夢のあと



氷炎イベ後のヴェパシ。
イベページのヴェのセリフが色々あれすぎて興奮しました。



柔らかな陽だまりの夢を見た。
自分を呼ぶ声、触れる優しい手。はっきりとその姿は見えないけれどちゃんと分かる。とても愛おしい記憶。
幸福の色と温度に満ちたあたたかな甘い夢。けれどそれはやはり夢でしかなくて、夢だと自覚した瞬間に徐々にそれは薄らいでいく。
暈けていく懐かしい光景をまるで走馬灯のようにぼんやりと見送りながら、パーシヴァルはゆるゆると眠りから浮上した。



「あ、ごめん。起こしちゃった?」

重い瞼をゆっくりと開ければ、見慣れた金の髪がふわりと揺れた。淡い照明と相まって一瞬だけ目が眩む。
そこにいるのが誰か、なんて確かめなくても声と気配で分かる。けれどなんとなくちゃんと顔を見たくなって、パーシヴァルは目を軽く擦って光に馴染ませた。そうして今度はその姿をはっきりとその双眸で捉える。
いつからそうしていたのだろうか、そこにはパーシヴァルの髪を優しく撫で梳きながらそっとこちらを見下ろしているヴェインの姿があった。
自分のそれよりだいぶ厚い手のひら。ちらりと視線だけでその手を追えば、怒られるとでも思ったのだろうか「あ、悪い」なんて言ってヴェインはそっと手を引っ込めてしまった。
別にそれくらい怒ったりしないのに。むしろその熱が離れていくのを心なしか名残惜しい、なんて思ってしまうのは弱っているからだろうか。けれどそれを口にだすのはなんだか癪だったのでなんでもないふりをして、パーシヴァルはゆっくりと体を起こした。

「…駄犬か」

呼ぶと、応えるように破顔する。屈託のない笑み。
釣られてパーシヴァルも小さく笑みを浮かべれば、安堵したかのように今度は遠慮なしに抱きついてきた。
「調子に乗るな」と軽く額を小突いてやるけれど、それでもすりすりと頬を寄せてくるものだから、仕方なしにその背中に腕を回す。
お互い何やらで忙しく、こうやって抱きしめられるのも久しぶりな気がする。調子に乗るなとは言ったが、別にパーシヴァルだってこうやって触れられることが嬉しくないわけがないのだ。

「夕飯どうする?またおかゆちゃん?」
「いや、さすがにもう飽きた…何か精が付きそうなものを作ってくれ」
「おっけー!任しとけって!」

ヴェインはパーシヴァルの体をもう一度ぎゅうと抱きしめてから意気揚々と立ち上がる。
意気込んでくれるのはありがたいことだが、時刻はまだ15時のティータイムを少し過ぎたあたりだ。
また例の悪い癖が発動する前に、駆け出そうとするその首根っこを掴んで「まだ夕飯の時間には早いからな」と釘を刺しておく。
ついでに「今は俺と兄上くらいしかいないのだからあまり作りすぎるなよ」とも。
やはりまた何も考えずに暴走するつもりだったのか、ヴェインはへらりと笑って誤魔化したあと、思い出したかのように周りを見回して言った。

「そういえば団長とかルリアは?」
「家臣共は今船に戻っている。ここに留まってばかりもいられないだろう」
「ふーん…」

自分から尋ねてきた割には気の無い返事。
ヴェインらしくもないその態度にパーシヴァルは首を傾げる。

「なんだ?貴様にしては妙に歯切れが悪い返事だな」
「べっつにー」

問うと、ヴェインはまるで子どもがするようにぷいとパーシヴァルから顔を背けてしまった。
しかしやはり素直なヴェインのことだ。「パーさんって団長には特別な感じだよなー」とか「もっと俺にも頼ってほしかっんだけど」とかなんとか。隠せない本音がもごもごと漏れ出ていて。
背けた横顔にもあからさまに「気に食わない」というような複雑な表情が浮かんでいる。
なるほど、つまりそういうことか。本当に分かりやすいやつだ。察したパーシヴァルは文字通り犬でも愛でるようにその柔らかな金の髪をふわふわと撫でてやって、揶揄するように小さく笑った。

