ハニトラ!



2016.8/29
全然祝ってないけど太刀川さん誕生日おめでとうございます。
これの続き的な感じでトリオン体女体化。



太刀川と隊を組んで約三年。隊長と隊員という境界線を越えて、恋人として過ごすようになったのがその内のここ一年ちょっと。
初めの頃は何を考えているかさっぱり分からなかった太刀川慶という人。感情の起伏があんまり激しくない人だから、最初は常に不機嫌なのかと思って怖かったような時期もあった。
けれど三年、一緒に過ごすようになってそうじゃないことを出水は知った。大きく表情に表さないだけで、楽しそうだったり(ランク戦の時とか)辛そうだったり(これは主に大学のレポート関連の時だ)、割ところころと変わる。
昔はただの無表情にしか見えなかった太刀川の表情を読み取れるようになったことがなんとなく嬉しい、なんて思ったりする。
と、いうか案外この人は分かりやすい、と今では思う。ただ慣れていないと分からないだけで。
今では表情に出さない些細な変化だって気づけるようになったと出水は自負している。
だから、あ、今なんだかよからぬことを考えてるなこの人。なんていうのも最近は察せられるようになってきた。
まあ察せられるようになったからと言ってそれを回避できるとは限らないのだけれど。



「…新型トリガー?」

作戦室に戻ってきた太刀川に手渡されたのは、普段使っているものと外見は全く変わらないトリガー。
しかし太刀川の満面の笑みによからぬ気配を感じながら、出水は問い返した。

基本的に太刀川は会議が好きではない。けれど一応隊長として、ボーダー隊員の最強戦力としての矜持や責任感はあるらしく、サボったことはないし大学の講義なんかよりもよっぽど真面目に聞いている(らしい、嵐山さん曰く)。
けどまあ苦手なものは苦手らしく、会議の後は割と疲れたような様子で帰ってくる。
その疲れた太刀川を癒やすのが出水の仕事だ。珍しく子どもみたいに甘えてくる太刀川をぎゅうと抱きしめて、満足するまで頭を撫でたり軽くキスをしてやったり。
普段そういう風に甘えてくることなんて滅多にないから、出水としてはたまらなく愛おしく感じるのだ。
それで今日も今日とて、出水は太刀川が会議から帰ってくるまで作戦室でだらだらと暇を潰しつつ太刀川の帰りを待っていたのだが、

「おー、なんか今度の遠征で使うかもって言ってたから借りてきた」

今日の太刀川はやたら上機嫌で帰ってきたものだから、この時点でなんとなく嫌な予感はしていた。
しかも今日は割と長めの会議だった。疲労困憊で帰ってくるはずだったのに。おかしい。
原因があるとするならばこのトリガーだろう、間違いなく。出水は手の中のトリガーを太刀川の顔をちらりと交互に見やって確信する。
作戦室に帰ってきて真っ先に渡されたし、すごい笑顔だったし、今もちらちらと出水の手のひらの上にあるトリガーを見てはにやついているし。
うん、よく分からないけどとりあえずこのトリガーは危険だ。話を逸らそう。
出水は渡されたトリガーをさり気なく太刀川の視界から外して、会議の内容を伺ってみることにする。

「へー、そうなんですか。それはそうとして今日の会議は、」
「ちょっとそれ試してみろよ出水」

駄目だった。聞いちゃいねえ。
出水は心のなかでチッと舌打ちをしつつ、そういやこの人はこういう人だった、と自分の浅はかさを反省する。こんなんで誤魔化せるなら普段この人に振り回されたりなんかしちゃいねえ。
微かな頭痛を覚えつつ、若干諦めモードで出水は太刀川の言葉に応える。

「…今?」
「うん、今、ここで」
「どうしても?」
「どうしても」
太刀川は引く気も譲歩する気も無いらしい。出水にその怪しいトリガーをぎゅうと握り直させて、そして絶対に逃がすものかというオーラを発しながら迫ってくる。相変わらずのにやけ面で。
ああもう、嫌な予感しかしない。
しないのだが、逃げられる気もしない。
仕方がない。出水は腹を括ったのち深く深くため息を吐いて、酷くやる気のない声で呟いた。

「…トリガー、オン」

今までこんなに投げやりな気分で換装したことがあっただろうか。いや、ない。
やたらきらきらした瞳で見つめてくる太刀川に冷ややかな視線を向けつつ、トリオン体へと換装した。
さあここからが問題だ。一体このトリガーにはどんな爆弾が仕掛けられているのか。にやつく太刀川を無視して、出水は消灯しているモニターを鏡代わりに自分の姿を映しだした。

「え?なにこれオペレーター服?あれ?ん?おれの声?」

始めに異変に気づいたのは服装。これはいつも見ている服だ。女性用のオペレーター服。でもなんでそれを自分が?
そして髪。モニターが暗くて見づらいが、ふわふわとした髪が肩辺りまで伸びている。国近より少し短いくらいだろうか。
それから声。明らかに自分の声じゃない。なんだこの高い声。
思わず喉元を抑えて視線を下に向けると、更なる違和感に気づいた。

「…は?」

胸部のあたりに見慣れぬ膨らみ。ふっくらと。大きすぎず小さすぎず。
触ってみるともにゅもにゅと柔らかい感触。
え、ちょっと待ってほんとになんだこれ。混乱する頭を必死にクールダウンして冷静に状況を整理してみる。
女性用のオペレーター服、いきなり高音に変化した声、そしてこの胸の柔らかな膨らみ。
導き出される結論は、

「…太刀川さん」
「うん?」
「なんなのこれ」
「新型トリガー」
「いやそうじゃなくて」

おれ、女になっちゃいました?

