カロス旅行記





クダノボ二人共女装してます振り袖ックスですご注意ください。


地上を走る電車に乗るのは酷く久しぶりな気がする。
流れていく景色。真っ暗な地下鉄の窓とは違う色とりどりの風景。見慣れない全て。それらを眺めながら、ぼんやりとノボリは思った。
随分長い間揺られていた気がする。出るときには綺麗に青かった空が、既に夕焼けに染まり始めていた。

「ね、もうすぐ着くみたい」

ノボリの隣でそわそわと、窓とノボリを交互に見ながらクダリは目を輝かせて言う。
いかにも待ちきれないといった様子で、パンフレットを丸めたりまた読んだり外を見たり、落ち着きが無い。
まるで子どものようだなあと苦笑しつつもノボリとて今日を楽しみにしていたのは同じであり。
長い休暇も、旅行もいつぶりだろうか。こんなにゆっくりと時間を過ごせるのも随分と久しい。
だからこんな風にはしゃぐクダリを見ているだけでも楽しいものだ。
そんなことをしていれば電車はゆっくりと速度を落とし、目的の場所へと止まった。

「着いた!」

小走りで改札を出るクダリの背中をノボリは早歩きで追いかける。
逸る気持ちはノボリも同じだが、クダリのようには上手くはしゃげないのがノボリなのである。
駅から出たノボリを待っていたのは、ずらりと並ぶ大きな建物ときらびやかに光る町並み。

「ここがミアレシティ…!」

予想以上の大きな街。初めて見る光景。
ライモンやヒウンも大きい街であるがそれ以上だ。何より向こうでは見たことのない建物がたくさんある。町並みも非常に華やかだ。
そして、真ん中に大きくそびえ立つ煌めく建物。見上げながら思わずノボリは息を飲んだ。

「ブラボー!綺麗ですね…」
「あれプリズムタワー!」

先ほどのパンフレットで既に予習済みだったらしく、クダリが得意げに紹介する。
しかし、やはり本で見るのと実際に目にするのとは全く感動が違うもので。クダリも目を輝かせながらそれを見上げている。
ふと周りを見てみれば、ツアー客らしき恋人たちも同じようにそれを見上げていた。うっとりと寄り添いながら。
なんだか妙に気恥ずかしくなって、ノボリはクダリに声をかける。

「とりあえず夕食にしたいですね」
「うん!ぼく行きたいお店ここ!バトルしながらごはん食べられる」

パンフレットを開いてクダリは丸印を付けた箇所を指さす。他の店よりもだいぶ目立つように大きく写真が載せられた店。
黒色の建物に三ツ星の看板。いかにも、といった佇まいである。

「なんだかとても高級そうな…」
「いいの!せっかくなんだしすごいとこ行きたい」

渋るノボリの手を引いてクダリはさっさと歩き出す。
仕事中は何でもきちっと決められるくせに、こういう時は非常に優柔不断なのをクダリは知っているのだ。



駅から数分ほど。思っていたよりも近くに目的の建物はあって。
掲げられた三つ星の看板は写真よりもなんだか重々しいオーラを放っている。ノボリは思わず足を止めた。
が、クダリはやはりというかそんなもの気にもせず。早く、とノボリを急かしながらさっさと中へと入ってしまった。全く肝の据わった弟だ、ふうとため息を吐いてノボリもその後を追う。
と、ちょっとしょんぼりした顔のクダリ。先程まではあんなににこにこしていたのに。

「どうしました?」
「ね、ね、ノボリ。ここのコースダブルとトリプルとローテだけだって」

ノボリとマルチしたかったなあ、とクダリは珍しく顔を曇らせる。

「そうなんですね…」

少しだけ残念そうにノボリも呟く。
そんなノボリをちらりと横目で見やって、クダリはぱっと何か思いついたように大きく手を挙げた。

「あ、じゃあダブルのコースお願い!」
「承知いたしました。お席までご案内いたします」

楚々と前を歩くウエイトレスを追いかけながら、クダリはノボリの袖をそっと引いて囁く。

「ね、ここはぼくが頑張るからノボリは見てて」

案内された席に、ノボリだけを座らせてクダリはコートの襟をきゅっと正す。
なるほど確かによく考えずともダブルバトルはクダリの専門分野である。
二人で戦えないのは非常に残念であるが、しかしここは弟の勇姿を見守るというのも悪くないだろう。