「ほう、駄犬のくせに一丁前に嫉妬か」
「…犬だって嫉妬するんですー」

先程濁した割には隠すつもりはないらしくあっさりそれを認めると、「わんわん」と駄犬らしく小さく鳴いてベッドに顔を埋めてしまった。
さっきから笑ったり拗ねたりと忙しない。まあそのころころと変わる表情を眺めているのは嫌いではない。むしろ愛おしいとさえ思う。
けれど拗ねた恋人を弄ぶほど非情な人間でもないつもりなので、たまには飴を与えてやることにする。

「ヴェイン」

名前を呼んで、俯く顔をそっと上げさせて、額にキスを落としてやる。それから頬。
わざと情欲を煽るように首筋をゆっくり指でなぞってやって、今度はその首筋にも唇を触れさせる。そのままちろりと舌を這わせてやれば、ヴェインの肩がひくんと跳ねた。
素直な反応、情欲がじわりと燻り始めたのを感じながら鎖骨に軽く歯を立てる。うっすらと残った紅い痕を満足気に撫でて、火照る体をそっと擦り寄せた。
さて少しは機嫌は直っただろうかとそっと表情を伺ってみれば、意外なことにヴェインはまだむすっとした顔をしていて「おや」と思う。

「…や、めてって、そういうの」
「どうした、まだ拗ねているのか」

こんな風に根に持つなんてヴェインにしては珍しい。
そんなにも自分は無神経な行動をしていたのだろうか、と思う。少し反省すべきか。

「そうじゃなくて…、その、えーと、んなことされたら我慢できなくなるっていうか…」

と、思ったらやはり単純なヴェインのことだった。
険しい顔はただ「待て」を(自主的に)食らっているだけの表情だったらしい。
全く変なところで真面目というかなんというか。
その不機嫌そうな顔を崩してやりたくて、パーシヴァルはそっとヴェインの頬を撫でながらもっと端的に自分の欲望を伝えてやる。

「俺はそのつもりで誘っているが?」

上衣の帯をほどいてちらりと肌を露出してやれば、ごくりと唾を飲みこむ音が聞こえてパーシヴァルの方まで劣情を煽られる。
注がれる視線が熱くて、まだ触れられてもいない肌がじわじわと熱くなる。ああ早くその手でどろどろになるまで溶かしてほしいのに。
しかしパーシヴァルを見つめる瞳は完全に欲情したそれであるのに、ヴェインはそれでももどかしげにベッドのシーツを握りながらぼそぼそと呟く。

「…弱ってるパーさん無理に抱くほど駄目犬じゃないし」

その声には多少の後悔の色も含まれていて、また余計なことを気にしているんだろうなと思う(多分、駆けつけるのが遅れたこと、守れなかったこと)(自ら傷つくことを選んだのは誰でもないパーシヴァルなのに)。
優しいことは美徳ではあるけれど、何もかも自分の責任だと思いこんで悩む必要などどこにもないのだ。
と、いうか。正直今はそういうことはどうでもいい。いい加減焦れったくなって、パーシヴァルはヴェインの首に腕を回す。
こちらから誘っているのに逆らおうなど、駄犬のくせに生意気だ。
さっさとそんな無駄な憂いも迷いも全部考えられなくしてやろうと思って、そのままヴェインの体をぐいと自分の方へ引き倒した。

「寝ているばかりなのも退屈していたところだ。…いいから来い」

厚い耳たぶに噛み付いてそっと囁やけば、ようやく観念したのか「…わん」と小さく返事をしてパーシヴァルを組み敷くようにベッドに乗り上げてきた。
無駄な後悔や遠慮なんて今は邪魔なだけだ。素直に欲の熱に溺れてしまえばいい。そう思いながら、瞳を閉じてキスをねだった。



「…ていうかパーさんほんとなんなんだよ〜」
「っ、なにがだ」

緩い午後の日差しが差し込む部屋に、衣擦れの音が響く。
自分から誘って始めた行為だが情緒に欠けているにも程があるな、などと思いつつ、しかしお互いの顔がはっきりと見えるというのはなかなかに新鮮な感じがして妙に羞恥を煽られる。
着衣を乱しながら無遠慮に胸やら腰やらをまさぐってくる無骨な手。ひくんと体を震わせながら、「もっと」と求める代わりに「ヴェイン」と名前を呼んでやれば、ヴェインは突然大仰にため息を吐いた。何事かと思えば、