嫌な予感はしていたし、ろくなことにはならないだろうという確信はあったので叫び声をあげるほどの驚嘆には至らなかったが、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので、とりあえず再び深いため息を吐いてがっくりと項垂れるのだった。



「あれだ、潜入任務だと女の格好の方が便利なこともあるだろうってことで作ってみたんだと。なんて言ったっけ、はにーとーすと?的な感じで情報集めるのに役立つかもってことらしい」

太刀川の言うことには、今度の遠征は極力戦闘を避けた潜入による情報収集を重心に置いたものになるらしい。
戦闘狂とまでは言わないが、強い相手との戦いを求めて遠征に行く太刀川のことだ。今度の遠征の目的を聞いてなんとなくテンションは下がったものの、まあそこは隊長らしくちゃんと話は聞いていたらしい。
慎重を極める作戦内容に、もう面倒くさいからズバッと斬り込んでいけばいいんじゃ、なんて思い始めたところで話に上がったのが件のトリガーだった。換装体を女の姿にするトリガー。
最初はへえそんなもの開発できるのか、と思う程度であったが、トリガーの使用目的やら図での説明を見ているうちに、邪な考えが太刀川の中にむらむらと湧き上がってきた。
詳しいことはよく分からないけれど、つまりは女になれるトリガーってことか。次の作戦で使うのかもしれないのだから、今のうちに試してみる価値はあるだろう。というか試しておくべきだろう、あくまでも遠征の準備ということで。
で、それをいざ実行すべく、会議が終わった後にそのトリガーを借りてきたとのことだった。
なんとも太刀川らしい馬鹿げた思考回路と行動に、改めて出水はがっくりと項垂れる。

「ハニートーストじゃなくて、それを言うならハニートラップ…」
「あーそれそれ。でも今の遠征チームには女いねーし、いたとしてもそういう意図で向かわせた時に万が一、ってことがあると危険だからってことで、男が行けるようにこうなった、と」

作成された意図は分かった。こんな体になった理由も分かった。出水は改めて自分の体を手でなぞってみる。
程よく大きくて柔らかい胸も、ゆったりと曲線を描く体のラインも、確かに男を誑かすには最適であろう。
しかし解せないことがひとつある。

「…それでなんでオペレーターの制服なの?」
「まだ試作で服装が決まってないからだそうだ」

なるほど、エンジニアの気分がもし南国の踊り子に向いていたとしたらそういう衣装になっていたかもしれないということか。あるいはふりふりひらひらのアイドル風になっていたのやも。
考えるだけで気が滅入ってくる。よかった、開発したエンジニアの人が変な性癖とか持ってなくてよかった。出水は心から安堵した。
まあだからと言って状況が好転したかと言えば全くそうではないのだが。太刀川の手に引かれて、出水は太刀川の胸にもたれかかるようにソファに腰を下ろす。と、柔らかく膨らんだ胸がふにゅ、と太刀川の固い胸板に押し付けられる感触。なんだか新鮮でやたらくすぐったい。
太刀川も同じように感じたのか、おー…と感心したような満足したような声を漏らして更に出水の体を抱き寄せた。

「で、太刀川さんはまた変なこと考えてこれ借りて来たんでしょ…」
「お、よく分かったな」
「そりゃね…」

短い付き合いではないのだ。それくらい分かる。
どうせ新しいトリガーの利用目的なんかどうでもよくて、女の体になった出水にえろいことするために借りてきたに決まっているのだ。
先ほどから尻やら太ももやらをいやらしく這う不埒な手が物語っている。というかそもそもさっきから目線がえろい。
でもまあ、別に出水とて太刀川に求められることが嫌なわけではないのだ。というか太刀川のことが好きなのだから、こんなどうしようもない人をそれでもたまらなく愛してしまっているわけなのだから、触れられて求められたら出水だって興奮するに決まっている。
そりゃトリオン体とはいえ女にされるなんて思ってもみなかったけれど、太刀川が望むのならそういうプレイくらいたまには付き合ってもいいかな、なんて思う程度には絆されてしまっているのだ。
ほんと、おれって甘すぎるだろ、なんて思いつつも、しかし触れられる箇所からじわじわと燻ってくる熱には抗えず、太刀川の膝に自分から乗り上げる、と。

「太刀川さん、連れて来ました」

コンコン、というノックの音。外から控えめに呼びかける声。
出水は大袈裟なくらいびくーっと跳ね上がって太刀川の膝から転げ落ちた。
対する太刀川は大して驚いた様子もなく、おー入れー、なんて言いながら床に転がった出水を抱き起こしてドアの外の人物に呼びかける。
誰だ、こんな時間に。時刻は深夜。こんな夜更けに訪ねてくるなんて非常識…とまでは言わないが(むしろ作戦室でいかがわしいことをしようとしている自分たちの方が遥かに非常識だ)、一体何の用事で、誰が。
とりあえずこの格好は色々とまずいので換装を解こうとしたところで太刀川に制される。え、なんで。思って太刀川を見上げればなんだか悪い顔。うわ、なんか嫌な予感。

「失礼します」
「やっほー太刀川さん。呼ばれて来たよ〜」

結局換装を解く暇は与えられず隠れることもできないまま作戦室の扉は開かれた。
出水が恐る恐る視線を向けた先には、

「…三輪?と、迅さん?」

軽く会釈をして入ってくる三輪と、ひらひら手を振りながらその後をついてくる迅の姿。
あ、なんかこの光景デジャヴ。つい数カ月前にもこんな光景見た気がする。出水の背筋がひやりと冷たくなる。

「で、太刀川さんおれと秀次に何の用?」
「おまえどうせ視えてるから説明要らねーだろ」
「ま、そうなんだけどね」

怖い。この二人の会話はほんと怖い。にやついて会話してるのがほんとに怖い。
ああもうこれ絶対やばいパターンだ。前回の恥辱が走馬灯のように思い出される。
逃げ出したいけれど太刀川の手でがっしりと肩を抱かれているので逃げようがない。万が一抜け出せても迅の予知がある限りどこへ逃げても無駄な気がする。もうだめだ、これ。出水はあっさり諦めた。
若干悟りモードに入りつつ、そういや三輪はなんでまた迅を連れてここに来たんだろうかと思って(この間酷い目に遭ったのは三輪も同じなのに)三輪に視線を向ければちょうどパチリと目が合った。

