融解





「ワシを好きだと言うなら、もっと可愛いげを出さんか」

とても正義を背負った警部の目には見えなかった。
彼の目は爛々とぎらついて私を見つめている。その視線に身震いすると、彼が小さく鼻で笑う気配がした。
室内は暗い。既に目が慣れているおかげで近くにあるものなら認識できるけど、少し離れればもう何も分からない。正に一寸先は闇。言葉通りだ。
ソファに座った彼に向かい合うようにして跨がっている私は、息が荒い。火照りきった私の体を、慰めるかの如く彼は優しく撫でた。

別に、そういうことをされた訳ではない。私が勝手に彼に発情しているのだ。

「小雪」
「ん、ん…?」
「どうされたいんだ、え?」

優しい手つきの割に、降ってくる言葉は冷たい。首に腕を回しておでこをくっつけて、馬鹿みたいに絡んで甘える私を、彼は少し怒ったみたいな顔をして見つめてくる。でも彼が怒ってないことくらい分かる。本当に怒ってたら私を突き飛ばして放ってどこかへ行ってしまうんだから。

キスがしたい。そう思ってるのに、溶けきった口からうまく言葉が出ない。「ちゅ…ちゅう、して」子供のような誘い文句では彼は聞いてくれない。表情を一つも変えずに腰辺りを撫でて、また私を発情させる。

「だらしのない女め」

また鼻で笑う。じわりと滲んできた私の涙を見て、彼は小さく溜め息を吐いた。それから少し間を置いて、噛み付くみたいなキスをくれた。
こうして彼といる時間が私は一番幸せだけど、彼にとってはそうじゃないかも知れない。もしかしたらあの大泥棒を追っているときの方が、いや、もしかしなくても、そっちの方が大切な時間だろう。
少し胸が痛むけど、でも彼はこうやって私との時間も作ってくれる。ちょっとでも私を気にかけてくれる。だから私はできるだけ、彼の言う通り可愛げを精一杯出す。唇が離れて、彼を見上げた。

「こ…幸一、もっと」
「フン」

相変わらず震えた声も、彼はちゃんと拾ってくれる。二度目のキスはさっきより長かった。



融解








(やまなしおちなしいみなしってやつ)
20101017




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