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Clap
 


 「ただいま〜ッス」
 黄瀬が上機嫌で玄関のドアを開けると、黒子がエプロンで手を拭きながら「お帰りなさい」と迎えてくれた。

 (何、これ?! わー、まるで新婚さんみたいッス)
 ドッキン…黄瀬の心臓が跳ねた。世間ではクールと評判の美貌が、テレテレとだらしなく崩れていく。
 「えへへ…10時間ぶりの黒子っちッス」
 黄瀬は、そう言って黒子をギュッと抱きしめた。

 いまだ恋人同士の甘い空気に慣れない黒子は、一瞬身体を固くした後、困ったように黄瀬を見上げた。
 「黄瀬君、あの…ボク、料理の途中なので、そろそろ離していただけますか?」
 「うん、もう少しだけ…お願いッス」
 離れていた時間を取り戻そうとするように、黄瀬は黒子から離れようとしない。
 いやな予感しかしない。いままでの経験から簡単に予想できる今後の展開。

 黒子は焦った。ここで流されてはならない。
 「駄目です。このまま黄瀬君につきあっていたら、折角のハンバーグが炭になっちゃいます」
 黒子が黄瀬の胸を両腕で強く前へ押しやった。
 ふわり……。意外とあっさり、金色の髪が黒子の肩から離れた。
 「うん…折角の黒子っちの手料理、炭にするワケにはいかないッスもんね」
 黄瀬はそう言って、名残惜しそうに腕の中の黒子を解放した。

 「あれっ?」
 未練がましくエプロン姿の恋人から目の離せなかった黄瀬は、黒子の喉元にある小さな赤い痕に気づいた。自分に覚えの無いそれに、黄瀬は怒りと嫉妬を感じた。
 (酷いよ、黒子っち。オレの居ないトコで、何があったんッスか)
 赤い印に重ねる様に唇を落とした黄瀬はすぐに、ギャンと悲鳴をあげ、こわごわと黒子の表情をうかがった。
 ヒリヒリとした刺激と湿布に似たにおい。

 「何ッスか、これ?!」
 「かゆみ止めです。夕方、買い物帰りに刺されてしまいました」
 ほら、と言って、黒子は黄瀬の目の前に両腕を突き出した。いくつかの赤い痕と、引っ掻いた白い線、うっすらと滲んだ血。
 「もう、痒くて痒くて…」
 そう言いながら、バリバリと白い肌を爪で掻く。
 「わ〜っ、折角の綺麗な肌に爪痕が!! 止めて、お願い、掻かないで!!!」

 「何、変な事考えているんですか?」
 「え…え? だって…」
 口ごもる黄瀬に、黒子はため息をひとつ。
 「一瞬でもボクを疑ったバツです」
 黒子は、黄瀬の喉元に唇を寄せた。そのまま、チュ〜〜ッ。
 「わ〜、止めて〜!!」
 
 「ふんっ、ザマアミロです」
 怒り冷めやまない黒子は、唖然と立ちすくむ黄瀬をそのままにして、台所へと消えていった。
 「黒子っち、酷いッス…」
 困ったように喉元に手をやる黄瀬は、首まで真っ赤だった。




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