「…?ああ、出水か。もう試してるんだな」

三輪の言葉で思い出す。そういえばおれ今女になってるんだった。恐怖のあまり忘れてた。
げ、と思ったけれど、三輪は一瞬きょとんとしただけで特に驚いてはいないようだった。
それもそうか、三輪もA級の隊長だ。もちろん遠征の会議にも参加しているわけだから、例のトリガーについても知っているのは当然か。
ちょっとだけほっとするも、しかし前回の惨状を忘れてはいないはずなのにのこのことやってきた三輪が理解できなくて、出水はため息混じりで三輪に問う。

「それでどーしたんだよ三輪?こんな時間に迅さん連れて」
「聞いてないのか?」
「なにを?」

三輪は首を傾げる。出水も太刀川の企みなんて聞いてないので同じように首を傾げる。
いやほんと一体何を企んでるんだろうこの人。いや、ろくでもないこと考えてるのだけは分かるんだけど。

「会議のあとに、俺と出水にこのトリガーの訓練させるから来いって言われたんだ。それで迅も連れてこいって」
「訓練、って…」

あ、もうこの単語だけでピンときた。
訓練ってあれだろ、男を誑かすための訓練云々とか、そういうあれだろ。この人の思考回路からしたら絶対そうだ。
なんとなく察しはついてしまったけれど、とりあえず答え合わせのために太刀川の袖を引いて説明を促す。
太刀川は何故かふふん、とちょっとドヤ顔になって(ドヤ顔になる意味がちょっと出水には分からなかったがそこは無視した)目的とやらを語り始めた。

「三輪はもう会議で聞いただろうし、出水にもさっき教えただろ?次の遠征はこのトリガー使った潜入任務になるって」
「はあ、まあ」
「でもいきなり女になって情報集めてこいって言われても何すればいいかとか分かんないだろうし、そこで、だ」

太刀川は一呼吸置いてこほん、とわざとらしく咳払いをする。
そういうのいいからさっさと先に進めろ、と言いたいのを我慢して大人しく耳を傾ける。

「その訓練をおまえら二人にさせようと思って」

予感的中。やっぱりろくなこと考えてなかった!太刀川さんの考えをここまで当てられるおれってすごいのかも、なんて自賛してみたりする。虚しいだけだったけれど。
こんな馬鹿げた建前、さすがに三輪も呆れているだろうと思って三輪の表情を伺うと、なるほど!みたいな顔をしていた。
三輪ってもしかして馬鹿なのか?出水は思った。こんなに騙されやすくてどうするんだこいつ。

「まあそういうわけでおれもついてきたんだよ。他の人に秀次の相手役なんてさせたくないし、秀次もおれがいいでしょ?」
「調子に乗るな」
「はいはい」

三輪は真剣に任務のためだと思っているのか、浮ついた態度の迅を諌めるように睨む。
人の心を読めるサイドエフェクトなんて持っていないけれど、確実に迅も太刀川と同じようなことを考えているんだろうなあと出水は思った。この二人ってなんとなくやり口とか似てるし(前に三輪もそういうようなことを言っていた気がする)。
企みに気づいていないのは三輪だけか。哀れ三輪。なんて思ってみたけれど、その企みから逃れられないのは出水も同じなので、むしろ気づいている分自分の方が哀れな気もした。

「じゃ、三輪も換装して準備な」
「はい」
「わ〜秀次の女の子姿楽しみだな〜」
「あんたは少し黙ってろ」

太刀川に促されて三輪も例のトリガーを取り出す。
もはや迅の発言なんて下心を隠す気すらないのに、黙ってろの一言で流せるのがある意味すごいと出水は思った。三輪はもうちょっと危機感というものを覚えたほうがいいんじゃなかろうか。

「…トリガー、オン」

訓練という言葉にすっかり騙されている三輪も、自分の体が女性に変化する、ということに抵抗があるのは否めないようで(まあ当然だ)僅かに躊躇いを見せたあと、しかし覚悟を決めたようにそのトリガーを握りしめ、起動の言葉を発した。

「おー…これはなかなか」

換装にかかる時間は一瞬だ。瞬きひとつの間に三輪の体が女のそれへと変化する。
服装は出水と同じ女性用のオペレーター服。白い肌に淡い色の唇。制服を内側から押し上げる胸の膨らみは若干自分よりも大きく見えて、出水は謎の敗北感を覚える。いや、別に競ってるわけでもないしそもそもこれ自分の体ですらないのだけど。
そして柔らかそうな胸のあたりまでさらりと伸びた黒髪がなんだか色っぽい。
割と可愛い寄りに設定してある自分の換装体と比べると、清楚な感じの美人寄りな印象を受ける。

「ちょっと太刀川さん、おれの秀次をそんな舐め回すように見ないでくれる?」
「いいだろ減るもんでもあるまいし」
「太刀川さんに見られたら減りそう」

じろじろと値踏みするように三輪を眺める太刀川を、迅がやんわりと制して三輪の肩を抱き寄せた。
しかしあれだ。太刀川がねちっこく見てはいないが、三輪の姿にはー…と出水も思わず見惚れてしまう。と、肩を抱いていた太刀川の手がするりと腰に回ってきて出水はぴくんと身を跳ねさせた。
思わず太刀川の方に顔を向けるとそのまま軽くちゅ、とキスされる。ああもうずるい。こんな状況ほんと勘弁してほしいと心は思っているのに、撫でられてキスされると簡単に火照ってくる体が憎い。それを分かってて絆そうとしてくる太刀川は本当にずるい。

「迅と三輪はそっちのソファ使っていいぞ」
「はいはーい。ほらほら秀次こっち。まずは太刀川さんたちの訓練を見物してよっか」

迅と三輪を向かいのソファに座らせると、太刀川は改めて出水を抱き寄せる。
ちらりと横目で二人を見やると、真剣な眼差しの三輪と相変わらず何を考えてるのか分からない笑顔の迅。どちらにせよ見られながら致すことになるのは確定らしい。
ああ、またこのパターンなのね。うん、この二人が来た時点でもう予想はできてたけどね。
早々に諦めはついていたので大した抵抗もせず、出水は再び自ら太刀川の膝の上に乗り上げた。

