prayer



ダスカー直後くらいでしょたしょた触りあい
ディミの方が発育も知識もちょっとだけ上
こういう風に1回くらい甘えててくれたら良いな…と思いながら書きましたが1回でもこういう風に甘えてたら士官学校時代あんなに拗らせてなかったと
思うのでif√な話



 弔いの場を飛び出したフェリクスは一人ブレーダッドの屋敷を彷徨っていた。どかどかと荒く響く足音には隠せない怒りが滲んでいた。
 気に食わなかった、理解したくなかった、何もかも。あの優しかった王が突然の反乱で殺されたことも、そのさなかで兄が死んだと聞かされたことも、その死を立派なものだったと褒める父親も。
 とは言えあの厳かな場で感情のままに喚き散らすほどもう子どもではない。けれどそれを許容して何事も無かったかのように振る舞えるほど大人でもない。
 だから飛び出した。行く宛はなにも無かったけれど、とにかくあそこに居たくなかったのだ。
 どこにもぶつけられぬ苛立ちを抱えて広い屋敷の廊下をただひたすら彷徨い歩き、やがて考えるのにも怒り続けるのにも疲れ始めた頃フェリクスは見慣れた扉の前で足を止めた。どうやら無意識のうちに足が向いていたらしい。
 あの悲劇の中ただ一人生き残った幼馴染、兄が命を賭して守った主君。ディミトリ、とその人の名を小さく呟いてフェリクスはぎゅっと拳を握りしめた。 生きているのなら一度くらい顔を見せてくれてもいいのに。焦れたような思いが胸の中で渦を巻く。
 親を喪い家臣を亡くし、今ディミトリはどれだけの失意と悲しみの中にあるのだろうか。同じように肉親を亡くしたフェリクスにもそれを量ることは出来ない。
 けれど心配したに決まっているのだ、どんなぼろぼろの状態でもいいから生きているその姿をひと目見させてほしかった。安心させてほしかった。
 もしかしたらディミトリは自分に会いたくないかもしれない。兄を死なせてしまった引け目を感じているかもしれない。それでもフェリクスは会いたかった。それをどうでもいいと割り切れるわけではないが、とにかくお前が生きていてよかったということを伝えてやりたかった。フェリクスは改めて扉の前に立つ。会いに来ないのなら会いに行ってやるだけだ。
 ああでも、立派な死に様だっただの、最期の時まで騎士だっただの、もしもあの父親と同じようなことを少しでも口にしようものなら遠慮なくぶん殴ってやろう。そんなことを思いながら、ゴンゴンと部屋の扉を叩く。鍵はかかっていなかったので、その返事を待たずして荒々しく扉を開けた。
「フェリクス……」
 入るぞ、と特に遠慮もなしに踏み込んだ部屋の奥。ベッドの上でただ静かに佇む主君の姿を見て、そんな憤りにも似た衝動は一瞬で霧散してしまった。
「、ディミ、トリ……? お前、……」
 大丈夫か、なんて聞くことすら憚られた。酷い顔だった。生きているはずなのに死んでいるように見えた。もしかしてディミトリもあそこで兄と一緒に死んでしまっていて、ここにいるのはその亡霊なんじゃないかと思うほどだった。
 元々白かった肌はすっかり青ざめていて、まるで血が通っているようには見えない。目の下には酷い隈が出来ていた。保護されたと聞いたのが二日ほど前だった気がするが、その間一睡もしていないのではなかろうかと思った。
 先程とはうってかわって静かに扉を閉め、そろりそろりと震える足でディミトリへと近づく。遠目には分からなかったが、なんだか頬もこけている気がした。揉み合ったかなにかでぶつけたと思われる赤黒い痣が痛々しい。逆に言えば目に見える箇所での傷らしい傷はそれだけだったのだが、何も安心など出来なかった。
 少し前に遠縁の親族の死に立ち会ったことがある。死の病だった。実際にその人が死の病であることを聞いたのは亡くなってからのことであったが、最初に見た時から既に、きっとこの人は死ぬのだろうな、とフェリクスは一人心の中で思ったのを覚えている。弱りきった動物の放つ、死のにおいのようなものを感じたから。
 そしてフェリクスは今もそれを感じていた。今ここにいるディミトリは生きているのに、病に冒されているわけでもなく酷い傷も負っていないはずなのに、死のにおいがする。けれどその理由が分からないからどうすることも出来ない。
 会いたかった、ひと目見たかった、けれどフェリクスが見たかったのはディミトリの生きている姿だ。そしてこれからも生きているという確信を得たかったのだ。こんな、今にも向こう側へ行ってしまいそうな姿が見たいわけじゃなかった。
「なあ、フェリクス」
 何を言うことも出来なくてどうすればいいのかも分からなくてフェリクスはただ立ち尽くす。そんなフェリクスの袖を引いたのがディミトリだった。
「こっちに来てくれないか」
 弱々しい笑顔を浮かべてディミトリは自分の隣をぽんぽんと叩いて示す。そんな、無理やり貼り付けたような笑顔を見せるくらいならまだ素直に泣いてくれるほうがマシだと思った。けれど今のディミトリはきっと泣き方さえ忘れてしまっているような、そんな感じがした。
