あとしまつ




原稿没ったのリサイクル。





ノボリと一緒にお風呂に入るのは好きだ。
終わったあとはいつもくたくたで動けなくなる。そのだるくて力の入らない身体を、少しぬるめのお湯の中で後ろからぎゅっと抱きしめられるのだとか、壊れ物でも扱うみたいに優しく洗ってくれるのだとか。そういう行為が好きでたまらない。
子どもの時に戻ったみたいに甘えて、甘やかされて。上がったらアイス買ってきてねとか洗濯物たたんでねとか、そういうちょっとの我儘を言ってみれば、ノボリははいと頷く(時々調子に乗りすぎて怒られたりもするが)。
それがなんとなく愛しくてたまらない。よく喩えで言われる砂糖菓子みたいに甘い時間というのはこういうものなのかな、と、ぼんやり思ったりするのだ。
でも、それ、の処理だけはあまり好きではない。



「だから、自分でできるってば」
「駄目です」

大の大人が素っ裸で言い合うというのは周りからさぞかし間抜けな光景なんだろうなあと思ったりする。むしろ、ホモの痴話喧嘩か?などとあらぬ嫌疑をかけられること必至であろう。実際似たようなものだが。
いやしかし当の自分たちは至って真面目なのである。例え周りからどれだけ滑稽な様子に見えようとも。
後ろからがっしりと抱えられた腕の中、力無くその腕を押し返しながらクダリは唇を尖らせる。
同じ体格なのだから抜けだそうと思えばできるはずなのだが、如何せん事の後なので力が入らないのだ。

「ぼく、こどもじゃないからできる」
「子どもだとか大人だとかそういう問題ではなく、恋人としての義務です」

恋人、という響きに多少ときめきはするが、しかしやはりなんだかもやもやした不満をクダリは感じる。
女役をすることにも好き勝手されることにも何の不満もない。むしろそれを好んでいるくらいだ。いくらでもめちゃくちゃにしてほしいといつだって思っている。
でも、女扱い、となるとまた話は別であって(その辺の違いが自分でも曖昧なのだからまた難しい)、そういう風に扱われたいわけじゃない、と反発したくなってしまう。
それ、に関しては特に。

「ノボリが中に出すのが悪い」
「あなたが中に出してと強請ったんですからね」
「ノボリだって好きでしょ、中に出すの」
「…否定はしません」

それ、中に出された精液、の処理。
別にそれくらい自分でできるのに、ノボリは決してそれを許さない。
多分ノボリは先ほど言っていたように恋人に対しての義務とか責任みたいなものと考えているのだろう。女扱いどうこうとは全く関係なくて。
しかしクダリはどうしてだかそれが、自分がかよわい女のように扱われているような気がしてならないのだ。
いつもそこを触られたくって女みたいに突っ込まれて。それを悦んでいる自分がいるのに、それだけを不満に感じるというのも酷く不自然で理解不能だとは自分でも理解しているが、それでも。

「ですからちゃんと責任をもって掻きだしてあげると言っているのでしょう」

そして絶対にノボリが譲らないのも知ってしまっている。
何故ならこのいい争いは何度も繰り返されてきて、その度にクダリが勝てたことなど一度も無いからだ。何故なら、

「ほら、すぐ済みますから大人しくしててください」
「う、ぅー‥」

抵抗する気力なんて残っていないクダリには、結局ノボリの言うことに従う以外選択肢は無いからだ。
押し返す手から力を抜けば、ぐるりと体を反転させられてノボリの膝を跨いで向き合う形になる。
それからぎゅうと胸の中に抱きしめられて、尻に手を添えられて。それから軽く持ち上げられると、ノボリの指が後孔へと這ってくる。そのまま何の躊躇もなくぬるりと挿入された。

「ん、う…」

急な挿入に今更痛みを感じるはずもない。何せ先ほどまでもっと大きなものを咥えこんでいたので。
ノボリの指がぐるりぐるりと円を描くように動く。後孔をゆっくりと解すように。その緩やかな刺激にも既に慣れてしまっているはず、なのだけれど。