「じゃ、とりあえず出水。誘惑してみろ。色っぽくな」
「誘惑って言われても…」
「せっかく女の体なんだし、女の武器使ってみろよ」
「う、うーん…?」

そんなこと言われても困る。おねだりすることはあっても誘惑とはちょっと違う気がする。
しかも女の武器を使えときた。よく分からないけど女の武器、っていうとやっぱり胸か?
出水は数秒悩んだあと、紺色の上着を脱ぎ捨ててシャツのネクタイに手をかけた。煽るような手つきでゆっくりと緩めてしゅるりと床に落とし、今度はボタンに手をかける。
こちらも焦らすようにじわじわと、しかし大胆に。ひとつ、ふたつ、とボタンを外していき、みっつめで淡い水色の下着に包まれた柔らかそうな双丘が姿を見せた。自分の体なのに、思わずごくりと生唾を飲み込む。だってこんな風に谷間を見下ろすことなんて無いことだし。

「で、そこからどうするんだ?」
「え、あ、うん」

太刀川に急かされて出水ははっと我に返る。ついつい自分の体に欲情してしまっていた。太刀川と恋人関係にあるとはいえ、女体に興味が無いわけではないから仕方のないことだろう。男の性だ。
さて胸をはだけたところまではいいとして、何をどうすればいいんだろうか。困り顔で太刀川を見上げてみてもにやにやするだけで何も答えてくれない。ちょっと腹が立つ。
とりあえず触らせてみればいいんだろうか。そんでもってなんかこう誘うようなセリフとか?
出水はするりと太刀川の手を取って、自分の胸元に滑らせる。太刀川の硬い指が柔らかな胸に触れる感触がやっぱり慣れなくてくすぐったい。
それから太刀川の手の上に自分の手を重ね膨らみを包ませるようにして、そのまま太刀川の耳元に唇を近づけて吐息を絡めた声で甘く囁いた。

「ねえ…おれ…じゃなくて、わたしと、イイコト…してみない?」

出水としてはかなり色っぽさを意識してみたつもりではあるのだが、それに対して太刀川は興奮をあらわにする…と思いきや軽く吹き出すのみであった。

「ふは、おまえそれこないだ貸したエロ本のまんまじゃねーか」
「仕方ないでしょ!つーか誘惑とかわかんねーし!出来るか!」

なんだか急に恥ずかしくなって、かっと顔を赤らめながら反論する。
というか普通の男子高校生(今は体だけは女子高生だけれど)に誘惑なんてそんなものが出来るわけがないだろう。常識的に考えてみてほしい。
むくれる出水をなだめるように太刀川は頬に軽くキスを落として、それから出水の背中に手を回した。

「ま、いいか。今日のところは合格にしといてやろう」
「んなえらそーに…、ちょ、ぁ、んっ」

太刀川は出水のシャツを肩から落としてさっさと下着のホックを外してしまうと、出水の柔らかな双丘をあらわにする。
そのまま抱きかかえるように出水の胸に顔を寄せると、その膨らみの先端にある淡いピンクの突起に舌を絡ませちゅうと吸った。
ひくん、と身を反らす出水の背中をしっかりと支えつつ、その一方でもう片方の手は出水の胸をやわやわと揉みしだく。
胸に触れられることも乳首を吸われることも慣れたことだけれど、こんな風に揉まれるなんてことは初めてだ(まあ男だから当然と言えば当然なのだけど)。今まで味わったことのない感触に脳が混乱する。気持ちいいのかくすぐったいのかよく分からない。

「いずみ〜、胸揉まれるってどんな感じ?」
「ん…、なんか、わかんない、へん…」
「ふーん、じゃあこっちはどうだ?」
太刀川は胸を揉みしだいていた片手をするすると下へ滑らせると、スカートを捲り上げて出水の太ももに触れる。
胸と同じように女らしく柔らかなそこを太刀川は堪能するように撫でたあと、その手をそのまま股間へ這わせた。熱い手がそこにあるという感触だけで出水の体は期待に震える。

「ほら、ここ」

太刀川は数度出水の股間を指でなぞると、まだ尖りきっていない突起を探り当て、そこを下着の上からこりこりと指で刺激した。
また、知らない感触。でもさっきとは違う、触れられた箇所から感じるのは明確な快楽。出水の体がぶわりと熱くなる。
反射的に体を捩って逃れようとするけれど腰を抱く太刀川の手はそれを許してくれなくて、執拗に与えられる未知の快感に出水は何度も体を震わせた。

「ひ、あぁ、んっ、そ、それ、やだぁ…」
「でも気持ちいいだろ?」
「きもち、けど、ぅあ、や、や…」

太刀川の指がそこを転がすたびに全身が痺れるような感じがする。頭がふわふわする。たまらず太刀川の体に縋り付くけれど、太刀川はそれでも手を止めてくれない。
やばい、気持ちがいい。脳がとろけるような感じがする。でも、同時にもどかしいような変な感覚。イきたいのにイけない、そんな感じ。
これが元の体だったら自分で触って射精するくらい簡単なのだけれど、女の体のどこをどう触れば絶頂に至るのか、なんて分からない。エロ本やらAVやらの知識くらいしか無いから分かるはずもない。
仕方がないから太刀川にねだるしかなくて、出水は物欲しげに太ももをすり合わせながらかすれた声で懇願した。

「たちか、さ…、も、イかせて…」
「ん?イっていいぞ?」
「っ、た、足りな…、から…、もっと…その…」
「…へえ、やらしくていいな、今の。それとも誘惑のリベンジか?」

