ぜったいやだ!




太刀出はイメージプレイとか下手そう感あります。




ことが終わったあと抱きまくらみたいにされるのは嫌いじゃない。むしろ、好き、の部類に入ると思う。
汗ばんだ手がまるでとても大切なものを扱うみたいに優しく抱きしめてくれたり、小さな寝息が首に当たってくすぐったかったり。
その、愛しさの最大限みたいなものを感じながら眠りにつけるのは、酷く贅沢に幸せを堪能していると思うのだ。
でも何故か自分だけぱっちりと目が覚めてしまった時はちょっとだけ面倒に思う。
別に抜け出すことが困難なわけではない。太刀川は眠りが深いほうなのか一度寝入ってしまうとなかなか起きない。だから気をつければそろりと出て行ってまた静かに腕の中に戻ることもできる。
ただ、自分が抜けだして戻ってくる前に目を覚ましていた時が面倒なのだ。出水がいない状態で目を覚ました時の太刀川は酷く機嫌が悪くなる。というか拗ねた子どもみたいになる。実害は特に無いけど面倒くさい。
だからトイレに行きたいとか腹が減ったとか意外では特にそこから動くことはない。のだけれど、如何せん暇である。
二度寝しようにも既に頭は冴えてしまっていて寝付くにも寝付けない。
仕方がないからそろりと手を伸ばして自分の携帯を手に取る。何もないよりは暇を潰せるだろう。
そういえば、とふと思い出す。昨日米屋が教えてくれたサイトがあったっけ。携帯でAVが見れるところ。サンプルだけだけど割といい感じのがたくさんとかなんとか。
別に今むらむらきてるわけじゃない。昨日散々セックスして欲望を吐き出したのだから、今はむしろ賢者モードみたいなものだ。だからただの暇つぶし、今度オカズが必要になった時のための品定め。
イヤホンをは確か鞄の中だ。そっと上半身だけ抜けだして鞄を引っ掴んですぐ戻る。鞄の奥に沈んでいたイヤホンを拾い上げて、鞄はベッド脇に放り投げた。
逸る心を抑えつつ、携帯にイヤホンを差して教えてもらったアドレスへ飛ぶ。と、いかにもそれっぽいちゃちな作りのサイトが開く。ずらりと並んだ女性の痴態。下卑た単語の並ぶ説明文。
その中から適当に好みな感じのものを選んでタップする、と映像が画面に表示される。
普通に可愛い女の子、を適当な言葉で言いくるめてホテルかどこかに連れ込むところから映像は始まった。
騙されたことに気づいてちょっと抵抗する顔がなかなか下肢にくる。しかし抵抗も虚しくなし崩し的に挿入されるところで動画は終わった。
映像は短すぎて勃起には至らないものの、ちょいちょいつまみ見するにはそれなりに興奮する。
次の動画もまた似たようなもの。映像を紹介する文章はどれも稚拙で下卑たものだけれど、その中からなんとなく似たようなものを選んでしまう。

「出水って素人もの好きなんだな」

と、背後から突然声をかけられて出水は思い切りびくんと肩を震わせた。その拍子に携帯をベッドに落としてしまう。
手から離れても依然として流れる映像を停止することもできず、出水はイヤホンを外して恐る恐る太刀川の顔を見上げた。

「た、ちかわさん、起きてたんですか」
「さっきから。なにおまえ朝からAV見てんの」

さっきからというのがどの辺りを指すのかは知らないが、少なくとも出水がそれを見ていたことを知っているのは間違いなく。
頬がじわりと熱くなるのを感じたが、今更弁解もできまい。できるだけ平静を装って携帯を拾い上げる。イヤホンを引っこ抜いて太刀川に献上するように目の前に差し出してみる。男二人だけの部屋に不釣合いな甲高い女の嬌声が小さく響いた。

「え、いや、まあ、暇だったから。太刀川さんも見ます?」
「俺素人ものあんまり興味無いしな。出水はそれ系好きなのか」
「好きっていうか…なんかちょっと無理やりな感じだけどレイプほどきつめじゃないのがこう、クるっていうか」
「ふーん」

