お次は何をご所望で
「ありがと、小雪」
またしても裏切られた。
とはいえ分かりきっていたことではあるから、私は溜め息を吐いて壁に凭れた。さっきまで私の手の中にあったダイヤは、今は彼女の胸元に収まっている。バイクに跨る彼女は実に嬉しそうだ。
テレビ見てよ、あのダイヤすごく綺麗よね、ねえ小雪、私どうしてもあれが欲しいの、二人で協力しましょう、勿論分け前はどうにかするわ、ねえ小雪。
数日前、私の家に勝手に上がりこんできてのおねだり。画面に映る大きなダイヤを指差して腕を引く彼女。そんなに光物が好きならガラスの破片でも持ってれば良い、そう思いはするものの、彼女はどうにも気を引くのが上手い。巧みな話術に負けて私は今回も彼女のために盗みを働くことになったのだ。
そんなことはいつものことだし、こうして裏切られるのもいつものこと。分け前なんて一銭もない。分かっていてもこうして私が働いてるのは、やっぱり彼女のおねだりが上手いからだろう。
「不二子」
ヘルメットを被る彼女の名前を呼ぶと、素直にこちらに振り向く。へらと笑って首を傾げた。
「次会えるのは、いつかな」
二つの意味を込めてそう投げかけると、彼女は目を丸くしたもののすぐに笑んだ。バイクのエンジン音を響かせ、それに負けじと大きな声。「そういうところが好きよ」まるで捨て台詞。たっぷりとした髪をなびかせて、彼女の背中は遠くなっていった。
そうして彼女が見えなくなって直ぐ、私のポケットから着信音。
「もしもし?」
『もしもし小雪、さっきいつ会えるかって聞いたでしょう?あたし明日会いたいの、いいわよね』
「…、はいはい、何時頃ですかね」
『やあん、愛してるわ小雪!』
お次は何をご所望で
(難産!)
20100917