太刀川はくく、と喉の奥で小さく笑うと、出水の体をソファに押し倒す。
散々尖りを弄んでいた手でさっさと下着を剥ぎとってしまうと、出水の足をぐいと広げさせて秘部をあらわにさせた。
別にこんな格好慣れてはいるけれど、普段は無いはずの胸の膨らみが目に入ったり、逆に有るはずの勃起した性器が見えなかったりしてなんだか落ち着かない。
女になっているとはいえ自分の体であることは確かなはずなのに、なんだか妙な背徳感を感じてじわじわと頬が熱くなる。なんだろう、やたら恥ずかしい。

「へー、トリオン体でもちゃんと濡れるんだな」

いつもはあるはずのない場所。女にしかない割れ目を指でゆっくりとなぞりながらなんだか楽しそうに太刀川が囁く。
ああそういえば女の子は男と違って感じると濡れてくるんだっけ。男の性器を受け入れるための場所が。例のごとくAVやら何やらで見た知識をぼんやりと思い出す。
自分は挿れるために色々と準備をしなければならないのに、女の体はそれが勝手にされるから羨ましいなあなんて思ったりする。いくら出水が望もうが太刀川に体を開発されようが、そんな体にはなれるわけないのだ。
ちょっとだけ切なくなったけれど、きっと太刀川はそんなことなんて一切考えてないだろうな、と思ったので自分も考えないことにする。

「そういやこの体ってもしかして処女か?痛かったら言えよ〜」

呑気な声とともに、割れ目を押し広げて太刀川の指が中へと侵入してくる。傷つけぬようにゆっくりと。優しくしてくれるつもりなんだろうか。
きつい孔を押し広げられる感触。出水は太刀川と体を重ねるようになって間もない頃をなんとなく思い出す。
でもそれよりはだいぶ楽だ。だってそこは普段太刀川の性器を受け入れている後孔と違って、もともと男のものを受け入れられるようにできている場所なのだから。

「ん、んっ、ふ、あ…、っ」
「中すっげーぬるぬるしてるぞ。これならちょっと激しくしても平気そうだな」
「ひぁ、あっ、!あ、ぅあ、あ、ぁ、」

優しくしてくれるのかと思ったのも束の間、太刀川はぐじゅぐじゅと激しく中をかき回し始めた。硬い指が中で暴れまわる感触に出水は悲鳴と歓喜の入り混じった声を上げる。
まだ馴染まない入り口はじわりと痛む、でもそれ以上に内壁を擦られるのがたまらなく気持ちがいい。
時々指でとんとんと奥をノックされると、ひくひくと足先が震えて甘い声が漏れる。甘ったるい女のような、いや、今は女なのだから女の嬌声なのか、それが自分の喉から漏れているのかと思うとなんだか変な感じがする。自分の喘ぎ声にすら興奮してしまう。
中をかき回されるたびに自分の秘部から愛液がどろどろと溢れ出しているのが分かって、耳に響いてくる水音も激しくなっていって、それにも興奮を煽られる。

「んあ、あぁ、あっ、や、あ、あ」
「中とここ、同時に触られるとすげー気持ちいいらしいぞ、どうだ?」
「ひっ、それ、だめ、っ!あぁ、あっ」

言って太刀川は中をかき回しながら、先ほど散々弄った突起を再びこりこりと指で刺激する。
先程はどこかもどかしく感じていた快楽が、今は電流のようにびりびりと痺れるように体を襲ってきて、頭が真っ白になる。
快楽の波に耐え切れなくて無意識にもがくけれど、まあ逃れられるわけもない。そもそも体に力が入らない。
ああ体が熱い。もう脳もとっくに思考を停止している。今感じることができるのは与えられる快楽のみ。

「っう、あ、や、あぁ、っあ…!」

ぎゅうと瞑った瞼の裏にちかちかと星が舞う。
大げさなほど腰ががくがくと跳ねて、頭の中が真っ白に塗りつぶされて、出水は絶頂に達した。出水はまるで犬みたいに浅い呼吸を繰り返しながら、そしてゆるゆると脱力していく。
未だ小刻みに痙攣を繰り返す出水の体を気遣うようにそっと指が引きぬかれて、とろりと蜜が溢れてくる感触にまた出水は体を震わせた。

「は、はー…、はぁ、…」
「おーい大丈夫か?出水?」

ちょっと心配そうな顔をした太刀川にぺちぺちと頬を叩かれるけれど、もう反応する気力もない。
セックスの時に女の感じる快楽は男の何倍だとかいうよく分からない記事を読んだ覚えがあるけれど、確かにその通りなんじゃないかと思った。普段が物足りないとかそういうわけでなく、単純にさっき味わった絶頂はすごかった。まだ頭が朦朧とする。
未だ焦点の定まらぬ目でぼんやりと太刀川を見上げていたら、労るように甘いキスをされた。こういう時にやたら優しく触れてくるからこの人はずるい。
太刀川は唇を離すと出水の頭をくしゃくしゃと撫でて、まだふらふらな出水の体を抱き起こしソファにそっと座らせる。そして自分もその隣に座ると、迅と三輪の方へ視線を寄越した。

「よしよし、出水は一旦休憩な。おい迅」
「なに〜?」
「次そっちの番」

顎をしゃくって促す。こっちは見せたんだから次はおまえらの番だぞ、と。
多分この人今めっちゃ悪い顔してるんだろうなあ、と思ってちらりと表情を伺うと、大正解。なんかもう邪な考えを隠す気すらなさそうな悪い笑顔。
で、迅の方もちらりと見やれば、太刀川ほど悪い顔はしていないが、でもやっぱり意味深に含み笑いしている。なんで三輪は気づかないんだろうなあと思ったりする。
ついでに三輪の様子は、と伺ってみると、真剣な表情はしているものの、相変わらず顔は真っ赤に染まっている。
まあいいか、とりあえず自分の番は終わったのだ。自分もあれだけ痴態を晒したのだし、三輪にも犠牲になってもらおう、なんて思いながら出水はソファと太刀川に体重を預けて鑑賞モードに入った。

