最近脳内の出水くんが太刀川さんに対して全肯定すぎて
どうしようかと思ってます。
セックスじゃないえろを書きたかった感じの産物です。
どうしようかと思ってます。
セックスじゃないえろを書きたかった感じの産物です。
それは思っていたより優しくはなくて、唐突で、ロマンチックでもなんでもなくて。
けれど想像していたより遥かに甘くて熱くて、痺れるように気持ちよくて。
まるで、脳みそがどろどろに溶けていくみたいだと思った。
「…あんま驚かねーのな」
唇を離したあと太刀川さんは意外そうに言った。
唇を離しただけ、の距離。ふたりぶんの体温でぬくもった吐息が重なって、お互いの唇を更に湿らせる。
至近距離、お互いの瞳にはお互いの顔だけが映っていて、太刀川さんの黒い瞳に映るおれはそんなに平然としてるように見えるんだろうか、と思った。全然そんなことないのに。
「…めっちゃ驚いてますけど」
さっきから煩いくらいどくんどくん鳴っているこの音を聞かせられればいいのに、と思った。
「そうなのか」
「そうですよ」
親指で唇をむに、と揉まれて心臓が跳ねた。
似た感触、つい何十秒か前までそこに触れていた唇と同じ温度。
あの、痺れるようなとろけるようなさっきまでの感覚をどうしても思い出してしまって、体が勝手に期待して、思わず喉が鳴った。
どうして太刀川さんにはおれの体がこんなになってること伝わらないのかなあ、とちょっともどかしくなる。
もっと分かりやすく、体温でも上がってしまえばいいのに。触れてる手が火傷してしまうくらいに。
「その割にはリアクション薄いなおまえ」
「リアクションって言われても」
「普通抵抗とかするだろ、急にこんなことされたら」
「うーん…?」
こんなこと、とは。
今更キスで恥ずかしがるような初心ではない。それくらいは太刀川さんもさすがに分かってるだろう。
じゃあそれ以外でなにかあったっけ、未だ熱に浮かされたままの脳を落ち着かせながら考えてみる。
名前を呼ばれた。腕を掴まれた。だらだら見てたスマホを奪われた。それから、それから。
いつもより乱暴に抱き寄せられて、そのままの勢いで噛みつかれるようにキスされて、初めて舌を入れられて、酸欠になっちゃうんじゃないかってくらい吸われて、喰まれて、絡められて。
そりゃまあ確かに冷静に思い返してみると、驚いて抵抗すべきだったんだろうなっていう箇所はいくつか、というか結構あった。
そういう意味では太刀川さんの言っていることは正論なのかもしれない。そういうことをした本人に説かれるのはちょっと変な感じもするが。
でも抵抗する気になんてならなかった。というかそもそもそんなこと思いつきもしなかった。だって、
「なんか、そういうの忘れてました。気持ちよくて」
そんな普通の反応を忘れてしまうくらい気持ちよかったから。
びっくりしたのは本当のことだけど、それよりも太刀川さんから与えられる甘い刺激に夢中になって、脳がとろけて、何も考えられなくなってしまったから。
だからそれを包み隠さず伝えると、太刀川さんは一瞬だけ呆気にとられたように目をぱちくりとさせた。
「…可愛げねー奴だな」
けれどそう零した時には既に、太刀川さんの目は獲物を狙う肉食獣みたいなぎらぎらした光を宿していて。
今ので興奮したのかなって思うと、ぞくぞくした。おれの言葉に?反応に?どっちでもいい。どっちでもいいから、それがもっと欲しい。
その燻らせてる欲望をぶつけてほしい。さっきみたいに。遠慮なんてしなくていいから。
「太刀川さん」
呼ぶ声が掠れた。多分おれの方が焦れている。
さっきのあつくてあまい快楽を忘れられないでいる体が、依存症みたいに太刀川さんを求めている。
たった一回でこんな風になってしまうのだから、どんな違法なクスリとかよりもずっとやばいんじゃないかと思った。
太刀川さんの手に自分の手を重ねる。熱い。あやすように太刀川さんの長い指がおれの耳の裏を撫でて、それだけでもう堪らなくなって、気づけば「もっかい」と口に出していた。
「してほしいのか?」
「してほしい」
きっぱりとそう答えてから(あ、これちょっと照れながら言ったほうが可愛げあったのかな)なんて思ったりしたけれど、太刀川さんがすごくやらしい顔で「へえ」って笑ったからすぐにどうでもよくなった。
心拍がどんどん速くなる。期待と興奮。さっきの感触を覚えているから、勝手に体が熱くなってお腹の下辺りがじくじくと疼く。
ああ今おれはどんな瞳を太刀川さんに向けているんだろう。今の太刀川さんのそれに負けず劣らず、飢えた獣みたいに光っているのかな。
別にそんなどろどろした欲望を見せつけたところでこの人が萎えるとか、そんなことは微塵も思わないけれど、ちょっとは太刀川さんの言う可愛げみたいなものを見せたほうがいいのかな、と思ってそおっと両の目を閉じた。
小さく息を飲む音が聞こえて、少しだけ緊張する。今更だ。微かに震える指先をぎゅっと握って気づかない振りをした。