「いつもよりえっちに誘ってきてさ〜…ずるいって」

とのことらしい。
頬がじんわりと赤く染まっているのを自覚しているのか、誤魔化すように何度も軽いキスを落としてくる。
普段有無を言わさず襲いかかってくるのはそちらのくせに、こちらからちょっと煽ってやるだけでこの反応。初々しくて、可愛らしくて、愛おしい。

「…しばらくご無沙汰だったからな。欲求不満なのはお前だけではないということだ」
「っも〜〜〜!だから…そういうのほんと…ずるいんだって…」

熱い頬に触れてやりながらそう返すと、言葉にならない声で唸って今度は噛み付くように荒々しいキスを仕掛けてくる。
唇を食まれたから素直に開いてやれば、そのまま舌を吸われる。舌と舌がぬるりと触れ合う感触、頭からつま先までぴりぴりと細かい快感が走った。
ぐちゃぐちゃにかき回してくるようなキスは未だに慣れない。上手く息継ぎができなくて「ん、うっ」とかいう情けない声が喉の奥から漏れる。
酸素が欲しくて体を押し返そうとしても、がっちりと抑え込まれていては抵抗もできない。ようやく唇が離された時には呼吸は既に乱れきっていた。
結局パーシヴァルがどんなに誘って煽ったところで、キスひとつで形勢逆転されるのだから本当にずるいのはヴェインの方だとパーシヴァルは思う。

「俺パーさんがここにいる間は我慢しようと思ってたのにさ〜」
「…ほう、では貴様の荷物に入っていたこれはなんだ」

荒い呼吸を整えながらパーシヴァルはベッド脇に置いてあったヴェインの荷物に手を伸ばすと、掴んだものをそのままヴェインに手渡す。
手渡されたそれ、を見てヴェインは分かりやすく狼狽えた。
ローション。ひと目でそれと分かるような薄いピンク色の液体が透明な容器の中でとろりと揺れる。

「いや、それは、えっと、いざって時のためにね?」

無論恋人のものとは言えど他人の荷物を勝手に漁るような真似をパーシヴァルがするわけもないので、これは無造作に放ってあった荷物の口から覗いていたのを偶然発見したものだ。
見つけたのが自分だったからいいものの、万が一にでも兄上に見つかっていたらどうなっていたことか。

「まあ、次からはせめて見つからないように隠す努力をすることだ」

それを握りしめたまま気まずそうに視線を反らすヴェインの頭をそっと撫でて、別にこれ以上責めるつもりは無いことを言外に伝えると、ふにゃりと笑って「はーい」と返事をした。本当に分かっているんだろうかこいつは。
反省しているのか疑わしいところだがまあいい、そんなことより早く触って欲しい。壊れるような快楽が欲しい。
胸やら腰やらに触れる手や唇の感触すらもどかしい。もっと、その先を。焦れてきたところでやっとヴェインの手がパーシヴァルの下衣にかかる。
急かされるより先に腰を浮かせれば下着ごと全て剥ぎ取られて、僅かにかたちを成し始めた性器が露わになった。
包み込まれるようにゆるりと撫でられて背中にぴりりと電流が走る。触れられているその温度だけで自らの性器が硬度を増していくのが自覚できて、今更ながらに羞恥を覚えた。

「なんか溜まってそうだし、一回先に出す?」

溜まっているのは事実だし久しぶりに触れられる快感に体が勝手に熱を上げていくのもその通りだが、揶揄するように囁かれたのが気に食わなくて首を横に振る。
けれどそれはそれで急かしているように思われたのか(まああながち間違いでもないが)、やらしい笑みを浮かべるのがそれも気に食わない。文句のひとつでも言おうと思ったが、ヴェインの手が後孔に滑ってきたせいで文句はただの甘い声となって消えた。
入口を指先で軽くつんとつつかれるだけで、期待に震えるこの浅ましい体はそれだけで疼いて、勝手に腰が揺らめく。
けれどこんな体にしたのは間違いなく目の前のこいつなのだからその責任は取ってほしい。焦らすようにソフトタッチを繰り返すヴェインを急かすように腰を蹴ってやった。