「ほら、秀次もやってみよっか」

迅は三輪の体を抱き寄せると、ソファの上で向かい合わせになって自分の膝を跨がせ膝立ちにさせる。
目の前に三輪の豊満な胸があって興奮を煽られるが(もう一気に押し倒したくなってしまう)、せっかく三輪の方から積極的になってくれるかもしれないチャンスなのだ。迅はぐっと我慢して、代わりに優しく三輪の頬を撫でた。
数秒、三輪は緊張の面持ちで迅を見つめていたが、覚悟を決めたかのようにすう、と息を吸って、吐いて、それからやっと言葉を紡いだ。

「…いいか、迅」
「うん」
「これは訓練の一貫だからな、別に…そういうあれがしたいわけじゃなくて」
「はいはい」

訓練と信じきっていてもやはり羞恥は拭い切れないらしい。どんどん声が小さくなっていって言葉尻は出水の耳にはよく聞こえなかった。
しかし意を決したようにそろりと上着を脱ぎネクタイを外して、それからシャツのボタンに手をかける。
震える手でひとつひとつボタンを外していって、そっとシャツを肩から落とすと、淡い白の下着に包まれた豊満な胸があらわになった。
白い肌に白い下着、それに映えるさらさらの黒髪のコントラストがなんだか非常にいやらしい。ちょっと前に太刀川と見た清楚系AVを思い出す。

「わー…、三輪、なんかえっろ…」
「…あまり、見るな」
「いやー見るでしょ?訓練、だし?」

思えばこんな近くで同年代の女の子の体(まあ元は男だけど)を見るなんて出水にとっては初めてのことだ。見たくなってしまうのもえろいと思ってしまうのも仕方ないことだろう。それにどうせ三輪もさっきまでは自分の「訓練」を見ていたんだろうからお互い様だ。
そう思いつつ「訓練」という単語を出すと、三輪はちょっと言葉に詰まったような顔をしてそれから諦めたかのように迅の方へ向き直った。まあ訓練などと言いつつも出水の方は(というかおそらくこの場にいる三輪以外の全員)全くもってそうは思っていないのだが。

「秀次もとりあえず誘惑的なことしてみてよ」

迅もあえて自分から積極的には触らずに、腰やら背中やらをそろりと撫でながら三輪からの行動を促す。
まあそれもそうだ。迅にとっては、滅多におねだりやらお誘いやらそういう類のことをしてこない三輪が自分から求める姿を見れるまたとないチャンスなのだ。
今すぐ押し倒してめちゃくちゃにしてやりたい衝動を抑えつつ、三輪が自分から動くのを待つ。

「そうだな…誘惑…、色仕掛けの訓練、だしな…」

自分に言い聞かせるようにうんうんと三輪は頷いて、迅の顔をじっと見つめる。
けれど見つめ合うのが恥ずかしかったのか、すぐにふいと顔を逸らして代わりに迅の手をそっと握る。
そのまま迅の指に自分の指を絡めると、そのまま口元まで持ってきて、ちゅ、と優しく口付けた。

「わ、私のこと…好きに、して…?」

誘う言葉としては出水と同じくありきたりなセリフ。
しかし容姿と震えた声とが相まってなんとなくえっちな感じがして、見ているだけの出水の方がちょっとドキッとしてしまった。
けれど隣の太刀川はなんとなく不満気な様子。

「うーん三輪もなんだか面白みに欠けるな〜」

だから普通の男子高校生に何を求めてるんだこの人は、なんて思いつつ出水はちょっと安堵する。
よかった、三輪も同レベルで本当によかった。これで三輪がすごいお色気たっぷりな誘惑なんかしたらどうしようかと思った(そんなことあったら対抗した太刀川にそれ以上を求められるに決まっているし)。
しかし稚拙な誘惑であっても、やはり恋人としては煽られるものらしい。迅は珍しく照れたようにはにかんだ。

「いやいや、おれ的にはすごい興奮したから全然おっけ〜」
「そ、そうか…?っわ、何を、っ」

褒められてちょっと満足気な三輪。を、迅は笑顔のままソファに押し倒す。
三輪が驚いた様子で迅の顔を見上げると、笑みを浮かべる瞳には明らかな獣欲が映っていて心臓がどきんと跳ねた。
これは今まで何度も見てきた目だ。さすがの三輪でも迅が何を望んでいるかはっきりと分かる。

「だって好きにしていいんでしょ?」
「それは訓練の一環で…ん、んんっ」

反論しようとした唇を迅の唇が塞ぐ。反射的に三輪は抵抗するけれど迅の手は容易くそれを抑えこむ。
柔らかな唇を舌で押し開いて、生ぬるい口内を味わいつくすように迅の舌が蠢く。くちゅくちゅと響く水音がいやらしい。
口のまわりが唾液でべたべたになるくらい唇を貪り尽くされて、やっと長いキスが終わる。キスだけでとろけた三輪の頭を優しく撫でながら、迅は諭すように囁いた。

「これも訓練の一環だよ?秀次」
「そ、うなのか…?」
「そうそう、出水だってやってたでしょ」

ここで自分を引き合いに出されても(完全に騙されている三輪と違っておれはちゃんと気づいてたんですけど)、なんて出水は思ったけれど口には出さないでおいた。だって結果的にはどうせ同じことだったのだし。
三輪はなんだか納得いかないような顔をしつつも、しかし出水も同じ「訓練」をしたのだと言われては拒めるわけもない。抵抗の手をそろりと緩めると、観念したかのようにため息を吐いた。

「…分かった、これも隊長の責務だ」

相変わらず三輪は真面目だなあと出水は思う。そんなこと言ったらうちの隊長はどうなるんだ(喜々として試作トリガーで悪巧みするような人なんですけど)。
色々とさっきからツッコミたいのを我慢しつつ、しかし迅も悪い大人だなあと思う。いたいけな少年を騙してやらしいことをする、なんて、改めて状況を文字にするとすごい犯罪臭がする。
ほんとこの悪い大人たちに捕まった自分たちは哀れだと思う。まあそれでも好きで付き合っているのだからどうしようもないことなのだけれど。