「ではわたくしはあなたの活躍を見ておりますので」
「うん!」

ぼくに任せて、と言わんばかりにクダリは胸を張る。
いつも一緒に戦っているとはいえ、クダリが一人で戦うところをノボリに見てもらう、というのはとても新鮮なことなのだ。
クダリとてノボリと一緒に戦いたかったのは事実だが、ここは自分の強い所を見せつけるチャンスではないか。ボールを確認。全て調子は良いようだ。準備オッケー。
クダリは帽子のつばをきゅ、とつまんで、奥からやってきたオーナーへと向きなおる。

「ぼく、クダリ。ノボリのためにすっごい勝負はじめる」



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「さすがクダリでございます、全て食べ頃の時間でしたね」
「当然!」

ふう、と満足そうに息を吐きながら二人は店を後にした。
結果はまあ当然のごとく全勝である。しかも全て指定されたターン通りに。
美味しい料理も食べることができたし、ノボリに自分の勇姿を見せることもできた。
そしてノボリにお褒めの言葉まで貰ってクダリは嬉しそうにはにかむ。
腹の皮が張れば目の皮が弛む。今日は長旅で疲れているから余計に。ノボリは小さくあくびをする。

「ノボリ、眠い?」
「ええ、少し」

仕事では一日二日の徹夜くらいは余裕なのだが、慣れない土地に来るとどっと疲れが来るのは不思議だ。

「じゃあノボリ先にホテル行ってて!この近く!ぼくちょっと買い物したい」
「あまり遅くなってはだめですよ」
「うん、大丈夫!」

まだ遊び足りない、と言わんばかりにクダリはパンフレットを見ながらきょろきょろとあたりを見回す。
見知らぬ土地で迷子になったりはしないか、と少し不安にもなったがまあクダリだっていい大人だ。そこまで心配する必要はないだろう。
笑顔で走り去るクダリの後ろ姿を眺めながら、ああ若いなあなんて思ってみたりした。同じ年なのだけれど。



案内された部屋は最上階の大きな部屋であった。
少し暗めの照明、大きな窓からは綺麗な夜景が見える。着いた時に見えたプリズムタワーも。
とりあえず先に汗を流したいと思って風呂に入ってみればこちらもまた広くて綺麗で驚いた。
何もかもが豪華で、全くクダリときたらどれだけ贅沢なプランをたてたのだろうかと思わずため息を吐いてしまう。すっかり満喫している自分も自分だが。
ルームサービスで頼んだワインをちびちびと飲みながら、ノボリは夜景を眺める。ああ本当に贅沢な気分だ。
そういえばクダリはまだ帰ってこないのだろうか、あまり遅くならないようにと言ったのに。
そろそろ連絡を入れておかなければ、とライブキャスターを手に取ってみれば、

「ノボリ!ただいま!」

見計らったようなタイミングで部屋へ入ってくるクダリの姿。
手にはたくさんの袋を抱えている。いったいどれくらい買い物をしたのだろうか。

「おかえりなさいまし、こんな時間までどこに行っていたんです?」
「ないしょ!ノボリもうお風呂入った?」
「ええ」
「じゃあぼくも入ってくる」

言うとクダリは荷物の中からひょいとひとつだけ袋を取って、風呂場へと向かった。
ノボリはちら、とクダリが買ってきた大量の荷物を見る。内緒、とは、いったい何を買ってきたのだろうか。
気にはなるがしかし、人のものを勝手に漁るというのは兄弟でも超えてはいけないラインであろう。
なんとなく嫌な予感がしつつも、再びノボリはソファに腰を下ろしぼんやりと夜景を眺めた。