なんで太刀川とAVの論議なんかすることになってしまったのか分からないが、とりあえず聞かれたので正直に答える。
それなのに太刀川の返事は不機嫌そうで。出水はくるりと体を反転させて太刀川の方へ向き直る。やっぱりなんだか面白くなさそうな顔。

「…なんで不機嫌そうになるんですか。太刀川さんもAVくらい見るでしょ」
「最近はあんまり見ないなー…なんか前ほど興奮しない」

それってもしや若いのに枯れてきてるのでは、と思ったけれど太刀川の次の言葉に出水は言葉を噤む。

「出水のほうがいいし」

言って出水を押しつぶすように転がる。ちゅ、と額に押し付けられる唇が熱い。
その言葉自体は素直に嬉しいものなのだけれど、その状態は男としてどうなんだろうとも思ったりする。

「あーでもさっきの子はちょっと出水に似ててよかったな」

太刀川の手が出水の手から携帯を奪い取る。
未だ流れている映像には手首を縛られて突き上げられている女の子の姿。
似ている、のだろうか。共通点が髪型と髪色くらいしか見当たらないのだけれど、太刀川から見たら出水もこんな女の子みたいに華奢で柔らかく見えるんだろうか(正直それは贔屓目が入りすぎてると思う)。

「ちょっとだけ、これは興味湧いた」

携帯を揺らしながらにやりと笑みを浮かべる太刀川。妙なことを考えている時の顔。
あ、これはろくなことにならないな、と既に手遅れな状況で(だってもう腕の中に閉じ込められて動けない)半ば人事のように思った。





「ん…」

太刀川の考えることは分かりやすくて単純だ、と出水は思う。
良く言えば素直だが、こういうことをさせたがるのを素直だと褒める気にはならなかった。
むしろ馬鹿かと叩いてやりたいような気持ちでいっぱいだが、今の状態ではそんなことすら許されず。

「出水、痛い?」
「や、別に…」

にやにやと見つめる太刀川の視線の先、出水の両手首は太刀川のベルトによって頭上に縛り上げられていた。
そこまできつく縛られているわけではないけれど、痕が残ったら嫌だなあとか今更なことを思う。正直、本気で抵抗しなかった自分も悪いのだけれど。
太刀川がやりたがったのは先程の動画の再現だった。所謂イメージプレイというやつだ。
不機嫌なままでいられるよりはまあマシかな、とは思って受け入れたものの、太刀川も出水もイメージプレイにのめり込めるほど酔狂ではなかったようで。
なんとなく手首を縛り上げてみたりなんとなく言葉責めをしてみたりしたものの、なんだか微妙な雰囲気が漂ってしまっていた。

「ほら出水、もっと抵抗してみてもいいんだぞ」
「そんなこと言われても…んっ」

抵抗しろと言われても、相手は暴漢でも見知らぬ変態でもなんでもない。目の前にあるのはいつもと変わらぬ愛しい恋人の姿なのだからそんな気も起きない。
体が勝手に愛しいと思って勝手に受け入れてしまうのだから仕方ない。実際既に太刀川のものを受け入れているそこは快感にぐんぐん熱を増していくばかりだ。
しかしまあ、しろと言われたので努力はしてみる。もぞもぞと足を動かして太刀川の体を蹴って押し返そうとしてみる、と太刀川の手がそれを掴んで逆にぐんと引き寄せられる。
太刀川は無理やりなプレイのつもりでそうしたのだろうけれど、太刀川に奥を突かれて気持ちいい以外のことを感じるわけがなく。出水の口からは甘い声だけが漏れた。
いつもなら出水の嬌声に満足するところなのだけれど、今回は太刀川の望んでいたものとは違ったらしく、太刀川は微妙に不満気な表情を浮かべる。