「ま、そこまで固くならなくてもいいけどね。秀次、口開けて」
「…ん」

迅に促されて三輪はそろりと舌を差し出す。
唇が触れるより先に舌がくっついて、絡められて、それから再び深く口付けられる。くちゅくちゅと優しく口内を舌で撫で回される感触に再び三輪の脳はとろけていく。
三輪の声が甘く濡れたものに変わったのを確認すると、迅は頬に触れていた手をそっと豊満な胸に滑らせた。ぴく、と三輪が身を震わせたけれど構わずその柔らかな膨らみをやわやわと揉みしだく。

「ん、んんっ、ん…、んぅ、ん、ふ、ぁ…」

やはり三輪の方も普段は無い胸を揉まれる、というのは妙な感じがするようで、快楽よりも困惑の混じった声を喉から漏らす。
けれど迅が下着を引き上げて、ふるんと溢れでた双丘の先端を指で軽く弾いてやれば、今度は明確に甘く喉を鳴らした。それを迅が聞き逃すわけもなく。
やわやわと膨らみを手で転がしながら、尖り始めた乳首を撫でて、弾いて、つまんで、好きなように弄ってやれば三輪の体はその度にひくん、ひくんと跳ねて、塞がれた唇の奥で淫らに喘ぐ。
迅がそっと唇を離して三輪の顔を見下ろせば、もうすっかり熱に浮かされた瞳がそこにはあった。潤んだ双眸が物欲しげに迅を見上げている。

「なんか牛みたいな乳だな〜」
「…太刀川さん例えがなんかおっさんくさい」

下世話な発言をする太刀川には軽く肘鉄を食らわせておく(決して胸の格差に嫉妬したとか別にそういうあれではない、ないのだ)。
しかし出水の方も目の前で清楚な美女が(中身は三輪だと分かっていても)徐々に乱れていく姿に興奮を隠せずにいた。
前もこういう風にお互いのセックスを見せ合った(正確には強制的に見せ合わされた、だが)経験はあるが、お互い女の姿となるとまた違うものがある。男の太刀川と付き合ってはいるけれど、出水だって女の体に興味津々な男子高校生。興奮しないわけがない。
換装体じゃなかったら今頃やばいほど勃起してたかも、危なかった。と、今だけこの体に感謝する。

「女になってもここ感じやすいのは変わんないんだな。可愛い、秀次」
「う、るさ…」
「そんな顔で言っても可愛いだけだよ」

迅はくすくすと笑いながら三輪の頭を撫でて、それからもう一度三輪の唇に軽くキスを落とした。三輪は口では反抗しつつもしかしやっぱり目元はとろんとしたままで説得力がまるでない。
しかしこうなんていうか、迅と致している時の三輪はやっぱりなんとなく雰囲気が甘い、と出水は思う。前も同じようなことを思ったけれど、迅とこうしている時はこんなに恋人らしい雰囲気を出すんだな、と思う。いや、恋人同士なのだから当たり前なのだけど、普段見慣れている三輪からは想像がつかないというか、こういう風に素直に頭を撫でられているのも意外というかなんというか。

「ほら、下脱がすからちょっと腰浮かせて」
「、ん…」

今だって迅の要求に従順に頷いて、そろりと腰を浮かせている。普段は迅にもツンツンしているくせに、やっぱりこういう時は甘くなるんだなあとか思ったりする。
まあでも気持ちは分かる。好きな人に触られてキスされて愛されたら、勝手に脳がとろけてくるのだ。もう何でもしてくれって、そんな気分になってしまう。そのせいで散々な目に遭っているにも関わらず、それでも条件反射のようにそうなってしまうから、恋というものはどうしようもないものだ。
だから今、この光景で興奮してきたと思われる太刀川に腰やら足やらを撫でられて、じわじわとまた熱が燻りはじめたのも仕方のないことなのだ。

「せっかくだから色々したいとこだけど…ま、最初だし軽めにね」
「ん、…えっ、ぅあ、なに、を…っ」

迅の目の前には呼気を乱して頬を染めて、迅から与えられる快楽を素直に享受する三輪の姿。しかもいつもよりも素直ときた(訓練という言葉のおかげだろう)。
これが興奮しないわけがない。もう正直言ったら欲望に忠実になって気の済むまで性欲をぶつけたいところだけれど、そこをぐっと我慢する。
出水の体が処女だったのだから(多分)、三輪もきっと同じだろう。ならば無茶をさせて痛がらせることだけはしたくない。
数瞬だけ悩んだ後、迅は三輪の足を広げさせて濡れた秘部をあらわにさせると、そこにそっと顔を埋めてゆっくりと舌を這わせ始めた。

「っひ!ぅあ、あ、ぁ、や、やめ、っ」

迅の舌が、女にしかない割れ目を、ぷくりと尖った突起を丹念に舌で愛撫していく。
今まで何度も体を重ねてきたのだから性器を舐められたことくらいはある。あるのだけれど、女の体でこんなことをされるのは初めてだ。
未知の感触。くすぐったいようで、むず痒いようで、それでいて脳にびりびりと快楽が走る。三輪の頭はそれを上手く処理できなくて混乱する。

「や、め…、それ、へん、だ、から…」
「変、じゃなくて、気持ちいい、でしょ?」
「ちがっ、あ、ぁ、うぁ、あ、あ、」

じゅ、と少しだけ強めに吸われて三輪の体がびくんと跳ねる。
こんな感覚は知らない。分からない。のに、体だけが勝手に昂ぶっていってどうしようもない。理解が追いつかない。頭の中をかき回されているような感覚。
もう「訓練」だとかそんなこと考える余裕なんてなくなってしまって、三輪はわけのわからない快楽から逃れようと震える手で迅の頭を押し返す。けれどがっちり足を抱え込まれていては逃げられるはずもなくて。
為す術もなく、三輪は快楽の絶頂へと押し上げられていく。