「ノボリ!上がった!」
「おや、早かったです、ね…」

パタパタとこちらへ向かってくる足音、とクダリの声。
反射的に声のする方へ視線をやれば、想像もしていなかったものがノボリの視界に入って、思わず持っていたパンフレットをぱさりと落とした。

「…なんですか、それは」
「かわいい?」

可愛い、と聞かれたらそれはもちろん可愛らしいのだが、先に質問したのはノボリだ。全く解答になっていない。
まあしかし何か、と聞かなくても見れば分かるのだが。
先ほど街でちらりと見かけた女性が着ていた記憶がある。確かこれは振り袖というものだ。
ノボリの目の前に現れたのは、その振り袖を身に纏ったクダリで。
黒い襟と帯、それ以外は真っ白で、袖の部分には可愛らしいリボンが付いている。
しかしやはり身長に丈が足りていないのか、ややもすれば下着が見えそうな短さになっている。まあ見えたところで男物の見慣れたものが覗くのは分かっているのだが。
もはやなんと返していいのか分からなくなってノボリは頭を抱える。

「ノボリのもある!白と黒でお揃い」

どうやら嫌な予感は的中していたようだ。ノボリは僅かな目眩を覚えた。
がさごそと荷物を漁って取り出したるは黒色の振り袖。

「どこで買ったんですか、そんなもの…」
「おっきな服屋さん。オーダーメイドらしいけどキャンセル出たやつ特別に売ってもらった」
「何故ですか」
「ノボリと一緒に着たいなあと思って」

ああなんだか頭痛までしてきた。
いい年してお揃いの洋服というものはまあ良しとしよう、どうせいつも着ている制服だってお揃いのようなものだ。
しかし何故そこで振り袖をお揃いで着たいという思考に至るのか、分からない。クダリのことが分からないと思うことは今までにも度々あったがここまで分からないと思ったのは久しぶりだ。

「わたくしは絶対着ませんからね」
「えー、ノボリとお揃いだと思ってせっかく買ったのに」
「嫌です」
「いい思い出になるかなって…」

まるで捨てられた仔猫のような目。クダリは黒い振り袖を持ったままじいっとノボリを見つめてくる。
この目は危険だ。何かお願いごとをしたい時にしてくる目。クダリの常套手段。
分かってはいるのだが、目を逸らすことができない。

「どうしてもだめ?」

そしてダメ押しの言葉。ノボリは全てを諦めることにした。



「…どうしてこんなことに」

泣く子と弟には勝てないのがノボリである。
数分後、そこには黒い振り袖を着せられたノボリの姿があった。
襟と帯は赤色、そして同じようにリボンがついた黒色の振り袖。大体クダリのものと同じようなデザインだ。
クダリのものよりは若干裾は長めだが、しかしそれでも落ち着かない。
それに大きく違うのが、二の腕の部分が無いデザインということである。腋から二の腕にかけてが大きく開いていてなんだか非常に恥ずかしい。
どうしていい歳をしてこんな格好をしなければならないのか。ノボリは長く重いため息を吐いた。

「ノボリ、かわいい!」

満足そうにノボリはクダリに抱きつく。
一体これのどこが可愛いのかと反論する気力もない。もう無の状態である。
しかしそんな放心状態のノボリにはお構いなしに、クダリはちゅ、とノボリの唇に軽くキスをする。
そしてそのままもつれ込むようにして先ほどノボリが座っていたソファへと押し倒した。
そこでやっとノボリは我に返る。

「は?まさかあなたこのまま、」
「するつもりだよ?」

あっけらかんとクダリは答える。
冗談ではない、この姿でいるだけでも恥ずかしいというのにこれ以上の辱めを受けろというのか。一体何の罰ゲームだ。
慌ててその腕の中から抜けだそうとするが、既にがっしりと抑えこまれていて抗えない。

「記念だってば、記念」
「冗談も大概に、っ、ぁ」

抵抗の言葉は漏れた吐息によってかき消された。
普段ならそんなところから侵入してこれるはずのない箇所。がばりと大きく開いた振り袖の腋下の隙間。
そこからもぞもぞと胸のあたりにまで手を突っ込んで、楽しそうにしかし興奮の色を含みながらクダリは目を輝かせる。

