盗品は果たして





電灯の明かりだけが頼りな深夜。日本の、田舎の夜はつくづく不便だとルパンは心の中で呟いた。これがラスベガス辺りの大都会であれば、夜でもネオンが輝かしいものだ。
暗い路地裏を走り抜ける。右手には少女の腕。学生服を着た黒髪の彼女は、必死にルパンの足についていっていた。

「ル…ルパン、ルパン!」
「はあい、何だいお嬢さん」
「いつまで、走るの?」
「さーていつまでだろうねー」

困惑した様子の彼女を見て溜め息。第一連れてくる気はなかったのだ。いつのまにか、そう、流れで。半ば彼女がついてきたがったのもある。自分が女に弱いことは相棒に口うるさく言われなくても分かっていたが、こんな子供にまで。馴染みの警部から逃げるとき、ついこの細腕を掴んでしまったことを後悔した。

ある程度走ったところで、ルパンは足を緩めた。そろそ追っ手が撒けただろうし、何より彼女の息が上がっている。休憩させて、いや、連れて行く気はないのだ。さてどうやって別れよう。ルパンは首を傾げた。彼女は膝に手をついてぜえぜえと息を吐いている。
少女は暫くして息を整えた後、未だ悩みこむルパンに顔を向けた。厄介だと思っているのだろう、それは彼女にも分かっていた。興味本位で深夜家を抜け出し向かった、ルパンの挑戦状が送られた美術館。偶然出会った張本人。本心を言えば、連れて行って欲しかった。このまま。しかしそう言えば、彼の顔が曇ることは明らか。この歳にもなって物分りが悪くはなりたくないと、一歩、二歩、後ずさってルパンから離れた。

「ごめんなさい」
「ん?」
「放っておいていいですから、私は…早く逃げて下さい」

無理矢理笑顔を作った。自然な笑顔ではないことはルパンにもよく分かった。少女は俯き、ルパンが去るのを待っている。
さてどうする。悩んでいた頭がスムーズに回転する。少し経って、ルパンは大きく溜め息を吐いた。そう、自分は女に弱い。女の人だろうと女の子だろうと、弱い。
要は、別れることを考えなければ、悩む必要などないのだ。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「えっ、あ…小雪、です」
「小雪ちゃんね、かんわいいじゃないの」

ぱっと上を向いた顔、その頬を両手で包み込む。途端に赤く染まっていく顔に少し笑って、ルパンは悪戯な笑顔を浮かべた。

「俺ぁルパン三世様だ。今この瞬間から、君から退屈を盗んじゃうよ」

予告状はナシだ。ウインクしたルパンに、小雪は涙を浮かべて笑った。ブオォオン、車が走ってくる音がする。ウォンウォン、反対からはパトカーのサイレンの音がする。うろたえる新しいファミリーを抱きかかえ、ルパンは再び走り出した。



盗品は果たして一体






20100831




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