上原小雪。
日本に在住。県内の学校に通うごく普通の女子高生。身体能力に大した特徴はなく、かといって頭脳明晰な訳でもなくいたって平々凡々。性格は大人しく、不二子とは正反対。

少女の自己紹介を纏めるとこうだった。もっとも性格に関しては五ェ門が様子を見て判断だけで、少女はあまり詳しいことは話さなかった。
一通りお互いのことを話し終えると、少女は気が緩んだのか笑顔を見せ、ぽつりぽつりと言葉を零し会話をしたがった。パリなんて初めて来ました、ふじこさんは綺麗ですね、皆さん遅いですね。それは場の空気を和ませるためでもあったのかもしれないが、相手は如何せん五ェ門。その意図を分かっていても上手い返事がしてやれない。そうか、ああ、うむ。簡単に短く言うとすぐに目を閉じ腕を組んだ。小雪はそんな五ェ門を見て、まずいことでもしたかと眉を下げる。薄らと片目を開き見た小雪は悲しそうで、慌てて五ェ門は口を開いた。否、開こうとした。ドアが勢い良く開いたため、そちらに意識が向いたのだ。無論、それは小雪も同じ。
開いたドアの先では、小雪の姿をした不二子が笑みを浮かべていた。

「分かったわよ、原因が!」

ぱあ、と顔を輝かせる小雪に駆け寄り、不二子は小雪が着ている黒のワンピース、その胸元を引き裂いた。小雪は顔を一気に赤く染め、五ェ門は目を見開き顔を背ける。言わずもがな頬は赤い。
自らの体があらわになっているのを気にもとめず、不二子はその谷間に光るものを手に取った。

「これよ」
「…あ…!」

不二子の右手の中には、小さなプレートにリングの装飾が施されたシルバーのネックレス。それを見て小雪は小さく声を上げる。「見覚え、あるでしょう?」その言葉に頷いた後、小雪は不二子を見上げ、その首に掛かるチェーンを引っ張り出した。そのチェーンの先には、同じく王冠の装飾のプレート。よく似たデザインのそれらのネックレスが、彼女たちの手の中で光る。

部屋に入ってきたルパンと次元は五ェ門の両側に腰を下ろした。ルパンに関しては小雪(外見は不二子)の姿を見てお得意のダイブ体制に入ったものの、五ェ門に一喝され渋々ソファへ落ち着いたのである。
破かれた胸元の布を何とか押さえながら、小雪は首を傾げる。で、これが何か。それを見て笑み、不二子もルパンに向き合いソファへ座った。

「ルパン、説明してあげて頂戴」
「はいよ」

得意げな不二子の表情に苦笑いを浮かべた後、ルパンは小雪へ顔を向けた。



時は17世紀。
イギリス国王に即位したルイ14世は、マリー・テレズという王妃がいるにも関わらず、他の女にも見境無く手を出した。マリーはそれを苦にしながらも何も言わず、ただ王妃として国王に尽くし、過ごしたという。
そんなマリーに、国王がたった一度だけ贈ったもの。婚約の際に、二人が対で持てるようにと特別に作らせた、リングの代わり。その後マリーのことなど僅かにも気に留めなかった国王からの、最初で最後のプレゼント。

「…それが、そのネックレスって訳よ」

真剣に話に聴き入る少女の胸元を指差し、ルパンは話を締め括った。

「だからね、そのマリーの呪いなんじゃないかって踏んでるのよ、私たち。愛する人からの唯一のプレゼントを奪われたら、誰だって怒ると思わない?」
「馬鹿馬鹿しい、呪いなんてある訳ねえだろう」

ねえ、と小雪に向かって首を傾げる不二子の言葉に、次元が煙を吐き出しながら悪態を吐く。不二子は私たちと言ったが、どうやらそう思っているのは不二子だけ、もしくは不二子とルパン…兎に角次元は信じてはいないらしい。煙草の火を揉み消す次元にべっと舌を出した後、不二子は猫なで声を出してルパンを見た。

「でも他に思いつかないじゃない、そうよねえルパン」
「そうなんだよねえ」

鼻の下を伸ばす相棒を見て、けっと次元が顔を背ける。帽子を顔が隠れるまで引き下げ、頭の後ろで腕組み。どうやら話し合いからは離脱するらしい。その様子にルパンは苦笑した。こいつは、女相手だとどうにも。
話についていけず困り果て、俯いていた小雪の肩に、ふわりと何かが掛けられる。「何時までもそのままでいるのは辛かろう」何時の間にソファから離れていた五ェ門が、バスタオルを持ってきていたらしい。小雪の破かれた服を見かねてのことだろう。

「あ…ありがとうございます」
「…礼には及ばん」

体を隠すものが手に入った安心感に、小雪は笑んで五ェ門を見上げる。見下ろした先、嫌でも見える胸元に、五ェ門はそう返事をしながらも顔を背けた。顔に熱が集まるのを感じて、煩悩に塗れた自分を恥じる。
五ェ門がそそくさと小雪から離れたところで、ルパンが声を上げた。

「よし、じゃあ決まりだ!」
「何がだ」
「本当に呪いが原因だって言うなら、返しに行こうぜ。ご立腹のマリーちゃんの元に、ネックレスをな」







20101113



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