「ひ、だめ、あっ、あ、あ、ぁ、あ…っ!」

ぐちゃぐちゃになっていた思考が一瞬にして真っ白になる。
漏れだす甘い声を噛み殺すことも大げさなほどがくがくと打ち震える体を抑えることも出来ずに、三輪は全身を朱に染めて激しい絶頂を迎えた。
だらしなく開かれた唇の端からは唾液がつうと伝う。でもそれを拭うことすらできない。脳を支配するのはただ快楽の一色のみ。

「舐められただけでイっちゃった?えっちだね、秀次は」

濡れた唇をぺろりと舐めながら迅は顔を上げて、未だひくひくと体を震わせる三輪を見下ろす。
快楽の余韻に震える三輪には、もはや迅の言葉に反論する余裕すらない。ただはあはあと荒く息を吐きながら、潤んだ瞳で見上げることしかできない。
その、朱に染まった頬が、潤んだ瞳が迅の欲望を更に煽る。優しくするつもりだったのだけれど、そんな風に誘うような顔をされてはどうしようもない。

「…そんな顔してたら歯止め効かなくなるってば。ね、挿れてもいい?秀次」
「あ、ずるいぞ」

三輪の頬を愛おしそうに撫でる迅。うっとりとそれを受け入れる三輪。
あ〜なんか純愛系のAVのラストみたいだな〜なんて思いながらじわじわと興奮に火照っていた体を鎮めていたら、今まで黙って見ていた太刀川にぐいと肩を抱かれた。
何がずるい、なのかと聞く暇もなく再びソファに押し倒される。見上げればぎらついた獣みたいな瞳と目が合った。あ、これはまさか。

「出水、もうだいぶ回復したな?」
「…まあ、はい」

隣の迅と三輪はこちらのことなど気にも留めず、その先に進もうとしている。それをずるいとか言うってことはつまり。

「俺まだ挿れてないし、当然二回戦な」

やっぱりね、そうなると思った。予想のできた展開に出水は内心ため息を吐く。
そういやこの前もなんだかんだで一回じゃ終わらなかったもんな、そりゃそうか。
ほんとこの人どうしようもないな、なんて思いつつも、拒む気持ちが微塵もない自分にも呆れてしまう。もうだいぶ体力は回復したけれど太ももに這ってくる太刀川の不埒な手を払いのける気など毛頭ない。
だって最初は本当に勘弁してほしいと思っていたこの状況に案外興奮してしまっている自分がいるし(もしかしておれってすごい変態なのかも)、それに愛する人に求められたらやっぱり断ることなんてできない。ああ、ちょっと触れられるだけでこんなにも体が火照る。

「…仕方ないですね」

なんて口では言いつつも、しかし出水の方からもそっと太刀川の首に腕を回すのだった。





「は〜なかなか新鮮でよかったな」

そこそこ広いA級の作戦室。そういうことをすべきでない場所でそういうことをしでかした痕跡をかき消すために、ごうごうという空調の音が響く。
そういうこと禁止されてるの分かってるくせに、若い自分たちじゃなくて大人のこの人達が率先して破っていくのはどうなんだろうな〜と酷く今更なことを思いながら出水は眠そうに目を擦った。
ようやく換装を解くことを許されたのはいいのだが、しかし生身に戻ったのに謎の疲労感があって(普段設定しているものと違う女の体になっていたからだろうか)なんだか動くのが怠くて出水は太刀川の膝を枕にしてごろりとまだソファに転がっていた。もう気分的にはこのまま寝てしまいたい感じだ。
三輪も同じような感覚なのかは知らないが、向かいのソファでくったりと迅の腕の中に大人しく収まっている。

「ほんと太刀川さんて悪知恵だけは働くよね」
「おまえもノリノリだったくせに」

またこの悪い大人二人は悪そうな顔して談笑している。ほんとこの二人を組ませるとろくなことにならない。
次はあれがしたいだのどうしたいだの、もう耳を塞ぎたくなるようなことばかり話していてもう勘弁してくれと思う。
しかしツッコミを入れる気力も無くツッコんだところで弄られるだけなのは確定しているので聞こえないふりをしてスルーした。この二人の会話に首を突っ込むほうが馬鹿というものだ。
けれどそんな馬鹿は意外と近くにいた。

「あんたたちが何を楽しそうにしているのかは知らないが…これは訓練だろう?反省点を述べるなりもっと真面目にしたらどうだ」

二人の談笑に冷たく、しかし力ない声で水を差したのは未だ迅の腕の中にいる三輪。
ああそういやこいつ騙されっぱなしだった、そういやそうだった。
しかしもちろん三輪に対してもツッコむ気力があるわけもなく、出水は無言で項垂れる。
そして水を差された当の本人たち、迅と太刀川は一瞬口を噤んで顔を見合わせる。それから二人して悪気などなさそうにへらりと笑って言った。

「ん〜、いや、本番は風間さんとかがやるんだと思うぞ?えろいことになる前にさくっと終わらせてくれそうだし」
「そもそも上層部が未成年にこういうことさせるとは思わないしね〜」
「そういうわけだ三輪、そんで出水も、実戦が来ることはまず無いから安心しろ」

ああ、うん、おれは予想はできてましたよ、おれは。
太刀川の手にぽんぽんと頭を撫でられつつ、出水はもう今日何度目かも分からない深いため息をついた。
しかもちょっと自分もさっきまでの酷い状況を楽しんでしまっていたし。頭が冷えてきた今なんだか深く反省する。このまま流されてたらどんどん変態プレイが過激になっていってしまう気がする。
これからはちょっと控えよう。いや、控えようと思っても結局太刀川に流されるのだから無駄な決意かもしれないけれど意識だけはそういう風に持っておこう。
そっと決意しつつ、そういやようやくこの悪い大人二人は企みを明かしたわけだけれど三輪は騙されてたことに気づいたんだろうか、と思って視線を向けてみる。
と、三輪はそうなのか?みたいなまだよく分かっていないような顔をしていた。三輪って普通に頭いいくせにやっぱりちょっと馬鹿なんじゃないか?出水は再び思うのだった。












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