 促されるままフェリクスはディミトリのベッドに腰掛ける。ディミトリは腰から下にだけ掛けていた毛布からそっと抜け出すと、フェリクスの横に座り直してぴたりと体を寄せた。
 触れる肩が冷たくて更に不安が押し寄せる。怖くて堪らなかった。ディミトリではなく、ディミトリを向こう側へ連れて行ってしまいそうな目に見えない何かが、死のにおいが。行かないで、とここに繋ぎ止めるように冷たいその手をぎゅっと握りしめれば、ディミトリは安心したかのように小さく息を吐いた。
「……あったかいな」
 そう言って目元を緩めたディミトリの顔はようやく見慣れたいつもの表情に戻ってきていたから、フェリクスも少し安堵する。
「……当たり前だろう」
 言いながら両手の指を絡めて繋ぎ合わせる。やっと何か言う余裕が出来たのだからもっと気の利いたことが言えればいいのに、とも思ったし、今は何を言っても余計な言葉になるような気もした。
 フェリクスの手のぬくもりを確かめるように何度も握り返しながら、しかしディミトリは小さく首を横に振る。
「違う、当たり前じゃないんだ。俺を抱きしめてくれていたグレンの手はずっと冷たかった。どれだけ温めようとしても、冷たいままだった」
 兄の死を語るディミトリの声はぞっとするほどに低く、冷たく、悲しいものだった。きっとディミトリの中では兄の死が立派なものだったと思える日など来ないのだろうと思った。でもフェリクスはそれでいいと思った。だからこそあんな風に称えるような言い方をする父を許せなくてあの場を飛び出してきたのだから。
 自分の熱でじわじわと温まるディミトリの手を感じながら、ようやくフェリクスはディミトリがここに生きているという実感を得られたような気がした。ディミトリが言うように、死んでしまった者の手はいくらこうしていたって温まらない。こうやってディミトリの中からも熱を発しているということは、ちゃんと生きているということなのだ。
「お前は生きてるんだな……フェリクス……」
 ゆるりと解かれた手はフェリクスの首筋に触れる。大きな血管をなぞるように優しく撫でて、今度は頬に、耳に触れる。
 先程より少しぬくもったとはいえひんやりとした手でそんなところを触られると、なんだかくすぐったいようなよく分からない感じがして、フェリクスはひくんと体を震わせた。けれど構わずディミトリはなおも皮膚の薄いところを丹念に撫でる。
 背筋がぴりぴりと甘く痺れるような感覚、体の奥の方がじわりと熱くなるような感触。こんなのは知らない。こんな風に触られたことなんて無い。束の間の安堵は未知の不安へと変わって、耳の内側を指でなぞられた瞬間、爆発した。
「っやめ、ディミトリ……!」
 再び体がびくっと跳ねて、気づけばつい両手でディミトリの体を突き放していて。そんな思い切り力を込めたつもりではなかったのに、相当弱っていたらしいディミトリの体はふらりと背後へよろめいた。普段ならびくともしないのに。
 悪かった、と言おうとした唇はその言葉を描く前にこわばる。よろよろと体を起こすディミトリの顔が、あまりにも悲痛な表情に歪んでいたから。
「っ、あ……、」
 まるで世界の全てから拒絶されたような、ひとりぼっちにされた子どものような、そんな顔をしていた。瞳がふるふると震えていて、今にも泣き出しそうな顔をしているのに、けれど一向に涙は溢れてこなかったから、やっぱり泣き方を忘れてしまっているのだろうと思った。
 なんだか自分がとても酷いことをしてしまったような、そんな心地になる。恐る恐るディミトリの手を再び握ると、痛いくらいの強さで握り返されて、そのまま抱き寄せられた。
 ディミトリの手がうなじに触れてきて、触られたところから頭の天辺まで甘く電流が走る。これは気持ちいいという感覚? 分からない、こわい、けれどもう拒めない。がっちりと抱きしめられているから、という物理的なものもあったけれど、それ以上に、
「触らせてくれ、フェリクス……」
 そんな、今にも泣き出しそうな顔で、声で。
 そんな風に、まるで幼い子どものような願いを口にされて、乞われて、どうして拒むことが出来ようか。
 だからもう、何も分からなくても、怖くても、ただこの大事な主君が望むことを受け入れることしか今のフェリクスには出来なかった。



「……っあ、う、ぅ……、っふ……、」
 それは体温を重ね合わせるだけの淡い触れ合い。それはお互いに生きていることを確かめるだけの行為。
 きっとそのはずだ。それ以上の意味なんて無いはずなのだとフェリクスはとろけていく思考の中何度も何度も言い聞かせる。「フェリクス……」
 けれどそうやって耳元で囁かれるたびに分からなくなる。かさついた唇が首筋に耳に触れるたびに分からなくなる。冷えた手で頬を包まれるたびに分からなくなる。
 本当にそれだけ? それならディミトリに触られるたびにぴりぴりと全身が痺れるのはどうして? 体の奥あたりがきゅうと疼くような感覚はなに?
