翌朝。不二子に差し出された仕事用のやけに体にフィットするスーツに腕を通しながら、小雪は溜め息を吐いた。その顔色はお世辞にも良いとは言えない。
昨日はそれぞれの準備が整った後、小雪に休む時間を与えようというルパンの提案で出発を今日に延ばした。

「長旅になるだろうから、しっかり休んでてね」

頭をぽんぽんと撫でるルパンの笑顔は頼もしいものであったが、小雪の心中は曇り空。色々なことが、短時間に起こりすぎている。うまく脳みそが整理してくれなかった。
勿論そんな状況で寝付ける筈もなく、遠足前の小学生さながらの夜を過ごしたのだった。

トントン、控えめなノックが聞こえる。慌てて腹の辺りで留まっていたチャックを一気に胸元まで引き上げて、小雪は振り向いた。

「はい!」
「拙者だ…入るぞ?」
「あ、ど、どうぞ」

拙者、自分のことをそう呼んでいたのは一人しかいない。入室を促すと、静かにドアが開いた。

「30分後に出発する。身支度を整えておくといい」
「分かりました」

しかめ面でありながら、どこか気遣うような色を見せる言葉。小雪は自然と力んでしまっていた肩から気を抜いた。

目の前でせかせかとベッドメイクに勤しむ小雪を見て、五ェ門は内心溜め息を吐いた。
今朝、朝一でルパンと不二子に言われたことが頭の中を渦巻いて離れない。

「一応小雪ちゃんは一般人みたいだからさあ、あんまり怖い目に合わせちゃ駄目だかんな?」
「私の体、しっかり守って頂戴ね」

第一請け負った覚えはない!そう怒鳴り返したかったものの、口が達者なこの二人、自分が何を言っても無駄に違いない。肩を落とす五ェ門を知ってか知らずか、二人は楽しげに話しながら去っていった。
五ェ門とて、分かっているつもりだった。何の力もない一般人である以上、誰かが守らざるをえない。恐らくルパンは不二子につく、では次元がやればいい。そう思っていた矢先の指名。何故拙者。然し何時だって、五ェ門の反論は受け入れてもらえないのだ。

「…あの」

物思いに耽っていた為か。此方を覗き込む小雪に気付かなかった。恐る恐るといった風に声を掛けてくる小雪に、五ェ門は返事をしなかった。その代わり、昨夜から言いたかったことをひとつ。

「良いか」
「はい?」
「決して拙者から離れるな。何が起きるか分からん」
「…はい」

意を決した様に頷く。素直な返事に満足しながら、五ェ門は奇妙な感覚にも包まれていた。彼女は容姿だけは不二子なのだ。やはり、従順なことは不可思議に感じてしまうのは致し方ないのである。





20111203



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