「指きりの結末」


『指切りの結末』


あの子と 指切りしたの そしたらね
あの子ったら 指切りした約束を 破ったのよ。
だからあの子の小指を 取ってしまってよ。


そしてまた、一人の子はこう言った。


あの子と 指切りしたの そしたらね
あの子ったら 指切りした約束を 破ったのよ。
だからあの子の小指を 取ってしまってよ。



深夜。まだまだ外は月の光で薄っすらと明るい頃、入組んだ路地の奥の奥。
スピカは、家の床が軋む音で目が覚めた。その音は、段段と大きくなっていき一階から二階に階段を上って来ているのが解った。大きくなる音に距離が近くなるのを感じた。そして、二階まで上りきった音は、隣の部屋の扉をゆっくりと開け入っていく、パタンと扉が閉まり、また清らかな音のない夜に戻った。
隣はシャムの部屋。
けれど、店の主人シャムは夕方から部屋に籠ったままのはずで、今の時間に隣の部屋へ誰かが入っていくのはおかしい。
そうしてふと思ったのが、シャムが時々通ういやらしいお店の事。まさか、家にまで連れてくるなんて思いもしなっかた。本当に厭きれた主人だ。
家の壁薄いのにな…
寝よう。寝てしまったら、何でもないから。
と思うも、寝むれる訳がなかった。僕は、しょうがなく目だけでも伏せてみた。すると、隣からはソファーがギシッと軋む音が聞こえた。
これだから大人って嫌い。
あした朝になってもシャムの顔が見たくないな。あ、あの人は朝起きてなんかないかぁ…
聞きたくなんかないのに自然に耳に入ってくる音。

「ねぇ、今日は何で私が来たか解ってるんでしょう?」
「もちろん。君のして欲しい事は大体解ってるよ。」
「流石、魔法使いさん!じゃあお願いね。」
「おっと、声に出してお願いしないと望みは叶えてあげれないなぁ。」
「……。意地悪。」
「さぁ、御嬢さん、お望みをどうぞ?」

シャムはそういうのが御好みなんだ。此のまま眠れなかったらどうしよう。そんな事を思っていると、訪問者から出た言葉は意外な物だった。

「あのね、あの子と指切りしたの。そしたらね、あの子ったら指切りした約束を破ったのよ。だからあの子の小指を取ってしまってよ。」

何だか救われた気がしたけど、まさかこんな時間にお客さんが来るなんて思いもしなかった。

「じゃあ魔法使いさん。よろしくね。」
「喜んで引き受けました。御嬢さん。」

そして、夜は更けていった。





朝になると、もちろんシャムは起きてこなかった。
昨日の依頼が、なんだったのか気になったが、まぁ今度聞けばいいなんて思っていた。
最近は、朝から店を開けるようになってちらほらと、シャムの薬の噂を聞きつけた人達が来るようになった。繁盛していると言ったら嘘になってしまうが、なかなかお客さんは多くなってきたような気がする。
店の低い棚に置いてある薬は、簡単な物ばかり。例えば、この前僕もシャムから貰った睡眠薬だとか頭痛薬。その他に、傷を治癒するような薬だとかいろいろ。
飲み薬だったり、塗り薬。沢山ある山のような薬にお客は、満足しているようだった。
ただ、僕の接客には、不満があるようなんだけど…
ときには、お忍びで顔隠しのための仮面を被った貴族なんかも来たりする。
まぁ、滅多に店には顔を出さないシャムは知らないんだろうけど…

今日も、朝から来たお客さんは切り傷に効く治癒薬を買っていった。
午後は、あまりお客さんも来なかったので、早めに店を閉め買い物にでかけた。
何時もの様に、耳をパーカーで隠して、出っ張った牙はシャムがくれた薬で一定の時間だけ隠してしまう。
買い物と言っても、表通りに出ていく訳じゃない。裏通りの市場は、余り危険もなく一人で出歩ける唯一の場所。しかし、行くにはどうも気が進まない。シャムのよく行くいやらしい店の立ち並ぶ通りを抜け無ないと行けないから…
どうも、あの香水とか女の人の匂いは、苦手できが進まないが、もう残りの食べ物も無いからしょうがない。

「臭い…」

とっても甘ったるい匂い。

「スピカ…。買い物?」


名前。呼ばれた。
固く苔の生えた石畳から目線を上げれば、シャムが立っていた。

「また、此処に来てたの?」
「そうだよ!お姉さんのお相手をしに」
「違う!シャムが相手にされてるの…」
「でも、また来てねって。お相手してねって…」
「それは、お金持ってるからと、シャムが、かっこ…いいから」
「はははっ……スピカ、いくら僕が男性も大丈夫だからって僕に惚れたら駄目だよ!」
「無理だね。誰が、シャムなんか好きになるか…。」
「あらそうですか!ねぇ、どこ行くの?」
「…食べ物無くなったから」
「買い物かぁ。うん、久しぶりについて行こう」
「あ、そう。だったら荷物もってよね。」

珍しく、シャムは、買い物についてきた。
まだ僕が小さくて拾われたばかりの頃は、よくシャムとこの道を歩いた。本当はきっと行きたくなかったんだろうけど、手をつないで歩いてくれた。
シャムとの間にもちゃんと思い出があるんだ…。僕。
良かった。ここが居場所なのかと思うと少し安心する…

「スピカ。何買うの?」
「とりあえず野菜とか。買う。」
「あぁ僕、無理だわ」
「うん。だと思った。エスカルゴなら自分で持ってきてよ。ソースに使うバジルももってきて」
「わっかた。」

本当、何なら食べるんだろうね。エスカルゴ以外で…
買うものなんて少量で済むんだよね。僕ぐらいしか食べないし、僕も大食いでもないし。
買い物を済ませるとただ家に帰るだけになった。お肉や野菜、エスカルゴの入った紙袋を持って家路につく途中。昨晩の事を聞いてみた。
するとシャムは、まだ言えないの一点張りで答えてはくれなかった。
家に着く頃はもう霧がかった夕暮れ。晩御飯は?と聞くとやっぱり要らないだってさ。折角買い物に行ってきたっていうのに意味がないじゃないか。とりあえず晩御飯を作ってシャムの部屋の前に置いておいた。僕は一人リビングで晩御飯を食べた。今日は冷える早く布団に入って眠ろう。
そう思って、布団に入ったが昨日のようになかなか眠れなかった。最近ちゃんと寝付けない。そう思ってシャムから貰った睡眠薬と水を飲もうと一階まで階段を下りる。
なんでだろう…。明かりが付いて店も方に人の気配がした。そっと覗くと、シャム。そして僕と同じくらいの女の子が一人。装いからするとどうも貴族のお嬢様のようで、話し方もとても気品が漂っていた。

「君の願いは?」

「あのね、あの子と指切りしたの。そしたらね、あの子ったら指切りした約束を破ったのよ。だからあの子の小指を取ってしまってよ。」

何処かで聞いたことのあるセリフは、紛れもなく昨晩と同じものだった。

なぜだろう…
昨日も同じ依頼しているのに、また今日も言いに来てる…

「御嬢さん、君の願いうけ賜りました。」
「有難う。じゃあ御礼はまた、後日持ってくるわね。」

女の子はそう言うとあっさりと帰って行った。
なんで、二回も同じ事を言いに来たんだろう

「シャム…。」

僕が名前を思わず呼ぶと、ニッコリと素敵に笑って「まだ内緒。」と言った様な気がした。隠し事は沢山あると思うけど、今度の内緒はちょっぴり嫌な内緒に聞こえた。

部屋に帰って行ったシャムは、また籠ったままで結局、御飯も食べないし店にも顔を出さないし、結局三日も出てこなかった。
四日目の朝、今日こそは出てきてご飯を食べてもらおうと部屋まで行ったのだが、そのときには、部屋にいなかった。いったい何してるんだろう。
そして、帰って来た時には、朝方になっていたりした。

「シャム!その不規則すぎる生活は、良くないと思う。何しててもいいからちゃんと御飯は食べて。僕が折角作ってる意味がないじゃないか…。」
「ごめん。ごめん。もうね、飲んできたんだ。」
「あぁ、そう。その様子からそれくらい解るんだけどね。もう何年一緒にいると思ってんの?」
「そうか。もうスピカは息子同然だなぁ…。こんな親でごめんな。」