「久々だしローションいっぱい使お」
「…っん」

ヴェインは先程手渡されたローションを手のひらにたっぷりと垂らすと、パーシヴァルの後孔に塗り込んでいく。
ぬめった指に入口周辺を撫でられ、指先がつぷつぷと浅く挿入され、その度に足先がひくんと震える。甘い刺激に頭が煮えそうだ。
はくはくと短い呼吸を繰り返しながら甘くもどかしい快楽に悶えていれば、程なくしてぐじゅとかいう水音とともに大した抵抗もなく太い指先が入り込んでくる。
…大した抵抗もなく?ヴェインは指を緩く動かしながらパーシヴァルに尋ねた。

「あれ、パーさんもしかして自分でちょっと慣らした?」

言って、指がもう一本増やされる。しかしパーシヴァルのそこはやはり簡単に飲み込んでしまって、きゅうきゅうと美味そうに締め付けた。
そうしたかそうしていないか、と問われれば、答えは前者だ。
別に隠すつもりは無かったがいざ指摘されるとやはり頬が熱くなる。
けれど下手に誤魔化すつもりも無いのでため息混じりに素直に白状した。

「んっ、ぁ、さっき、湯浴みをした時、に…」
「ふーん?」

再びのにやけ面。しかしその瞳だけはぎらぎらとけものみたいに光ったように見えた。
きっと今のこいつの脳裏にあるのは、静かな浴室で一人声を殺して体をひらく用意をしている滑稽な自分の姿。けれどその酷く間抜けな姿にこいつが興奮を覚えるのならば、それでも構わないと思った。
さすがに、実は怪我が落ち着いてからはいつそういう状況になっても良いように毎日準備をしていた…などとは口が裂けても言えないが。

「もしかして襲われ待ちだった?」
「…べ、つに」
「へへ、かーわいー」

全くもってヴェインの言うとおりなのだが、そんなこと肯定出来るわけもなく。
返答を濁すけれど、勝手に満足したらしいヴェインは愛おしげに何度もパーシヴァルの体に唇を落としていく。
鎖骨を噛まれて、胸元に紅い痕を残されて、胸の尖りを舌の先でつつかれる。
くりくりと舌でいじられる度に腰が跳ねて、同時に後孔の中でしこりをゆっくりと撫でられる度に背中が反って、溢れそうなほどの快感に目が回りそうだ。

「ん、…っあ、う、っ…、は、ぁ」

肌にかかるヴェインの呼気が熱い。ヴェインの興奮が直に伝わってくるようで、それだけで思考が蕩けそうになる。
後孔を弄る手が多少荒くなって、ぐぽぐぽと確かめるように拡げられたあとずるりと引き抜かれた。質量を失った後孔が物欲しげにひくひくと震える(もっと大きなもので埋めて欲しいと)。
ヴェインは興奮に荒く息を吐きながら性急に前を寛げる。その姿さえもどかしい。
待ちわびた熱い塊がやっと後孔に押し当てられて、期待に身を震わせるけれどしかしそれはなかなか与えられず。

「な、パーシヴァル。いれて、っておねだりしてみてよ」
「…は?」

突然の提案にパーシヴァルは間の抜けた声をあげる。
今こいつは何と言った?おねだり?この俺におねだりをしろと?ふざけているのか。
調子に乗るなと言いたいところだが、しかしこいつを調子に乗せるような言動に身に覚えがないかと言えば、まあ覚えがありすぎるので自分のせいであることは間違いないわけで。
葛藤している間にも急かすようにヴェインの勃起した性器がすりすりと擦り付けられて、パーシヴァルの理性を壊していく。
鬩ぎ合う理性と欲望。しかしこの状況で理性が勝てるわけもなく。