「ん、あっ、あ」
「うーん、俺がサングラスとマスクでもすれば雰囲気出るか?」
「っそれ、絶対笑うから」

そんなの不審者以外のなんでもない。いやプレイの方向的には合っているのかもしれないが、中身が太刀川だと分かっている状態でそんな真似されてもどうしろというのだ。笑うしかない。
いい加減この変なプレイを諦めればいいものを、まだ太刀川は難しい顔をしている。
そろそろこの焦れた状態もきついからなんとかしてほしいのだけれど。中途半端に熱を与えられた体が疼く。
いっそ自分から腰を押し付けて動いてやれば太刀川も余裕を無くすだろうか、そんなことを考えていれば太刀川は何を思ったか自分の携帯を手にとった。

「あ、そうだ」
「ん…?」
「せっかくだし動画でも録ってみるか」

太刀川の軽い提案、しかしその一言に出水はさああ、と血の気が引く感じがした。

「え、それはほんとにやだ」

一人で楽しむ分にはまあまだマシ(良くはないが)だけれど、太刀川の場合酔った勢いで人に見せたり何かの手違いで人の目に触れるところに流出させたりしそうで。それが非常に恐ろしい。
パソコンもまともに扱えない太刀川に自分の痴態が映った動画を持たせておくなんて、小さい子どもにライターで火遊びさせるより危険度は高いのではなかろうか。
太刀川の手から携帯を奪い取りたくても未だ手の拘束は解かれていないままで。こんなところで邪魔になるなんて思ってもみなかった。安請け合いを今更後悔する。

「出水、いい顔見せて」
「っん!あっ、あ、やめ」

出水の僅かな抵抗も虚しく、太刀川は片手で携帯を構えると、もう片方の手で出水の腰を掴んでぐん、と奥を抉った。
待ちかねた激しい律動に、出水の体は否応なしに反応してしまう。
こんな恥ずかしい姿を残されたくなんてないのに、今は快楽に流されてる場合じゃないと分かっているのに、太刀川の性器の気持ちよさを覚えてしまっている体は熱を帯びていくばかりで。どうしようもない。

「んっ、あ、や、やだ、って」
「なんか、出水の嫌がってる顔新鮮で興奮する」

さっきもそれくらい抵抗してくれたらなーとか太刀川は暢気に零すが、先ほどと今では必死度が違うのだ。同じにするなと今度は本気で蹴飛ばしたくなる。
けれど今はそれすらできない。突き上げられる度に脳はびりびり痺れて足先はひくひくと震えて、まともに動かすことすらできない。

「あ、やだ、やだぁ、あっ、あ」

できるのは抵抗の言葉を喘ぎ混じりに吐き出すことだけ。
もう録られているんだろうか、こんなあられもない自分の姿を。せめて顔くらい隠したいのに縛られているせいでそれすらできない。
ああもう、ことが終わったら携帯ごと破壊してやろうか。動画を消すだけじゃ不安だしそもそも自分の気が治まらない。そんなことを考えていれば、

「…出水」
「…っん?」

急に律動が止まる。途中で途切れた快楽の波に物寂しさを感じつつ、太刀川を見上げればまた難しそうな顔。じいっと携帯を睨んでいる。
深刻そうな顔をしているから何を言い出すかと思えば一言。

「…動画の録り方教えてくれ」
「っぶ、ふは、ははっ」

下半身は快感にびくびくと震えていて今にも熱を吐き出しそうな切羽詰まった状況だというのに、余りにも太刀川らしい挫折に吹き出さずにはいられなかった。
流出がどうとか、それ以前の問題だった。予想以上にこの人はだめだった。
しかし今までの行為が録られていなかったと知って、出水は心から安堵の溜め息を零す。

「なあ出水」
「絶対やです」
「…くそ」

にこやかに笑みを浮かべて返してやれば悔しそうな顔。
しかしいつまでもしょんぼりされてても困る。なにせ出水の体は既に出来上がっていてしまっているのに、そこでストップをかけられた状態なのだ。いい加減この状態はきつい。
出水は縛られた手首を浮かせて、項垂れたままの太刀川の首に輪を通すようにして抱きつく。そのまま太刀川の耳にそっと唇を寄せて、

「どーでもいいから、早くイかせて」

と、自分の出来る限りのやらしい声でおねだりをしてみる。掠れた声、甘い囁き。
瞬間、自分の内からの圧迫が強くなって、ああ本当にこの人は分かりやすいな、と思った。







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