「いずみ」
囁くように呼ばれて、引き寄せられる。
今度はさっきより優しく。大きな手のひらが包み込むように頬の輪郭をなぞる。
その、まるで壊れ物を扱うみたいな触り方が、普段の太刀川さんからはさっぱり想像できなくて、なんだかくすぐったい感じがした。
「…ん、ん」
そしてまた唇が触れる。触れて、重なって、奪われる。
優しいキスに胸がきゅうと切なくなるような感じがしたのもつかの間、ぬるりと唇を割る舌の感触になんだか体温が一気に5℃くらい上がったような錯覚を覚えた。
あつくて、しびれる。
さっきと同じ感覚。でもまだ足りない。
足りなかったから、もっと欲しかったから、そおっと唇を開いて自分から舌を差し出した。
お互いの舌先がくちゅ、とぶつかって、思わず引っ込めそうになってしまったそれを追いかけられて絡められて、なんだか脳の奥がぱちんと弾けるような感じがした。
弾けたそれは電流みたいに全身を巡って、その度に指先とかつま先が痺れて小さく跳ねる。
きもちいい、あまい痺れ。
「ぁ、っふ、はぁ、…んむ、っん」
酸素を求めて喘いだ唇はすぐに塞がれて、舌を強めに吸われる。
さっきまではゆっくりしてくれてたくせに、なんかもうそんなのは忘れたと言わんばかりに好き勝手。優しく触れていただけの手のひらは、いつの間にかがっちりとおれの顔を捕らえて逃してくれそうにない。
まあでもこっちのほうが太刀川さんらしいと言えばらしい気はする。奪われる、貪られる、けれどそんな風におれを求めてくれるのが、たまらない。
鼻で呼吸を、と思いながら、応えるように必死に太刀川さんの舌を追う。
太刀川さんが舌の先で撫でるように触れてきたら、同じようにおれも太刀川の舌をなぞった。粘膜の触れ合う面積がさっきよりもずっと大きくなって、擦れ合う度にまた頭の奥がぱちんぱちんと弾ける。
耳の外からじゃなくて、内側から音が響く。混ざりあった唾液がじゅる、とか、くちゅ、とか鳴って鼓膜のあたりがじんじんする。
けどやっぱり酸素が足りなくなって、ふぁ、と情けない声を漏らしながら息継ぎして、そしてまた満足に呼吸も出来ないまま塞がれる。
ああ、もうだめだ。その全部が気持ちいい。
煮えたぎった欲をぶつけられるのも、少し乱暴な手付きも、絡み合う舌の感触も、響く水音も、ぜんぶ。
溶かされる。全身が甘く痺れて、頭なんか特に電子レンジであっためられてるみたいに熱くて、ぼんやりして、何も考えられなくなって。
溶けていく。理性とか思考とか、そういう人間らしいものがぜんぶ。
「、はー…」
「いずみ?」
ゆっくりと唇が離れて、飲みきれなかった唾液が口の端を伝って落ちて、おれはようやくまともに呼吸が出来るようになって。まるで全力疾走したあとみたいにはあはあと喘いだ。
痺れる甘い余韻がまだ体に残っている。なんだか完全に体から力が抜けてしまって、ずるずると太刀川さんの胸にもたれかかった。
頭のてっぺんから足の指先まで太刀川さんで満たされてて、全身が気怠い心地よさに包まれている。まるでおなかいっぱい好きなものを食べたあとの、ふわふわと眠くなる午後の授業中みたいな感じだなあとか思ったりした。
「すき…」
胸がいっぱいであふれた言葉。自然と、勝手に。満杯になったコップから水が溢れるみたいに。
こういうのを幸せって言うのかな、体中がやわらかに溶けていくような、眠気にも似たこの感じが。
ぴったりと寄せた太刀川さんの胸からどくんどくん、と鼓動の音が聞こえる。
そうかおれもこういう風に太刀川さんを胸に抱きしめるなりなんなりすれば、おれの音も太刀川さんに聞こえたのかな、なんてすごく今更思ったりした。
「あー…、これはもうあれだな、俺は悪くない、うん」
特におれに向けたわけでもなさそうな、独りごちるような声。
なんのことだろう、と太刀川さんの顔を覗き込もうとしたところで、太刀川さんの手がおれの肩を掴む。
瞬間、ぐらりと重心が背中に移って、視界が90度回転して、そのままの勢いで後ろに倒れた。一瞬置いて押し倒されたのだと気づく。
見上げた先には天井、と、太刀川さんの顔。
「おまえが悪い」
いきなりおれが悪いとか言われても困る。
したたかに打ちつけた背中がちょっと痛い。せめてクッションの上に倒すとかなんとか。
ちょっとばかりの悪態を心の中で吐いてみたりしたけれど、でも。
おれの視界にはただ太刀川さんの顔だけがあって。
欲情しきったぎらぎらした瞳。ああきっとこの人はおれのことを内側からじりじりと焦がしてしまう気なのだろう、とか、そんなことを考えてしまうくらいの熱視線。
そういう目をするから、だからおれの人間らしい思考なんて簡単に溶かされてしまって、太刀川さんがさっきなんやかんや言ってた普通の反応だとかそういうのが、やっぱりまたすぐにどうでもよくなってしまって。
仕方がないから、ただ本能の求めるままその熱にそおっと手を伸ばした。