「もういやあああああああ」
「しおらしいのかと思ってたぜ、案外うるせえ、なっ!」
「帰るうううううう」

突如始まったカーチェイスに呆然としたのも束の間、聞き慣れない鋭い音が小雪の耳に何度も届いた。数秒して、それが銃声であることに気付く。応戦するべくマグナムを持って窓から身を乗り出した次元は、恐怖に叫びだした彼女を見て笑った。
猛スピードで極端に蛇行しながら進むフィアット。それに驚いて急停車したり道から外れる周りの車。そして映画の中でしか聞いたことの無い、それ。全てが非日常すぎて、小雪は頭がくらくらするのを感じた。それと同時に、初めて感じるタイプの恐怖。今正に自分は、生命の危機に晒されているのではないか。

「、な、小雪殿」

腕の中の人に害が及ばないようにと、五ェ門はしっかりと抱きとめていた。最初感じていた気恥ずかしさも、この危険な状況に入ってからは消え去った。未熟な自分の羞恥より、このか弱い一般人を守らなければならない。これ武士道と心得たり。
おかしな決意を胸に掲げ、窓の外を気にしていた頃。支えていた肩から微弱な震えを感じ、ふと視線を下へ向けると、朝日が何かに反射してキラリと光った。間をおいて、ドッと焦りが押し寄せる。拙者の腕の中で、不二子が(正しくは小雪が)、泣いている。
小雪は堪えきれない涙をひたすら落としていた。止めようにもどうにも止まらないのは、消えることの無い恐ろしさの所為だろう。未だ銃声は止まず、たまに次元の舌打ちとあわててハンドルを切るルパンの声がする。一体自分はどうなるのか。日本にいる筈の母の顔が頭を過ぎって、胸が熱くなった。

「ぬ、る、ルパ」
「これどうしよううわあ〜!」
「じ、じげ」
「チッ、しつこいな!」
「ちょっとお、大丈夫なの?」

ハンドルが言うことを聞かず悪い意味で心臓を高鳴らせるルパン。ひたすら撃ってくる追っ手に苛立ちが募っているらしい次元。呑気に髪の先を弄りながら問う不二子。当然だ、戦闘に近いこの状況で誰が助けてくれようか。不二子に関しては特に何もしていないが、彼女に助けを求めるのは気が引けたらしい五ェ門は、口を閉ざした。
震え続ける肩にちらりと目線を落として、どうするべきかと思案する。そして出した結果が。

「小雪殿」
「っ」

俯いていた小雪の頬に手を当て、優しく上を向かせた。潤んだ瞳が自分を捉え、カッと頭が熱くなるのを感じたが、いつもの修行を思い出しては顔を背けたくなるのを堪えた。

「お主は必ず、必ず拙者が守ってみせる、故、そんなに怯えなくていい」
「…ごえもん、さん」

小雪はぽかんとして五ェ門を見上げていた。そんな赤い顔で言われても説得力がないです。そう言いたかった。しかし涙は止まったのに気付き、目元を強く擦った。小雪がそうして落ち着くと、五ェ門はハッとして顔から手を離した。その瞬間強い揺れがフィアットを襲い、離した筈の手は無意識に小雪の腰をしっかりと抱き寄せた。


「あ、ありがとうございます」
「と、当然でござる」
「甘酸っぱいいいいいうわああああ」
「突っ込んでる暇があったらハンドル切りやがれ!」




20110503



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