「それじゃ、出発しんこおーう」

運転席のルパンが陽気な声を上げる。助手席には不二子、後部座席に小雪を中心にして次元と五ェ門。ブォンと何時も通りの音を立て、フィアットは走り出した。
できれば端が良かった、と内心溜息を吐く小雪。左右に見慣れない異性がいるのはどうにも落ち着かない…自然と泳ぐ目線が上に向いたとき、バックミラー越しに"自分と"目が合った。妖艶に唇を歪ませるその顔を見て、思わず見入ってしまう。私って、こんな顔できるんだ。一方不二子は、バックミラーに映る自分を見て思う。私、こんなアホ面してたかしら。
追っ手がなけりゃ、安全運転。そうでなくても一般人(しかも女の子)が乗ってるんだから。ルパンは口笛を吹きながら慣れた手つきでハンドルを回す。時折窓越しに道を歩く女性に手を振ると、後ろから大きな咳払いが聞こえた。五ェ門だ。こりゃあまずいと苦笑いして、ルパンは再び前方へ向き直った。

「…ところで、拙者と小雪殿は何も聞かされていないのだが」

気が抜けているルパンを軽く喉で咎めた後、五ェ門は閉じていた目を開き問うた。
昨晩から今朝にかけては情報収集だと皆忙しく、結局詳しい話が聞けなかったのだ。今この車はどこに向かっているのか、五ェ門は知らない。勿論それは小雪も一緒で、バックミラーから五ェ門へ移動していた視線を、今度はルパンへ動かした。
「要はね、ネックレスを返しゃあいいんだろぉ」次にバックミラーを覗いたのは、ルパン。小雪の胸元で光を反射して光るネックレスを見つめ、口元を吊り上げる。次元がそれに気付き、体をもぞもぞと動かしてジャケットを脱いだ。煙草の匂いが染み付いたそれを小雪にばさりと被せる。

「えっ」
「着とけ。色基地外がいやがるんでな」

なんだよじげえん、ルパンが不満そうな声を上げる。どうやらルパンが見つめたのはネックレスではなく、その奥の豊満な胸の谷間らしい。それに気付いたのは次元だけであったが。不二子なら知ったこっちゃないが、今不二子の体は不二子のものではない。そんな次元の気遣いも知らず、頭上にクエスチョンマークを浮かべる小雪と五ェ門。
色事には厳しい相棒に唇を尖らせた後、ようやくルパンは本題に入るべく表情を改めた。

「ネックレスの持ち主はルイ14世とマリーだ。だったらそのネックレスのあるべき場所ってのは」
「二人の暮らした場所、つまりヴェルサイユ宮殿ね」
「そこへ行くのか」
「ああ。元々そのネックレスはよ、その宮殿の最も深い場所にある二人の寝室に展示されてる筈のものらしい」

話を聞きながら、小雪は口内が乾いていくのを感じていた。そんな凄いものが自分の手元にあることが、小雪には信じられない。何かの間違いじゃないかと思っても、今現在の状況がそれを否定する。
一方ルパンも、小雪と同じようなことを考えていた。一晩よく考えた。もしこれらのネックレスが本物ならば、今頃ニュースで大騒ぎになっている筈だ。宮殿から展示物が消えているのだから。しかしそんな話は聞いていない。それにだ、不二子がこういったお宝を所持していることには疑問はないが、どうして平々凡々な小雪が持っていたのか。昨晩聞いてみると、露店で買ったという。露店にこんなものが、?

「私そんな凄いものだって知らなかったわあ、これ。ねえ、呪いが解けたらもう一度…、…」
「む」
「おいルパン」
「わあーってるって」

フロントガラスから入る光に反射させる様にプレートを眺めて猫撫で声を出していた不二子が、ふと口を閉ざす。頭の後ろで腕を組んで就寝体制だった次元も、顔に被せていたボルサリーノを静かに上げた。
横目で、ルパンがサイドミラーを見やる。そこに映る二台の漆黒の車。

「ごーえもおん、ちょっと小雪ちゃん支えててもらえっかなあ」
「え、え?」
「…すまぬ、少しの間耐えてくれ」

四人の空気が変わったことには、気付けた。しかしどうしてこんなに急にピリピリと、戸惑っていた小雪の肩を五ェ門がぐっと抱き寄せた。逆サイドの肩が、逞しい胸板に寄り掛かる。急速に火照った顔が熱い。

「お口チャック頼むぜえ、小雪ちゃん」
「舌噛まないでよ、私の体なんだからあ」

前に座る二人から掛けられる言葉に、小雪の困惑が増す。え、と口を開きかけた瞬間、フィアットは信じられないスピードで走り出した。




20111203



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -