とうらぶ公開用 | ナノ
301.

この想いには蓋をする。
一つは自分のために、もう一つはあなたのために。
焦がれる想いも、胸を裂くような痛みも、全て押し込んで厳重に封をする。そうして出来た想いの固まりは、自分でも気づきもしないような深い底へとしまい込む。
この想いには蓋をしなければならない。わずかな隙間から手を伸ばす呪いが、あなたに触れてしまう前に。



ともえと陸奥の蟠りが解けることなく数日が経過し、三者面談の日程も折り返し地点を過ぎようとしていた。二人の様子を見かねた獅子王が間を取り持とうと試みたが、全て失敗に終わってしまった。
通常の昼休みに入る前の三限の授業が終わり、生徒達は部活や帰宅の準備を始める。ともえは今日が三者面談の日だった。着替えるのも手間なので、時間が来るまで部室に居るつもりだ。陸奥が話しかける前に、ともえは足早に教室から出て行った。

「あいつ、本気で陸奥と話さないつもりかよ。」
「それでもわしがやることは変わらん。さて獅子王、今日も待ちがてら課題を片付けるぜよ。」

陸奥と獅子王も教室を出る。自習室(という名の放課後のたまり場)に行けば、時間を持て余した生徒達が各々自由に使用している。二人もその中に混ざった。

「最初は陸奥が悪いけど、ここまで避ける必要も無いじゃんか。」
「まあ、そうじゃのう。わしも思った以上に堪えておる。」
「なんで、そんなにともえに尽くせるんだよ。」

争いの種は陸奥が蒔いた。しかし、それに対する謝罪は既に済んでいる。ここまで頑固に許さないのも、ともえが意固地になっているとしか思えない。なのに何故、陸奥は笑ってともえを守ろうとするのか。少しくらい愚痴がこぼれてもいいはずなのに。
獅子王の問いかけに、陸奥はぽかんと口を開けた。

「尽くしてる訳じゃなか。ただともえを守りたいから動くだけじゃ。」
「ともえのことが好きだから?」
「す、す、好っ!?」
「それとも、審神者のともえに対する報いか?」
「・・・さてのう。正直わしにもよく分からんのじゃ。ただともえが大事なだけなのか、審神者を守りきれなかったことへの罪の意識なのか。でも分からなくてええ、わしがともえを守りたいという気持ちがここにあるからのう。」

胸を張って答える陸奥に対し、獅子王はただ頷くだけだった。
陸奥の言葉は全て真実だった。彼の胸の奥で疼きもがいているこの気持ちが、所謂恋慕なのか、器の大きすぎる友情の思慕なのか、はたまた審神者の源ともえに対するせめてもの贖罪なのか。陸奥は明確にこれだと断言することは出来ない。否、彼はそれでいいと思っている。刀剣男士だった頃、抱いてはいけないと自分で押さえ込んできた淡い想いを現在の陸奥は秘密の宝物だと思い大切にしているのが一番重要な事実なのだ。

「そういう獅子王も、前に言ったような簡単な理由だけじゃないことくらいわしにも分かるぜよ。」
「俺は・・・」
「喉が渇いたのう。ジュースでも買ってくるきに、獅子王はどうする?」
「俺はいらない。」
「ほうかほうか。ほんじゃ行ってくるぜよ。」

陸奥が席を立つ。ここに居ない方が獅子王のためだと陸奥が察したことは、彼にもよく分かった。大雑把なように見えてよく気がつく友人だ。

「俺だって、お前みたいに割り切れればいいのにな。」

ともえと初めて出会った日のことを獅子王は思い出していた。
真っ赤に目を腫らしているともえの母の後ろで、もじもじと彼女の服を弄りながら不安げに顔を覗かせている姿が最初に見たともえだった。獅子王も、三日月の後ろでともえ達を見ていた。あの日の衝撃は今でも覚えている。ともえが名前を口にした瞬間、全ての記憶が津波のように獅子王の脳に押し寄せた。

「何で俺なんだろうな。」

獅子王は力一杯息を吐くと、腕を組んで机に突っ伏した。
もっと相応しい者がいたはずだ。なのに何故、自分が一番最初にともえに出逢ったのか。胸が裂けるような想いの正体は獅子王には分かっていた。これは渦巻く不安だ。獅子王の記憶は一部が欠けていた。最期の戦闘風景を思い出すことが出来るのに、自分が一体どの部隊で戦っていたのか思い出せないのだ。記憶が獅子王に思い出せと囁く。欠けた記憶がこの不安を払拭するのと同時に、何かが壊れてしまうのではないかと獅子王は直感していた。

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