今世紀最大の運を使ったと言っても過言ではない。一目惚れをして、あの手この手を使っても全く靡いてくれなかった伏黒恵くんが、なんと私の彼氏となったのだ。
「おいそこのハッピーガール。あんまり浮かれてっと死期早めるぞ」
「やだなぁパンダくん。私は今突然矢が刺さっても槍が降ってきても死なない自信あるよ!」
物凄い自信だと返って呆れているパンダくんに私はにこにこと微笑む。
「にしても、恵は気でも狂ったのか?」
「ちょっと!酷くないそれ!ねえ真希ちゃん!」
「分かる」
「分かるって何!?」
さらにその隣にいた棘くんも「しゃけしゃけ」と肯定した。私のクラスメイトは酷い人しかいない。
「そんなに信じられない!?」
「だって俺恵の嫌そうな顔今でも鮮明に思い出すぜ」
「話しかけられるたびにまたかよって顔してたもんな」
「あーあー聞こえない聞こえない」
耳を塞ぎ、これ以上聞かないようにする。私の耳は都合の悪いことは聞かないようにしているのだ。
それにしても、これだけみんなに疑われると、少々不安になってくる。実は私たち付き合っていないのだろうか。私が勝手に思ってるだけ?
「名前先輩いじめないでくれますか」
ハッとして目尻に溜まった涙を拭う。振り向くと、恵くんが立っていた。
「恵くん!」
「よお恵。彼女に会いにきたのか?」
「えっそうなの?」
「違います」
ぴしゃりと言う恵くんに輝いていた目は一気に光を無くす。即答は酷いと思う、せめて間が欲しかった。
「真希さんに呪具の使い方教わろうと思って」
恵くんは真希さんを見る。相変わらず真面目だなあと思っていると、パンダくんがにやりと笑った。
「まじかよ恵〜!早速浮気かよ〜!」
私は恵くんの顔が引きつるのが分かった。慌てて「ちょっとパンダくん!」と叫ぶ。
「そうやって冷やかすのやめなよね!」
「なんだよ名前だってちょっと思ったろ?」
「思うか!どんだけ心狭いのよ私!」
あれだけで浮気なんて言ってたらきっと私は恵くんに見限られてしまうだろう。パンダくんを叱った後、恐る恐る恵くんの方を向く。恵くんは至って表情を変えず、私を見ていた。
「先輩、大変すね」
「あ、……あははは……」
なんだこの他人事のような言い方。一応君も当事者なんだぞと言いたかったが、やはり私の勘違いが濃厚になってきた。ほんとうに私、勘違いしてただけ?恵くんは、私の彼氏じゃないの?不安になりながら恵くんを見つめると、かちりと目が合う。
「でも浮気認定されなくて良かったっす」
「え」
「先輩ヤキモチ妬きそうだし」
「……」
開いた口が塞がらなかった。一体どういうこと?
「め、恵くん」
「?なんすか」
「私たち、……付き合ってる?」
「?アンタが告って来たんでしょ」
「……」
私は少し考えた後、顔を上げパンダくん達を見た。
「言質とったー!!!」
叫ぶ私に対し驚いているパンダくん達は物凄い形相で恵くんを見る。
「まじかよ恵、お前同情で付き合ったのか?」
「違います」
「名前はウゼー存在じゃなかったのかよ」
「違います」
「ちょっと!」
それから暫く恵くんに質問した後、三人は気を利かしたのか「二人きりで話せよ」と言ってぞろぞろとどこかへ行った。全く、台風のような人たちだ。一気に疲労が来て大きなため息をつく。
「ごめんね恵くん」
へにゃりと笑うと、恵くんは「先輩」と私を呼ぶ。
「先輩は付き合ってるって思ってなかったんすか?」
「……お、思ってたけどこの人たちが色々言うから不安になっちゃって」
「自信持ってくださいよ」
恵くんは私の手を握る。ゴツゴツしてて、私よりももっともっと大きくて、男の子の手。なんだか恥ずかしくなり、顔を背けた。
「も、もつね」
「なんで俺の顔見ないんすか」
「だって恥ずかしい」
「今更……」
はあー、とため息をつかれびくっと肩が震える。うそ、呆れた?慌てて顔を向けると、恵くんの手が私の顔に伸び、両頬を両手で掴んだ。固定されて顔を背けられない。
「恵くん。離して」
「嫌だね。いっつも穴が開くほど見られて困ってたんだ」
「ご、ごめん」
わたし悪いことしたな。これからはあまり見ないようにしようと思っていると、恵くんの顔が近づいてきた。なんだろう、と思っているうちに唇を塞がれる。離れた後、ぱちぱちと瞬きする私に対してしかめっ面の恵くんは、「油断しないでくださいね」と言った。
「俺を負かしたからには覚悟してもらわないと」
「……え?」
私、何かで恵くんに勝っただろうか。「それどういう」どういうこと、と聞こうとしたが、またも唇を塞がれ聞くことは出来なかった。

20200202