 何も分からないから頭が混乱する。ただでさえ混乱していて頭の中はぐちゃぐちゃなのに、体が跳ねるたびに頭にもやがかかったみたいになって更に思考が霞んでいく。
 分からないものは怖い。だから逃げたい、拒みたい。けれど出来なかった。掠れた声でフェリクス、と呼ばれるたびに先程のディミトリの顔を思い出して、逃げ出すことなど出来なかった。もうあんな顔は見たくない。
 それに。小刻みに震える体を抑えるようにフェリクスはぎゅっとシーツを握りしめながら思う。
 ディミトリがフェリクスの肌に触れるたび、その温度に触れて嬉しそうに微笑むたび、先程あんなに感じた死のにおいが薄らいでいくような気がしたから。
 向こう側へ行ってしまいそうだったディミトリを、自分の存在がこちらへと引き止めているような気がしたから。それがただ嬉しくて、フェリクスはディミトリの望むままに体を預ける。ここに在ってくれるのならなんでもする、そんな気持ちだった。
「フェリクス、こっちを向いてくれ」
「……? 、っん、ん……!」
 頬を包まれたまま促されて、フェリクスはそろりとディミトリの方へと顔を向ける。あんなに蒼白だった顔に今は少しだけ色が戻っているように見えてほっとしたのも束の間、ゆっくりとその顔が近づいてきて、何を、と思う前に幼い二人の唇がやわく触れ合った。
 さっきから分からないことばかりだったけれど、さすがにこの行為の意味くらいは知っている。唇と唇を重ねる意味。困惑と混乱ばかりだった頭の中に羞恥という明確な感情が芽生えて、かっと頬が熱くなる。
 父や兄がそうしていたのを真似して手の甲に口付けたことはあったが、こんな風に、唇の上になんて。これがどういう意味なのかディミトリだって知らないわけじゃないだろうに、どうして。
「んっ、は、ディミ、なんで……」
「いやか?」
 聞かれて思わず首を横に振る。びっくりしたし、恥ずかしくてたまらない。けれど、嫌かどうかと聞かれたら別にそういうわけではなかった。ただ、胸が苦しい。恥ずかしさに似た、けれどよく分からない初めての感情がフェリクスの胸をきゅうきゅうと締め付ける。でも気持ちの悪い類のものではない。
「そういう、わけじゃ、っん、ぅ」
 だから素直にそう答えると、ディミトリは泣きそうな顔のまま微笑んでもう一度唇を重ねてくる。ふに、と柔らかく押し付けてそっと離して、またすぐに唇を触れさせる。その繰り返し。
 頭がくらくらする。心臓が痛いくらい早鐘を打つ。まるで脳みそが茹だってしまったみたいに何も考えられなくなっていく。無意識のうちにフェリクスの手はディミトリの袖をきゅっと握りしめていて、まるでフェリクスの方から口付けをねだっているような、そんな錯覚を覚えた。
「、っディミトリ……」
 ゆっくりとディミトリの顔が離れていって、ようやくフェリクスの唇が解放される。上手く呼吸を出来ていなかったことを今更のように思い出して、フェリクスは浅い呼吸を何度も繰り返して酸素を求めた。
「好き、好きだ、フェリクス……」
 フェリクスの目元や頬に何度も唇を落としながら、うわ言のようにディミトリが呟く。好き、という言葉。それでやっとさっきから胸を甘く締め付けるこの痛みの正体が分かったような気がして、答え合わせが出来たような気がして、フェリクスは未だ熱に溶かされた思考の中ぼんやりと一人納得する。自分のこの感情も、多分ディミトリと同じものなのだろう、と。
 そうやってわずかばかりの安堵と胸が満たされるような感覚に浸ったのも束の間、ディミトリが一旦体を起こし、フェリクスの体を抱きしめなおす。その瞬間ディミトリの膝がフェリクスの足の付け根を掠めて、フェリクスの意識は再び混乱へと叩き落された。
「っひ、あっ、!」
 覚えのない感触、腰ががくんと跳ねるような未知の快楽にフェリクスは悲鳴にも似た嬌声を上げた。一瞬何が起こったのか分からなくて、反射的にぎゅっと瞑った目には薄く涙が浮かんでいた。
 さっきまで感じていたものが弱い電流みたいなものだとしたら、今のは雷に打たれたみたいだとフェリクスは思った。同時に、さっきからずっと疼いていた体の奥みたいなところは多分ここのことだったのだと思った。熱くて、どくどくと脈打っているような感じがする。
