お好きなように!


謙也誕生日おめでとー!


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「けんやー」
「…」
「なあ、けーんーやー」
「…なんやねん」

ケンヤの機嫌が悪い。そりゃあもう背中から「俺は怒っています」ってのがむんむん伝わる位に。
どんな可愛い声で呼んであげても甘えて擦り寄ってやってもこっちを向こうともしない。
まあ理由は分かってるんだけど。

「なあーけんやー悪かったってば」
「…白石のあほ」

ケンヤの言うとおり。うちが本当に悪い。あほだったなあと思う。
こないだはケンヤの誕生日だった。だけど祝ってあげられなかった。用事があったから。
それも、どうしても無理な用事とかじゃなくて、ただ友達と遊んでてケンヤと会う時間がなかったっていう理由。
でも自分的には友達のほうを優先したかった理由は一応ある。
こないだ卒業式を迎えて、仲良しの友達と離れてしまうことになった。だからせめて最後に遊ぼうねってことで遊びに行った。
ケンヤとは高校も無事一緒になったから後回しでもいいかなって思ったんだけど。でも。
ケンヤはそれにすごく怒った。というか、拗ねた。
基本的にケンヤは優しいから怒鳴ったり怒鳴ったりしない。だからほんとに怒ったときはこうやってなんにも喋らなくなってしまう。

「けんやぁ」

前に回りこんで俯くケンヤの顔を覗き込む。あ、ちょっと泣きそうな顔。
赤い目元に優しく触れてやるとじわりと視線をこっちに向けた。

「…ごめん、白石」
「え?」

ケンヤが申し訳なさそうに口を開く。
もっと怨み辛みをつらつらと述べてくるかと思ってたから少しびっくりしてしまう。

「白石だって友達との約束あるのは分かってんけど、…でも俺のほう優先して欲しかったっちゅーか…うん、子供やなあ俺、ごめん」

ああもう。ケンヤはほんとにいい子やなあと思う。
ケンヤはうちのことを甘やかしすぎだ。もっとわがまま言ってみてもいいのに。
怒っていてもすぐにうちのことを優先で考えてしまう。

「けんやー」
「わ、しらいし」
可愛いケンヤが愛しくて、小さく体育座りした体に抱きついてその勢いで押し倒す。
広い胸板に頬ずりするとケンヤが背中に腕を回してきた。
まだ赤い目元で微笑みながらぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
可愛い。本当に可愛い。

「な、ケンヤ」
「なに?」
「誕生日プレゼント欲しい?」

ちら、と上目遣いで見上げてやるとケンヤの喉がごくりと動いた。ああ分かりやすいやつ。
きっとまたえろいことを考えているんだろうなあ。普通の誕生日プレゼント用意してたらがっかりしてたんだろうなあ。
でもうちはケンヤのことをちゃんと分かってる。だからケンヤが想像してることをプレゼントしてあげる。

「けんや」
「、おん」

わざと焦らすつもりでもう一度名前を呼ぶ。
ケンヤの目はもう既にぎらぎらとしていて、体の奥がぞくぞくと疼く。

「誕生日プレゼントは、うち」
「っ、…し、らいし」
「なんでもしたいこと、好きにしてええよ」

と、言っても割といつも好きなことさせてあげてるけど。
でもあほなケンヤはこういう言葉があるだけですごく興奮する。あほだなあ、でもほんとに可愛い。
ケンヤの腕に力が込められる。このままひっくり返されてことがはじまるのかなあとか思ってたけど、違った。

「あ、明日!」
「あした?」

ケンヤは起き上がってべりっとうちを引き剥がした。

「明日、朝早くから、夜の8時くらいまではうち、誰もおらんねん。だから、明日一日ってのは…ダメ…?」

欲張りなんだか謙虚なんだか分からない。
そんなに下手に出なくなっていいのになあと思う。
でもそんな可愛いケンヤが好きなんだけど。
ちらちらと機嫌を伺うようにこっちを見てくるケンヤに優しく微笑んであげる。

「ええよ、んじゃ、明日」
「お、おん!おおきに!」

言ってやるとぱあっと嬉しそうな顔をした。
ぎゅっとうちの手を握ってぶんぶんと上下に振る。

「んで、今日はええの?」
「う…あ、明日のお楽しみにとっとく…我慢する…」

ぐぐぐと欲望をかみ殺すようにケンヤが言う。
こんなこと言ってるけど本当は今したいんだろうなあ。うちが帰ったら明日のこと考えてヌくんだろうなあ。
今その欲求をちょっと解消させてあげてもいいんだけど、ケンヤが我慢しようとしてるから、そっとしてあげておくことにした。
結局その日はそのまますぐに帰った。ケンヤ曰く、一緒にいると我慢できなくなりそうだから、らしい。
ケンヤが明日のことを考えて興奮しているだろうことを考えると、なんだかこっちまで体が火照ってきてなかなか寝付けなかった。



*



「おはよーケンヤ」
「あ、お、おはよ!」

朝9時、ケンヤの家の前。
もうケンヤの家には誰もいなかった。ぴんぽんと鳴らして出てくるのはいつもはケンヤのお母さんなのだけれど、今日はケンヤだった。
めっちゃ嬉しそうな顔をしてドアを開けたものだから笑ってしまった。これで新聞集金のおっちゃんとかだったらどうするつもりだったんだろう。
誰もいないのは分かっていたけれど、一応お邪魔しますと言って玄関に上がった。
靴を脱いでいると後ろでがちゃりと音がする。ケンヤが鍵を閉めた音だった。
なんだかすごく生々しく感じてぞくっとした。
階段を上がって、ケンヤの部屋に入る。半歩遅れてケンヤがついてくる。
部屋に入ってケンヤがドアを閉めた瞬間後ろからぎゅっと抱きしめられた。ああもうせっかちだなあ。

「な…白石、あの、お願いがあるんやけど」
「うん」

だからそのお願いを聞きにこうやって朝っぱらから来てるのになあ、というのは言わない。
黙ってケンヤがそのお願いを口にするのを待つ。

「あの、あのな、白石」
「なんでもええよー」
「えと、じゃあ、これ、着てほしいんやけど…」

言ってケンヤはうちから離れてベッドに向かう。
ベッドの下に手を突っ込んでごそごそ。そして何かを引っ張り出した。
なんかえろいもの隠すのはいいけどそんな場所に隠したらすぐにおばちゃんにばれるんじゃないかなあと思う。

「こ、これ…着て?」

ばっ、とうちの前に差し出されたのはどこかで見たような制服。
まっしろで、いわゆるなんとかの天使とか言われるあれだった。



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