シャム酔ってる。

「さっきこの前の御嬢さんに用事済ませて来たんだ。それであしたも御嬢さんに用事があってね。ごめんだけど、今日はもう寝るよ」
「なんで一日で済ませて来なかったの?」
「何か勘違いしてるんじゃない?」
「なんで?同じ依頼を二回言いに来た女の子でしょ?一回で済むじゃないか」

シャムの口角が上がって笑い始めた。

「スピカ!違うよ。二回言いに来たんじゃなくて違う子が同じ事を言いに来たんだよ。」

何だかややこしい。

「あのね。僕の部屋に来た御嬢さんと、次の日の夜にお店に来た御嬢さんは全く関係がない二人。ただね。その御嬢さん達は、二人とも同じ男の子に恋してしまったんだ。」

シャムが言うには、その女の子は顔が瓜二つで、同じように指切りの約束を同じ男の子としたらしい。もちろん男の子の方は、同じ女の子から二回も指切りされたようにしか思わない。しかし、女の子は、そうは思わなかった。どちらの女の子も自分とは違う子と指切りをしている様子を見てしまったらしい。そこでシャムに依頼をしたんだそうだ。

「ねぇ。その依頼の内容って?」
「ん?」
「それはまだ秘密?」
「いや…。どうせもうすぐ解るよ」

そして、もちろん次の夜はシャムは家に居なかった。

また朝になって僕は、何時もどうりに店の番台に座り無愛想な接客で薬達の御守りをする。
何もないような日だったが、夜が騒がしかった。
シャムの部屋からはずっと物音がするし、外もなんだか五月蠅い。
何時も一緒の人形も今日は、シャムが魔法をかけてくれていなくって動いてくれないし寂しかった。
でも、こんな夜でもいつの間にか眠ってしまっていた。

朝になると、何時もの朝だったが周りの様子が違った。
何時もより外に人が集まっていてそれぞれで話をしていた。僕は、フードと薬を飲んで外に出る。


「ねぇ聞いた?昨晩殺人があったらしいのよ。」
「まぁここらじゃあそんなに珍しいことじゃないけどねぇ」
「そうだけどね。奥さん。何でも死んでた男の子、両方の小指だけ無くなってたらしいのよ。他には何の傷も痣も無いのに小指だけ。」
「小指?」
「そう、小指だけ…」

この話を聞いて、なんとなく犯人は解った。
きっとこの間の女の子だと確信した。結局、男の子の取り合いになって殺されっちゃったのか。小指だけの恋でこんなことになってしまって。
でも、警察なんかこの路地にはいって来ないし、女の子は捕まらないし、男の子の死体は何処かに捨てられて終うんだろうだろうな。
此の事は、シャムももう知っているだろうし、ずっと前から予想していたんだろうな。
こんな仕事簡単にしてしまうシャムは嫌いだ。好きだけど何を考えてるのかわかんなくなる時がある。男の子を殺したのは女の子達だけど、こんな結末に仕向けたのはきっとシャム。

あの人の心の暗い所が時に怖い。

ただただそこに突っ立って考え込んでいると横に立って来たのがそのシャムだった。

「僕が、怖くなったか?」
「怖いよ。だってこんなに簡単に人殺しの手助けできるし、結果は、解ってたんだろうけど。」
「僕は、こんな奴なんだよ。死んだ人間を見るのは慣れてる。だから、ぼくはアマングのスピカよりももっと悪魔だ。」
「シャムの過去の事は聞かないし、探ったりなんかしないけど、辛かったのは解るな。僕だって、ずっと一人だったようなものだから。だからさ、何かを思い出して泣かないでくれるかな?僕、シャムの弱い所見たくないし。」

その時、泣き顔は見なかったけれど、何時もの笑ったシャムよりももっと色っぽく泣いているんだろうなと思った。


この殺人は、一週間もしないうちに闇に消えていった。
その女の子達の顔が見てみたかったけど、なんだか小指が疼くのでもう考え無いことにした。きっとまた、シャムはこんな依頼を受けるんだろう。
余りこんな仕事はして欲しくないけど、シャムが受けるなら口を挟まないことにしよう。それで、今度シャムが涙した時はそれを拭いてやれるような僕になろうと思った。










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