「………っくそ、…い、れて、くれ、ヴェイ…、っ!」

言い終わるか言い終わらないかくらいのところで、ヴェインが劣情に濡れた笑みを浮かべたのが見えて、「あ」と思う暇も無くそのまま性器の先端がぐぷんと中に押し入れられた。
反射的に退こうとした腰を思い切り掴まれて、そのまま引き寄せられる。散々ほぐされたあととはいえ、指とは比べ物にならない太さのものが後孔を押し広げて入ってくる感触。苦しくて息が詰まりそうだ。けれどそれ以上に体は悦びに打ち震える。たまらない。気持ちがいい。

「う、ぁ、はいって、あ、ぁ…」
「はー…、やばい、パーシヴァルめっちゃえろい…」
「っは、あ、あ、ぁ…、っひ、!」

ず、ず、とゆっくり内壁を擦りながら進んできたかと思うと、前触れもなしにずん、と一気に奥まで突き立てられて喉が反る。
せめて何か一言寄越せと毎回思うのに、呼吸を整えるのに必死でそんなこと言う余裕などあるはずがなく(まあ例え伝えられたとてヴェインの方もそんな余裕など無いだろうが)。だから結局言えた試しなど無い。
仕方がないから震える腕でヴェインの体に縋り付いて熱い膨張が体に馴染むのを待つけれど、そんなのお構いなしにヴェインはゆるゆると腰を打ち付け始めた。
体が無理にひらかれていくような感覚。乱暴に貫かれて犯されているような錯覚。
でも別に構わない。好きにすればいい。「待て」が出来ない駄犬なのはとっくに知っているのだから。

「ふ…、はっ、パーシヴァル…」
「ん、あっ、は、はあっ、あ、あ…」

多少手荒く扱われたところで、すっかりヴェインのかたちに成ってしまっているこの体は勝手にほどけて甘い快楽だけを拾い始める。
浅い抽送。パーシヴァルの熱い腔内を味わうようにゆっくりと引き抜かれ、そしてまた奥までぐ、と突き上げられる。
ひたすらに甘やかされるような快楽の波。奥をぐりぐりと突かれる度に、抱え上げられた足先がひくんと震える。
耳を塞ぎたくなるような甘ったるい声が漏れるのが自分的には嫌でたまらないのだけれど、ヴェインはそれに酷く興奮するようで呼応するように律動のスピードを上げていく。
獲物を捕らえた獣のようにがっちりと抑え込まれて(どこにも逃げやしないのに) 、少々息苦しい。でも激しく揺さぶられているうちにそんなのどうでもよくなってくる。背筋がびりびりと痺れるような快感。

「は…、ごめんっ、今日くらいは優しくしよーって思ってたけど、っ無理かも」

ヴェインは申し訳なさそうに眉を下げるけれど、そんなこと気にする必要などないのに、と思う。
先にヴェインを求めたのはパーシヴァルの方だ。求めた以上滅茶苦茶にされることなんて想定内で、むしろそれを望んでいるくらいで。
だからそう伝えたかったのだけれど、どうせこんな回らぬ舌では言葉なんて溶けてしまうと思ったから、ヴェインの体に縋り付くことでその意志を示す。
伝わったかどうかなどは分からない。けれど今自分を見つめるヴェインの瞳にはもう獣欲しか映っていなかったから、もうそれで良いと思うことにした。

「あっ、ヴェ、い、あっ、あ、ぅ、」
「っ、やば、きもちー…」

きっともう理性なんてどこかに置き去りにしてきたんだろう。殴りつけるような抽送。激しく腰を打ち付けられる度に、肌のぶつかる音と湿った淫らな音が室内に響く。
頭の先から指の先までびりびりと痺れるような快感がひっきりなしに襲ってきて、もう目を開けているのもつらくなってきたからぎゅうと瞑ってしまって汗ばんだ体に縋り付いた。触れ合う肌も繋がる箇所も熱くてどろどろとこのまま溶けてしまいそうだ。思考は既に溶けてしまっている。

「はっ、は…、パーシヴァル、っ」

獣みたいに荒い呼気の中、必死に名前を呼ぶその声が好きだ。
朦朧としはじめた意識の中でその声だけは鮮明に響いて、パーシヴァルの体を絶頂へと押し上げていく。
息が詰まるほどの律動も、名前を呼ぶその声も、何もかもが気持ちよくてたまらない。全てが愛おしくて幸福で、その全てが快楽に変わる。
多幸感という麻薬に支配された脳。突き上げられる度に苦しいほどの快楽に襲われる体。抗えるはずもなく、パーシヴァルの体は呆気なく限界を迎える。

