■ あつくなりましたね



「新隆くん、いる?」
「はいはい。新隆くんいるよ」
ドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて彼の名を呼ぶと、おどけた返事が返ってくる。くすくすと笑い声をあげて事務所内に足を踏み入れると振り返った新隆くんはいつものスーツのジャケットを脱いでシャツを捲っていた。手に持ったビニール袋を顔の位置まで掲げて食べますか、と言葉を掛けると彼は頷いて給湯室へと向かった。
出来たてを直ぐに持ってきたためゆらゆらと立ち上る湯気とソースの匂いがふわりと顔に当たる。小さくお腹がなったところで2人分のお茶の入れられたグラスを持ってきた新隆くんにそういえば、と問いかけた。
「モブくんは来てないんだね?」
「おう、今日はちょっとな」
「部活忙しいの?」
「みたいだなー」

他愛もない話をしながら熱々のたこ焼きをつつく。猫舌の彼を気遣ってちゃんと冷ましてから食べてね、と言うと素直に従ってふぅ、と息を吹きかける姿に笑みが零れた。
「ん、うまい」
「だね」
「今日、メシは?」
「作りに行くよ。買い物行かなきゃね」
そう言って新隆くんを見やるとソファにだらりと伸びてデスクの方を見ながら唸っていた、かと思えばばっとこちらを振り向いた。口の周りに食べかすをつけたまま顎に手を当てキメ顔をした新隆くんがおかしくて吹き出すように笑う。
「なんだよ」
「ここ、ついてるよ」
「マジで!取ってくれよ」
「はいはい。で、どうしたの?」
「時間もいい感じだし、今日はもう閉めて帰るかと思ってな」
「いいの?そんなことして」
「大丈夫だろ」
なんてことない、とでも言うように返ってきたマイペースな声に半ば呆れながらも帰り支度を始めた背中に習って使ったグラスを給湯室のシンクへ運ぶ。
軽く水で流していると置いとけよ、と投げられた声に水を止めて戻ると既に椅子にかけていたスーツのジャケットを着て私のバッグを持って扉を開けて待っていた。
「どうぞ、お嬢さん」
「ふふ、王子様みたいだよ。新隆くん」
「やっぱ、外にメシ食いに行くか」
「やったー。私行ってみたいお店があるんだよね」
「新隆くんに任せなさい」
言いながら胸を張った新隆くんの腕にぎゅっと抱きつくと一瞬ふらりとバランスを崩しかけたが踏みとどまって階段を降りる。
ビルを出て空を見上げると事務所に訪れた時に明るかった空は暗くなりかけていて、夏が近づいてきているとはいえまだ少し肌寒い。組んだままの腕に体を寄せると新隆くんは私の顔を覗き込んでいたずらっぽく笑うと弧を描いた少しカサついた唇を私のそれと重ねてすぐに離れていった。
熱くなった頬を押さえてちらりと見上げると同じように赤くなった耳が見えて、ぴったりと寄せた体からじわじわと伝わってくる熱を感じた。



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