「わ、これすっごくやらしい」

胸回りで大きく手を動かして胸元の合わせ目がいやらしく揺れるのを眺めてみたり、腋の下あたりから胸のあたりまでをゆっくりと撫で回してみたり。
反応といえば新しいおもちゃを見つけた子どものそれだがしかし、やっていることは酷く卑猥なことで。
クダリの手が素肌を滑っていくその度にノボリは体を震わせる。抵抗する力も抜けていく。
恥ずかしさも相まっていつもより快感が増しているのが分かって、なんだか酷い心地だ。自己嫌悪と快楽欲求が入り混じったなんとも言えない、この。

「っ、くだ、り」
「ね、ノボリもきもちよくなってきた?」

はあ、と興奮した息を漏らして、もう一度クダリはノボリの唇を塞ぐ。今度は舌を絡めながら、味わうようにゆっくりと。
こうしてしまえば抗う声も曖昧な拒否も何もかも飲み込んでしまえる。響くのはくぐもった声と唾液の音だけ。
クダリがゆるゆるとノボリの頬を包み込むように撫でれば、それに呼応するようにクダリの頬へ手を伸ばしてしまうのは仕方のないことだ。奪い合うようなキス。
キスをしている間だけはなんだか何もかもどうでもよくなってしまうのは、脳内の酸素が少なくなって思考がとろけてしまっているからなのだろうか。
ゆるゆると、抵抗する気力を奪われながらぼんやりとノボリは思う。

「ふは、っ、ノボリ」
「っ、は…、っあ、」

唇を離すと、甘えるように首元に頭を擦り寄せながら、既に反応し始めていたノボリの性器を擦ってくる。
クダリのこの、猫のような仕草は好きだ。頭を撫でてやれば、クダリは嬉しそうに笑って首もとを食んだ。

「ね、こんな綺麗な夜景見ながらって、すごいロマンチック」
「…こんな格好で、ロマンもなにも」
「そう?」

しかし確かに、薄暗い部屋の中、街のぼやけた明かりに照らされるクダリの振り袖姿は妙に妖艶で。見上げていればどくりと妙な興奮が己の中を走る。
クダリの目には自分の姿もこんな風に映っているのだろうか。そう考えると、ノボリはまた何か酷い恥ずかしさを感じた。
でももう今さら拒む気もさらさら、無くなってしまっていて。

「下、脱がすね」

だから、するりと裾から入ってくるクダリの手を押し返すなんて考えるはずもなく。むしろ脱がしやすいようにそっと腰を浮かせてやる。
勃ち起がり始めた自分の性器が振り袖を押し上げているのがなんだか非常にいやらしく見えて、思わず目を逸らした。
あ、とクダリは思い出したように買ってきていた荷物の山を引き寄せる。そこから取り出したるはローションで。
そんなものまで買っていたのかと今更突っ込むのも面倒である。ノボリはただ小さくため息を吐くのみであった。

「ノボリ、ここ持ってて」
「はあ…、」

振り袖の裾を捲られて、持たされて。そのまま膝裏を押されて足を開かされて。
別にこんな行為くらい何度だってしてきたことだ。けれど、服装が違うだけでこんなに羞恥を抱くものなのかとノボリは裾を握りしめ熱っぽく息を吐く。少しでも力を抜くために。
そしてぬるりと窄まりへ這ってくるクダリの指。

「ぁ、っく…、は、ぁっ」

興奮で急いているのか、クダリの指はいつもよりも性急で。
早くここに入りたい、と言わんばかりにぐるぐると指を動かしノボリのそこを広げていく。
今更痛みはない、けれど体の奥まで鈍い快感がじんじんと響いて、たまらない。自然と息が荒くなる。頬が、頭が熱くなる。
そしてまた性急に指が引きぬかれて。急な喪失感に思わずクダリを見上げれば、同じように熱い息を吐いて興奮に酔ったようなクダリの顔。

