回して、あおむけに倒れる。大きなからだがわたしのうえに重なっている。
「したことあるじゃない、「そんなこと」」
「…あれは… あれは、あのときは… お前、中学生じゃなかっただろう…」
そう、一度だけ、したことがある。






まだ「東せつな」が仮の姿だった頃。
キュアピーチに近づくため、女子中学生のふるまいを習得しようとサウラーに調達を依頼した中学生向け雑誌を読みあさっていた。
今にしておもえば雑誌の情報をすべてうのみにするなんてとんでもないことだったのだけど、書物といえばすべて事実を記したものであるラビリンス出身のわたしたちに、情報誌と名乗るものが誇張した情報だらけの読み物だなんてことわかるわけがなかった。

イースだったわたしは、机の上に積み上げられたピ●レモンだのセブン●ィーンだのハ●チューだのを放り投げでうんざりと頭を振った。
「…サウラー、こちらの世界の女子中学生というものは実に75.6%が性交済みらしいわね」
「そうみたいだね。中学生って15歳以下だろう?妊娠には不適切、つまり性行為をするには未成熟な個体のはずなんだけどね」
「そのうえ不特定多数との交渉がある種のステータスなのね。口での性交もするようね…この世界の人間は変態ばかりなの?まったくわからないわ、非合理的なことばかり、気持ち悪い」
「おかしなことばかりするやつらだからね」
「過半数がこういったことを経験済みならばプリキュアどももそうだと考えていいでしょうね。未経験では何かぼろが出るかもしれない。サウラー、つきあいなさい」
「断る、あんなもの疲れるだけだ。この世界風にするのなんてもっといやだ、読んでるだけでもめんどくさい」
自分だってめんどくさい、めまいのする記事を一気に読んだおかげで気分も悪い。
だがそれもプリキュアのリンクルンを奪うため、ひいてはメビウス様のため。
「うーっすただいまー」
両手に紙袋を抱え、ウエスターが帰ってきた。まったくもってFUKOは貯まっていないというのにこの男はいつも機嫌がいい。今も紙袋からポテトチップスやらなにやらを取り出してはサウラーに餌付けをしている。
「ウエスター、ちょうどいいところへきた」
「おうイース、アイス食うか」
「わたしとセックスしろ」



東せつなであるわたしは、イースとは別人だ。別人だが、同一人物だ。
あの夜のことを思い返してはベッドの上を転げまわったことも、一度や二度ではない。

…結果だけいうと、セックスは、した。
ただ、痛いだけで雑誌にあるような快感なんて一切なかった。
当然だと今は思う。
体格差もあったし、サウラーが言うように未成熟の体だったし、ただの義務感だけで行為に臨んだし、なにより彼を愛してはいなかった。
だというのにわたしときたら、行為のあとでウエスターにむかって「下手」だの「がさつ」だの「バカ」だの言いたい放題だった。
さんざん渋っていたのを無理やりつきあわせたくせに。

ウエスターは優しかった。イース自身もどうでもよかった躰を、すごく大切に扱ってくれた。
下手だったのもがさつだったのもバカだったのも全部わたしのほうだった。
ベッドの上で転げまわったあとの「せつな」の考えはいつもそこに落ち着いていた。過去を悔やみ、「イース」を妬んだ。





「せつな、コートかけてやるからこっちこい」
「やだ、帰りたくない」
「せつな…頼むから」
「いや」
パンダを抱えてうずくまってしまったわたしを、隼人の手が困ったようになぜる。
「いいか、今ちゃんと帰らないとほんとに帰れなくなるぞ」
「いいもん」
ばか、わたしはイースとは違うんだから。
もうひどいこといわないわよ、そのくらいわかってよ、だからこのまま。

「おまえがしたくないこと、無理やりするぞ」
「してもいないのに勝手に決めないで」

「したじゃねえか… いやなんだよ、あんな、お前が泣くばかりのこと、もう」

……ああ。
そうだ、ウエスターだって隼人だってずっとそうだったんだ。
わたしにひどいこと言われるより、わたしが泣くほうがつらいんだ。

わたしはいまだ彼をわかりきれてない。でも、だから。


「泣いてもいい…わたし、わたしは」
触りたい?触ってほしい?セックスしたい?
違う、そんな言葉じゃほんとじゃない。
この気持ち、あえて言葉にするのなら。



「わたし、あなたと愛しあいたい」







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東せつなはイース時代にやらかしちゃったことの贖罪てんこもり、
ウエスターとの関係もそのひとつ。
で、罪悪感だけでなく西隼人にめろめろなのでよけいにいろいろ大変。
でも西さんはそのへんあんまり気にしてない

0114 ちょっと修正


2010/01/13


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