彼らに祝福を
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太陽が真上に来る時間帯、みんな好き勝手に町を見回りに行っちゃったからうちも適当に歩こうかな、なんて考えていた。って言ってもここはそこまで人の多い町では無いんだけど。だから歩いてたらみんなと合流するかも知れない。

ヒュッと肌寒い風が一瞬だけ吹いて気づく。そういえばもう秋になるのか。ちらほらと七分袖の服も見かけるようになってきたし、今だってそこまで暑いわけでもない。寧ろ涼しいぐらいだ。季節風邪に注意しないとな。



「…うーん、なんか食べようかなぁ。」



ふと思い出すのはジョーイさんに聞いた話。路地裏辺り、かな。そこら辺に隠れた名店があると聞いたのを思い出す。そこに行こう。うん、一人だけど寂しくなんかないよ、うん。

夜月に見られたら馬鹿にされるだろうな、なんて思ったけどいいもん一人で美味しいもの食べてやる。


ちょっと早足で路地裏に入ると、影になっていてひんやりとした空気が肌を刺激した。何となく、何となくだけど喧嘩の雰囲気があると直感で感じた。人が二人ぐらい並んで歩けそうだけど、決して広くない、寧ろ狭いと言ってもいい路地裏。そっか、路地裏か。



「…ん。」



歩調を緩めてゆっくり歩いてると、聞こえた。騒音、罵声、鈍い音。あらら、やっぱり喧嘩勃発するもんだね。まぁわざわざ突っ込みに行くのも何だしなぁ。店探そう店。

BGM代わりにはならない音を耳で拾いながらその隠れた名店を探す。探してる内に音の出所が近づいてるのは気のせいだと思いたい。そして視界、というかちょっと歩いた先に、この狭い路地裏で喧嘩の光景が見えるのも気のせいだと思いたい。

思いたかった、けど。



「…マージで?」



その喧嘩の光景がしっかりはっきりと見えた時に気づいた。囲まれてる一人の女の子が囲んでいる男たちを無双していることに。うわ、強いね。ここから見てもわかる。でも、あれは多すぎないか男たち。それでやられてるのか大丈夫か。

何だか、逆に男たちの心配をしてしまった。というか憐れでもある。


まぁあれなら女の子の心配はいらない、のかな。いや心配だけど。ただうちはお腹が空いたんだ名店どこだよ。見つからないんだけど。辺りを見回すと、また気のせいかな、と思いたい事態が待っていた。



「は? 何で喧嘩のとこの先なの?」



ちょうど、看板が見えた。喧嘩の先、寧ろ喧嘩の真ん前と言ってもいい。え、あれじゃ入れないんだけど。

あぁ、これはあそこに乱入しなきゃいけないな。お腹と背中が引っ付くわあんな大勢の喧嘩を待ってたら。喧嘩が起きている場を改めて見てみると、その中心の女の子のガラス細工のような目とカチリ、視線があったような気がした。

笑って、る?



「んだそこの餓鬼!まさかコイツの仲間か!?」

「へ?」



もう一度女の子を見ようとした時、一人の男がうちに向けて馬鹿みたいに大きい声を出すもんだから他の男たち、女の子も含めて動きを止め、こっちに目を向けてきた。あぁ、終わったな。頭の中で煌兄が暴れてこい、と言った気がした。

じりじりと睨みながら一人、二人とうちに寄ってくる。残りもまたうちの方に。女の子はどこか楽しそうな、試すような、そんな目で一歩離れたところで傍観に移っていた。これは喧嘩売られたということでいいよね。よし自己完結オッケー。



「…っし、…来いや。」



一気にスイッチを切り替えて早々に終わらせようと挑発する。あの女の子が粗方倒したからか、残りは四人だった。本当はタイマン派だけどこの際仕方ない。と思った瞬間、雄叫びを上げて殴りかかってくる男二人。こんな狭い路地裏でよくまぁこんな雑なやり方が出来るもんだ。

ひしひしと伝わってくる少しの殺意が心地好かった。



「ッオラァ!」

「…っ…おっそい、なぁ!」



ヒュッと空を切る音のする鋭い拳が躊躇いなく俺の顔面にストレート。それを身を屈めて避け、そのまま相手の懐に入って鳩尾に体重を乗せた一発を思いっきり入れる。崩れ落ちた一人からすぐに目を離して、後ろで俺に殴りかかろうとしていたもう一人の拳を避けて紙一重の攻防戦。残り、三人。



「何者だてめぇ!」

「何って、ただ喧嘩を買っただけの一般人だ、っての!」



力強く踏み込んで一気に相手との間を縮める。慌てた男は応戦しようと拳を突きだし、後ろからも蹴りや拳がきたのがわかった。暢気だけどここで思った。やっぱりタイマンが一番だと。

そう思い直すが否や、蹴りをいなしつつ、当たり、地面に倒れ込むフリをする。両手両膝を地面について。四つん這いのような体制。そしてその機会を逃すかと言わんばかりに蹴りを俺に入れようとする。でもそれが狙い。


だって、その瞬間はわざと誘い出した。



「…俺は腹ァ減ったんだよおお!」

「っ、がっ!?」



即座に両膝を程よく伸ばし、右足で円を描くように体勢を変えつつ、素早く足払いをかけた。綺麗に決まった足払いに、残りの男は地に伏せる。ここまできたら後は簡単。


口元を歪ませて、ぴょんっと一人の男にジャンプした。ジャンプした先? そりゃあ決まってるだろう。



「っ〜!?っー!」



全体重を乗せて両足で男の急所辺りにジャンプ。声にならない声を上げた男は痙攣した後に気絶、を見届ける前に残りの男にも同じように。

よし、これですっきりした。終わり終わり、おーわった。



「…いやぁ、強いねキミ! トドメがえげつなかったけどな!」

「……んぁ?」



パチパチと乾いた拍手が路地裏に響いた。振り返るとそこにはさっきまで男に囲まれていた女の子。うわ、美人というか、綺麗。ガラス細工のような透明に近い目は、見ているだけで吸い込まれそうだった。でもその深い藍色の髪がまるで深海のようで。単純に綺麗だと思った。

いやまぁ喧嘩してる内にすっかり女の子のこと忘れてたんだけど。



「…えーっと、平気、なのかな?」

「んー? 平気平気!余裕のよっちゃん!」



ブイッとピースサインをしつつ屈託の無い笑顔で返してくれた女の子の綺麗で不思議、という第一印象は見事に崩れ去った。何だか明るい子だなぁ。

そしてさっきから思ってたんだけど心無しか女の子がそわそわしているように見える。どうしたんだろう、と声をかけようとした時には何故かキラキラとした目で迫られていた。



「ところでキミ名前はなんて言うのかな?あ、俺の名前はレオなんだけどさ、キミの名前を知りたいんだ。」

「あ、えっと……陽佐、だけど…。」

「陽佐くん!なぁ、お互い名前も知ったことだしちょっと俺と一緒に愛の逃避行、げふんっ一緒に美味しい店でもどうだい?」

「え、いや愛の…?」



物凄い勢いに押されたのと、よくわからない単語が聞こえたせいか、あれよあれよという間に路地裏から連れ出されたうち。え、何これ何これ逆ナン? いや逆ナンにしていいのかな?

あ、隠れた名店が遠ざかっていく。いいやまた後で来よう。うちよりちょっと小さい背丈の背中を見つめながらうちはぼんやりと、お腹空いたなぁと空いた片手でお腹を擦っていた。

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