「ノボリ、すっごい…、えっち」
「あなたが、させたんでしょう…っ」

誰が弟をこんな変態にしてしまったのか。…自分か。思い当たるのが自分しかいない。
Noと言って断れない自分が全て悪いのだ。ああ自分のせいでクダリは女装で興奮するような変態に、と思うとちょっと泣きたくなってくる。
しかしこの状態では人のことなど言えない。振り袖の裾を自ら持ち上げ、勃起した性器を露出させてクダリのそれを待ち望んでいるというこんなどうしようもない状態では。

「ノボリ、」

挿入する前にキスをせがむのはいつもの癖だ。
軽いキスをしてやれば、クダリは満足そうに白い振り袖をたくし上げ自らの勃起した性器を露出させた。
その、振り袖の下から勃起した性器が覗くのが卑猥で、妖しくて。酷く劣情を煽られて。
ああついに自分まで変態になってしまったのか、とノボリは今更ながらの諦めの感情を抱いた。

「っく、…ぁあ、は、はあっ」

ひた、とクダリの性器が押し当てられる感覚に小さく息を呑む。
そしてゆっくりと、いやいつもよりは急いて侵入してくるそれに合わせるようにノボリは息を吐いた。
クダリが喜ぶのなら、とちゃんと裾は掴んだまま。内壁を擦ってくる快感に指は震えるがそれでも。
お互いの下生えがざり、と触れ合って、ああ最奥まで辿り着いたのか、と既に蕩け始めた頭で思う。
クダリもそれを確かめるように緩くそこを突いて、それからゆっくりと引き抜き今度はぐ、と揺さぶるように奥を穿った。

「はあっ…、あ、くだり、っ」
「はっ、ノボリ、すき、」

一度抽挿を開始してしまえば止まらなくなるのは必然。
後はただ快楽を求めるのみで、徐々に律動を速めていく。高級そうなソファがギシギシと音を立てる。

「ふあ、クダリ、くだ、ぁ、あっ」

もはや脳は考えることなど放棄していて。
しどけなく開かれた口から漏れるのは甘い声とクダリの名前だけ。
結局快楽の前には人はどうしようもなくなってしまうのだ。今はこの羞恥ですら快楽を煽る一因でしかない。
迫り来る射精感に足先がひくひくと震える。

「ノボリ、ぃ、はぁ」
「っん‥、ぁ、あ、はあっ…、っ」

クダリもそれは同じのようで、泣きそうな声(限界になるとこうなるのはクダリの癖だ)で名前を呼ばれ頬をぺろりと舐められる。
片手を伸ばしてノボリからも頬にキスを返してやると、思い切り奥を抉られて、思わず目を瞑った。
瞼の裏にちかちかと星が飛ぶ。

「は、…はぁ、…」

どろりと熱が抜けていく感覚。そして腹の中に同じような熱が吐出される感覚。
くったりと力の抜けたクダリを受け止めて、そして自らもソファに体を沈める。
着ていた振り袖はというと、お互いの精液でどろどろで。ああ、もうなんだかどうしようもない。
とりあえず早く脱いでしまいたいのだけれど、もはや動く気力すらない。そもそもクダリが自分の上に乗ったままなので抜けだそうにも抜け出せない。
仕方がないのでとりあえずクダリの頭を撫でてみる。

「ね、またこれ着てしよ」

と、甘えた声で誘うクダリ。
ああやはりこうしていればとてもかわいらしい弟だ。すりすりと頬を擦り寄せてくるのは昔から変わらない。
こういう仕草にいつもほだされてきてしまったのだ。いつも。
だが、今回だけは。

「絶対嫌でございます」

ここは甘やかすべきではない、きっと。そして何よりもう自分がしたくはない。
顔を見たら許してしまいそうな自分がいたので、顔を伏せながらやっとノボリはNoの言葉を発することができたのだった。

かくしてカロス旅行一日目は(ノボリにとって)割と黒歴史な日となり幕を閉じた。




(ミアレしか観光してない)




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