「……勃ってるな」
「たっ、て……? なに……?」
 掠れた声でそうこぼすディミトリの、その言葉の意味が分からなくて震える声でそう返せば、ディミトリはわずかに驚いたように目を丸くした。それから少し困ったように眉を下げて、フェリクスの下衣へ手を伸ばす。
「っ、何を、」
「すまない、すぐ済ませるから、」
「だから、なに、を、っあ、あ、っ、!」
 ディミトリはフェリクスの衣服を緩めると、隙間から手を差し込んで下着の中へと侵入してくる。そして先程服の上から軽く掠めただけで敏感に反応したそこに、そっと指を絡めてゆるゆると動かし始めた。
 排泄にしか使ったことのないそこを、それ以外で、しかも他の誰かにこんな風に触られるなんて初めてのことだった。そんな恥ずかしいところ触られたくないはずなのに、気持ちが良すぎて頭が真っ白になってしまう。
「あっ、あ、ディミトリっ、それ、いやだっ」
「フェリクス……、大丈夫だ、楽にしてやるから、」
 こわい。自分の体に何が起こっているのかも、ディミトリが何をしているのかも分からなくて怖くてたまらない。それなのに体だけは勝手に気持ちよくなっていくからどうしようもない。何も説明してくれないディミトリに怒りたいはずなのに、あやすように囁かれて触れられるとまた胸が甘く疼いて何も言えなくなる。結局今のフェリクスに出来るのは、ただディミトリの体に縋り付いて絶え間ない快楽の波に耐えることだけだった。
 ディミトリの指がフェリクスの性器の先端を指の腹で軽く撫でる。触れ合うそこがぬるりと濡れたような感触がして、反射的にフェリクスは足をばたつかせた。
「っあ、も、だめ、っそこ、へん、だからっ、」
「変じゃない、もう終わるから、そのまま、」
 力なく暴れるフェリクスに構わず、ディミトリはその粘液を絡めたまま一気にフェリクスを追い詰める。気持ちいい、わけがわからない。下半身が溶けていくような快楽に抗うすべもなく、フェリクスの背中がひくんと反り返った。
「あっ、やめ……、も、っやだ、や、あ、ぁ、あっ、〜〜ッ、!」  
 体の内側で何かが弾けるような感触。弾けて溢れた熱い迸りが、そのままディミトリの手の中にどくどくと吐き出される。何も、何も分からなくて、フェリクスは荒く息を吐きながら快楽の余韻に体を震わせることしか出来なかった。
「……悪かった」
 ディミトリはなんだかきまり悪そうに呟いて、ベッドの隅に置いてあった手拭いでフェリクスが吐き出した白濁を拭う。布の擦れる感触だけでまた変な声が漏れてしまうそうになったけれど、きゅ、と唇を結んで我慢した。
 最後に自分の手を綺麗に拭うと、ディミトリはお互いの乱れた衣服もそのままにベッドに倒れ込んでフェリクスの胸へと顔を寄せた。そのまま背中に手が回されて強く抱きしめられたのでフェリクスはそっとその頭を抱く。柔らかな金糸の髪。
「……生きてる音がするな」
 フェリクスの左胸に耳を当てながらぽつりとディミトリがこぼす。未だ興奮の余韻を残したままの心臓の音を聞いているようだった。
 応える代わりにくしゃりと髪を撫でる。聞きたいことは山程あったはずなのに、今はもうなんだか気怠くてどうでもよかった。何から聞けばいいのかも分からなかったし、今フェリクスの腕の中にいるディミトリはとても安らいでいるように見えたから、しばらくそのままにしておこうと思った。
 ディミトリの温度を感じながらフェリクスもまた安堵する。今のディミトリからはもう先程感じた死のにおいは殆どしなくなっていた。それがただ嬉しかったから、もう今はそれだけでいいと思った。
「ここにいてくれ、フェリクス……」
 やがてディミトリは静かに目を閉じて、とろんと半分眠ったような声で呟く。
「……ちゃんと、ここにいてやるから」
 だからお前もちゃんとこっち側に在ってほしい。向こう側になんて行かないでほしい。
 小さく寝息を立て始めたディミトリの体を抱きしめて、祈るようにその髪に口付けた。











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