嫉妬とか衝動とかの話




キース・バッドマンさんでおしおきサイクロンです。



さて、私は何がしたかったのだろうか。

汗ばんだ肌をゆっくりと起こして、キースは自分の下で浅い息を繰り返すイワンを見下ろした。
小さな背中には自分が残した歯型と鬱血の痕。白くて滑らかな肌は自分と同じようにしっとりと汗ばんでおり、細く開いたカーテンから差す月の光を鈍く反射した。
ゆっくりと手を伸ばして、確かめるようにその痕を撫でる。白い肌と赤い痕のコントラストが綺麗だ。
と、腕を伸ばした所為か、繋がったままの箇所がぐちゅ、と小さく音をたてる。その微かな衝撃にもイワンは敏感に反応し、震えた声をあげた。

「ん、っ…」

伸ばした手で頬に触れて、そのまま自分の方を向かせてやれば潤んだ目と目が合う。
睫が揺れてまばたきが一回されると、大きな瞳からぼろりと涙が零れた。

「イワンくん」

見上げる瞳は恐怖や困惑の色を映している。もっとも、それは疲労の色によって上塗りされて淡くなっているけれども。
しかし僅かでもその怯えるような様子を感じれば、すぐに今の行為を止めるはずであろう。それがいつものキースであれば。
今のキースは、ただ無表情にイワンを見下ろすばかりであった。

「きー、す、さ…、っひ、あっ…」

細い腰を掴んで、再び緩い抽挿を繰り返してみる。
中に入ったままのキースのものは、先ほど達したばかりだというのにまた既に勃ちあがりはじめていた。
まだ脱力したままのイワンの体を無理やり引き寄せて、ゆるゆると浅い快感を追った。

「あ、あ…、ひう…っく…」

いくら疲れきった体といっても、内壁を擦られて無理やりにでも快感を与えられてしまえば啼いてしまうのは仕方がない。
キースの動きに合わせてイワンは掠れた嬌声を漏らした。しどけなく開かれた口からは唾液がつうと零れ落ちる。

「ん…っ、はあ、…な、んで…」

言葉にならない喘ぎの中から、イワンの問いが聞こえたのをキースは聞き逃さなかった。

なんで。

それは何に対しての問いだろうか。どうしてこんなことをしたのか、何がしたかったのか。
何れにせよそんなのキースにも理解できていなかった。

きっかけはなんだったか。今日のことをぼんやり思い出してみる。イワンに関することを。
留置場から嬉しそうに出てくるイワンの姿を見かけて。イワンの新しい自分のイメージのことを聞いて。そしてその話をエドワードにしたのだと嬉しそうに語るイワンの姿を見て。
そんな感じだった気がする。しかしそのあたりからのキースの記憶はもう曖昧であった。
そこからの彼の行動はただの衝動に支配されていた。突き動かされるようにイワンの手を引いて家まで帰ったのはぼんやり覚えている。そして戸惑うイワンをベッドに投げるように連れ込んだことも。

「なんで、だろうね」

無理やりベッドに押さえつけて着ているものを全て剥ぎ取って、抵抗するイワンの腕を縛り付けて、それから。
あとは欲望に促されるまま彼の体を暴いて乱して揺さぶった。
膨れ上がった醜い欲望を全て彼の中に吐き出して、彼が動けなくなるくらいまでどろどろに犯した。

さてその衝動というのはなんだったか。
彼と話したそのときに体の中をかっと熱く巡ったあの衝動は。

「っあ…!ひ、きーす、さ、」

がくがくと震えるイワンの足を掴んで体を反転させる。
その弾みでキースのものがぬるりと抜けて、イワンの後ろの穴からは白濁した生温かい粘液がどろりと零れた。
何とはなしにイワンの下腹部を指でぐ、と押してみると、と爛れた赤い穴が歪んでまたキースの残した白濁を吐き出す。

「あっ、あっ、やだ…ぁ…」

精液が漏れていく感覚が気持ち悪いのか、イワンは両腕で自らの顔を覆った。その白い腕には赤く拘束の痕が残っている。今はそんなものなくても抵抗する気力など無いようだが。
キースは力無く顔を覆う腕を引き剥がしてやって、その痕にキスを落とす。
それからまた自分のものをぐちゅりとイワンの中に挿入した。先ほどよりもキースのものは固く勃起していたが、ひくひくと蠢く穴はいとも容易く飲むこんで包み込む。
暗い愉悦を覚えながら、キースはく、と軽く息を吐きながら笑った。

