「…えーと、何かご用かなお嬢さん?」
「何よルパン、私が分からないって言うのお!?」

ドアを開いたまま、目の前に立つ少女にとりあえずと声をかける。すると少女はヒステリックに叫び、ルパンの胸元を掴んで揺さぶった。それはもう激しく。呆然とする次元と五ェ門越しにそれを見て、不二子が目を見開いて呟いた。

「…わ、私?」
「は?」

その小さな言葉を聞き逃さなかった次元が振り向く。少女は少女でぐったりしたルパンを手から離して床に落とした後、不二子を見て「私じゃない」と言い放った。何が何やら。ずり下がる帽子を次元は押さえた。





「一体何がどうなっているのだ」
「えーと待てよコンチクショー、お嬢ちゃんは不二子で不二子はお嬢ちゃんで、不二子の中身がお嬢ちゃんで不二子の中身はお嬢ちゃんの中、ってえ訳よ!」
「さっぱり分かんねえな」
「ルパ〜ン、早く何とかしてえ」
「わあーったわあーった不二子、じゃないお嬢ちゃん」
「不二子よ!」

あれから数十分後、何とか意識を取り戻したルパンと次元、五ェ門、少女と、服を着たらしい不二子はリビングに集まっていた。女組と男組に分かれてソファに座り、向き合う。
つまりこうだ。何があったかは知らないが、少女と不二子、二人は入れ替わりを起こしてしまったらしい。それで今朝の不二子はああもおかしかったのか、男たちは納得した。少女になってしまった不二子は、起きてすぐ体の異変に気付いたらしい。「だって胸元が軽すぎるんですもの!」という発言に項垂れる少女をルパンはけなげに慰めてやった。

ルパンはすっかり困り果てた。少女(中身は不二子)は早く助けろとやんややんやうるさいし、不二子(中身は少女)は不安げな表情でそわそわと落ち着かない。どうするべきか、何からやるべきなのか。頭を抱えたルパンに、落ち着いた声が手を差し伸べた。

「まずは、彼女が何者なのかを知るべきであろう。拙者たちのことも教えてやるべきだ」

バッと顔を上げると、五ェ門がこちらを見ていた。たちまちルパンの目に涙が浮かぶ。持つべきものはしっかりした友人。
その声をきっかけに、次元が立ち上がった。

「じゃ、俺は原因追及と洒落込むか。おい不二子、手伝えよ、お前のことだ」
「まあ!私今回は本当に被害者なのよ、騙してなんかないわ」
「あーあー、分かってら。ルパン、お前の頭も貸せ」
「仕っ方ねえなあ、じゃ五ェ門、後は任せた!」
「なっ…待て!」

次元の後を追う少女(不二子)。次元の誘いをいいことに、ルパンはそそくさとソファを離れた。五ェ門の制止の言葉など聞くはずもなく、三人は部屋を出て行った。バタン、ドアが閉まる。

どうしろというのだ。次は五ェ門が頭を抱える番だった。女と二人きりである状況が、五ェ門にはどうも落ち着かない。
まだ、だ。まだいつもの不二子となら、慣れている分平気だった。しかし今の不二子は、不二子じゃない。気配やそういったものに敏感な五ェ門のこと、目の前にいる不二子は不二子に見えなかった。

不二子(少女)も落ち着かない。一体ここはどこなのか、彼らは誰なのか。とりあえず先程の彼らの会話から、この体が"ふじこ"のものであることは分かった。そのふじこは今自分の体の中にいるらしい。
しかし何よりも、少女は怒りたい気持ちで溢れていた。彼らはちょくちょく困った顔をして自分を見るが、きっと誰より困っているのは自分なのだと。知らない人ばかりに囲まれて、自分は一人きりなのだ。しかもよりにもよって、一番怖そうな人が残った。もうどうしたらいいのか。少女は下唇を噛んだ。

暫く続いた沈黙を破ったのは、低い声。

「…拙者、石川五ェ門と申す。お主の名を教えてはくれぬか」
「あ、え…上原小雪、です」

そうか、と一言。再び沈黙。静寂が痛い、少女はしかめっ面の五ェ門を見て思ったが、五ェ門もそれは同じだった。ルパンにはああ言ったものの、何から話すべきやら。
再び長い間、先に口を開いたのは、少女だった。

「あ…あの、ここはどこなんですか?石川さんたちは一体、どういう関係なんですか?」
「…うむ」

五ェ門は閉じていた目を開き、一つ一つ丁寧に教えてやる。ここがパリ郊外の小さな別荘であること、自分たちが泥棒であること、先程別荘とは言ったがアジトと言った方が正しいこと。自分の目を覗いて真剣に聞いているその顔を見て、少し気恥ずかしくなりまた目を閉じた。

自分から聞いたことではあるものの、少女は更に困惑した。泥棒?パリ?私は犯罪稼業なんかに縁はないし、日本の自宅で眠りについた筈だ。
困惑ついでに、今湧き出た疑問を少女はまた尋ねた。

「…で、石川さんは時代劇の役者さんか何かですか?」
「…何を申すのだ」






20100901



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