「っは、んぅ、ぁ…」

じわじわと背中を走る淡い快感。クダリは甘い声が漏れそうになるのを必死に堪える。
それの処理が苦手な理由のもう一つが、それ。
嫌だ、と思っているとそれに反比例するように体が敏感に反応してしまうことである。
嫌がっているくせに体は正直じゃないか、なんて、どこぞの陳腐なAVじゃあるまいし。とは思うけれど体が勝手に感じてしまうのだから仕方ない。
それをノボリに知られたくなくて、いつも必死に声を抑える。のだけれど。

「知っていますか?クダリ」
「なに、を?」
「あなたこの時が一番いい声を出すんですよ」

その言葉にクダリは頬がかっと熱くなる。
バレていた、いやどこまでバレているのか(嫌だと思っているのに感じてしまうこともなのか、それともこの行為で感じていると思っているだけか)は分からないけれど、いずれにせよクダリにとってそれは酷く恥ずかしいことであって。
ふにゃふにゃと力の入らない腕でノボリの胸を押し返し、酷く今更な抵抗をする。けれどもやはり無意味で、クダリは羞恥に頬を染めたままノボリを睨みつけてみる、しかしそこにあるのは楽しそうなノボリの顔。

「ばか、へんたい、悪趣味」
「何とでも」

悪態を吐いてみるけれど、やはりノボリは愉快そうに笑うだけ。後ろを弄る手は止めないまま。

「さいてー、むっつり、っひ、あっ」

後ろを触ってくる手とは反対の手が、いつの間にか勃ち起あがっていた性器にひたりと触れてきてクダリは思わず喉から漏れる甘い声を抑えることができなかった。
ノボリのそれも同じように熱く固くなっていて。お互いの性器を擦り合わせるようにして包み込み扱いてくる。
先走りのぬるぬるとした感触、先端に触れるノボリの熱い指。

「や、それ、やだって、」
「でももうこんな状態ですし、出さないとすっきりしないでしょう。お互いに」

そう言ってきゅ、と強く握ってはまた扱いて、ふたつ合わさった性器を徐々に絶頂へと高めていく。
ノボリの方も既に限界が近くなっているのか、擦る手に容赦はない。
ああ目の前がちかちかする。
羞恥と快感をこらえながら、でももう限界で、ノボリの背中に爪をたてればお返しと言わんばかりに首筋に噛み付かれて。その、びりりとした淡い痛みに全身が震えて。

「う、うぅー…、はあっ、ぁ」

ふわんと意識が浮くような感覚。ぼやけた意識の中で、電撃のような快感が頭のてっぺんから足の先までを走る。
そして下半身の熱が抜けていく感覚。前からも、そして後ろからも。
その、ぬるい温度が体から少しずつ漏れていく感覚がなんだか生々しくて、何故だか異様に恥ずかしくて、はあはあと未だ整わぬ息でクダリは再び悪態を吐いた。

「ノボリのむっつり変態ばか兄…」
「それは先程も聞きました」

どろ、と二人分の精液で汚れた手をお湯でさっさと洗い流してしまって、もうそれこそくったりと力の抜けてしまったクダリの体をもう一度抱きしめなおしてやる。
悔しいけれどこの優しく抱かれる感覚には勝てない。クダリはノボリにそのまま体を預けてしまって。
そのくたびれた体をぽんぽんとノボリは叩いてやる。

「ほら、体洗ってあげますから、ゆっくりしていてください」
「ん…」

なんだかんだ言って、結局こういう風に甘やかされるのが、好きで。たまらなく好きで。
クダリは結局文句を言うことなんて放棄してしまって、すっかりその腕の中に大人しく収まったままになってしまうのだ。

「ねー、お風呂上がったらなんか冷たいジュース飲みたい」
「はいはい、買ってきますから」
「はあい」

もこもこに泡立てたスポンジが優しく体を撫でていって、気持ちいい。
耳をくすぐる優しい言葉も。
砂糖菓子みたいに甘い言葉、時間。
いつか、嫌だって思うそれ、の処理も好きになれる日がくればいいなあ、なんてぼんやり思ったりするのだ。少しだけ。







理由:ゲークダなら自分で足おっぴろげて
「こんなにいっぱい出したんだから自分で掻きだしてね?」
とか言いそうだったので。
途中で放ったやつを無理やりまとめたのですごい尻切れトンボ感。




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