かっと頭に血が上るのを感じたのだ、あの時。
エドワード、という男のことは以前から知っていた。イワンの親友、大事に思っている人の一人。そしてある事件で彼を傷つけたことも、和解しようとイワンが頑張っていることも。
聞いていたし知っていた、はずなのだが。
何故だか今回に限って、怒りのような酷い嫉妬という感情がじわりとキースの体を支配したのだ。
分からなかったし、考えるような余裕も無かった。ただひたすら嫉妬から生まれる穢れた欲望に身を任せるままであった。

ああ、どうしてこんなことをしたのか、という答えがそれになるのかもしれない。
嫉妬という名の衝動。

「すまないね、イワンくん。私はどうやら嫉妬していたようだ」
「んっ、あ、ああっ」

腰をぐいと引き寄せて奥を穿ちながら先ほどの質問に答えてやるが、果たしてイワンの耳には届いたのかどうか。
それでもうつろな瞳でこちらを見ようとするイワンが力無い子猫のように愛らしくて、キースはイワンの唇を奪った。

「ん、んく…」

柔らかな唇を食んで開かせて、ぬるい舌を擦り付ける。
じゅる、と音を立てて舌を吸うと、快感が下半身にまで響くのかイワンの後孔がきゅ、と締まった。
直接雄に感じる刺激が脳をびりびりと痺れさせる。顎を捉えて何度もぐちゃぐちゃに口の中をかきまわしてやれば、イワンのものもすっかり勃起してしまっていた。
唇を離すとイワンは軽く咽て、それからはあはあと呼吸を繰り返した。頬がじんわりと赤く熟れていていやらしいとキースは思う。
ぺたぺたとその頬に触れて、あやすように撫でた後、再びイワンの体の奥を突き上げた。

「ひっ、あ、あっ、!」

膝を折り曲げさせて、深いところまでぐりぐりと抉る。
イワンはぼろぼろと涙を流すけれど、そのすすり泣く声には明らかに快楽の色が含まれていて。
キースはその雫を指で拭ってやりながら、しかし腰の動きは止めなかった。

欲望のままに腰を打ちつけ絶頂へと上り詰めながら、キースぼんやりと先ほどの続きを考えていた。
分からなかったもうひとつの問い。
何がしたかったのだろうか、私は。

自分だけのものにしたかったもかもしれない。
しかし自分のもの、という定義は一体なんなのだろうか。
恋人同士という関係なのだから少なくとも関係的にはイワンはキースのものという認識になるのであろう。ではそれ以上ということか。
それはつまり他人に一切触らせないということなのだろうか。そんなのは無理だと自分でも分かっているし、そんなつもりはないはずなのに。

「ふあ、あっ、きーすさ、っあ、あ…!」

イワンの体ががくがくと跳ねて、今夜何度目かの絶頂を迎えた。
もう既にからっぽになってしまったのか、イワンの勃起していたものはひくひくと震えるばかりでと精せずにくたりと萎えた。

「、っ…、く、はあ…」

イワンの絶頂に引きずられるようにキースも限界を迎える。
キースが再びイワンの中に精を吐き出し、ずるりと引き抜く。溜まっていた精液がごぷりとあふれ出して、ああ掻き出してやらなければ、とキースは思う。
イワンはすっかり体力を消耗してしまっていたのか、そのまま意識を飛ばしてしまったようだ。目尻に涙をうっすらと浮かべたまま、小さく寝息を立て始めていた。

何がしたかったのか。
キースは熱の冷めた体を起こしてイワンの横に座り、そっと頬を撫でる。
この小さな体をぼろぼろに傷つけてまで、いったい何がしたかったのか。結局分からなかった。
あの衝動の治まった今となっては、後悔だけがじわりとキースの体を這いのぼる。

「…すまないね」

ぽつりと呟いてみても当然返事は無い。
イワンが目覚めたら謝って、それから自分が考えていることを素直に話したら許してもらえるだろうか。
醜い嫉妬と、そして分からないことを。

ああ、私はこの子に何がしたかったんだろうか。
その問いの答えは、まだ見つかりそうになかった。






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