「あっ、あ、だめだ、も、イ、く…っ」
「ん、いいよ、イって、っ」
「ひ、あぁ、ん、くっ、あ、ぁ、っあ…!」

囁かれて、奥の一番深いところをぐ、と突き上げられた。
瞬間、閉じた瞼の裏に星が散る。思考が真っ白になって、背筋がびくんと跳ねて、そのあと緩やかに弛緩する。
けれど絶頂の余韻に震える体をヴェインはしかし離してはくれなくて、悲鳴のような喘ぎを漏らすパーシヴァルを容赦なく突き上げながら掠れた声で乞う。

「パーシヴァル、ごめ、っもうちょっとだけ、付き合って」

達したばかりの敏感な体に尚も与えられる抽送は正直快楽よりも苦しさの方が勝つ。
でも熱の解放を求めてパーシヴァルの体を必死に貪るその姿は酷く愛おしいと思うから、甘んじてそれを受け入れる。
ああ、お前が望むのならば、最後まで。
荒々しいキスの嵐を受けながら、もはや何の余力も残っていない体の全てを、そっとヴェインに委ねた。





「…駄犬、何か言うことはあるか」
「えっと…ごめんなさい」

時刻は既に夕刻、紅い陽の光が眩しく室内を照らす。疲れた体には少しばかり目に痛い。
掠れた喉を冷たい水で潤しながら、未だ全裸のままベッドの上に正座しているヴェインを軽く蹴ってやれば、蚊の鳴くような声で謝罪の言葉を述べた。
あれからまだ足りないとせがまれてそのままもう一回、流されるまま体勢を変えて更にもう一回。あと最後は気を失ってしまったからあんまり覚えていないけれど、プラス二回くらいだろうか。とにかく体が痛い。
確かに望んだのは自分だ、しかし滅茶苦茶にするにも限度があるだろう、限度が。
軋む体をなんとか動かして自分の服をかき集めつつ、ついでにヴェインの服も拾って投げつけてやる。いつまで全裸でいるつもりなのか。

「や、でも今日はパーさんも悪いって…あんなえっちに誘われたら止まれるわけないだろ〜」

まあそう言われると全くもってその通りなので否定はしない。だからこれ以上責める気もない。
もそもそと服を着るヴェインは分かりやすくしょんぼりとした表情。仕方がないからそんなヴェインの頬を包んで軽いキスを落としてやれば、たちまちふにゃりと笑顔を浮かべた。本当に単純な奴だ。
そもそも別に本気で怒る気など端から無いのだ。だって好きでこうしているのだから。そんなしょぼくれた顔を見たいわけではない。
だからと言ってこのくたくたになるまで抱かれた体の疲労はどう誤魔化しようもないので、甘やかすのもそこそこにパーシヴァルは再び横になった。

「…まあいい、俺は夕飯まで少し寝る」
「はいよー。起きたら飯温めるからゆっくり休んでくれよな」

言ってベッドに潜り込んだパーシヴァルの髪をヴェインが優しく撫でる。幼子を甘やかすように。
分厚い手。あたたかい。どこか懐かしくて優しい、甘い幸せの温度。
そういえば先程目覚めた時も、確かヴェインはこうやって頭を撫でていた気がする。
なんとなく覚えがある、このぬくもりは、確か。

「…ああ、そうか。だから…」

あんな、夢を。

「ん?パーさんどうかした?」
「…いや、なんでもない。…おやすみ」

その夢の話を語るのは些か恥ずかしいような気もして、だから雑に誤魔化してそのまま目を閉じたけれど、ヴェインはそれ以上追求してくることもなく。
代わりに、パーシヴァルの髪をゆっくりと撫で梳きながらそっと耳元に囁く。

「うん、おやすみ」

事後の怠さも相まってパーシヴァルは緩やかに眠りに落ちていく。
きっと寝付くまでそうしていてくれるつもりなのだろう、触れるあたたかさをぼんやりと感じながら。

また、あの優しい陽だまりの夢が見られるような気がした。











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