万有引力




だってもともとはひとつのはずだったんだから、悪いことなわけない。
ふたつにわかれてしまったものがひとつに戻ろうとする、それはきっと自然なこと。誰に怒られる謂れもない。
昔の偉い人だって、言ってた。

(命あるものは全て、それぞれの性質に応じて本来の位置というものをもっていて、一時的にそこから離れることはあっても、結局はそこへ帰ろうとするものだ)





暗いところは嫌いじゃない。地下鉄の線路、路地裏、真夜中のベッドの上。
本能的に暗闇を恐れる感じ(人間がまだ火を扱えなかった時代の名残らしい)と闇の中に何が潜んでるのかっていう未知への欲求。
言葉では上手に表せないけど暗いところって人の本能を刺激する何かがあると思う。恐れるようででも知りたくて手を伸ばす、そんな。
だから、こうやってお互いに手を伸ばして探り合うのかなって、今も。

「ん、やぁ、あっ、ノボリ」

探るっていうよりも抉るって言ったほうがいいかもしれないノボリの指の動き、そして探るっていうよりただ掴むことしかできないぼくの手。ノボリの指が動く度にぼくの手もがくがくと震える。
全然いやなんかじゃないのに、やだっていう声が漏れて、でもそんなのただの反射的な声だってノボリは分かってるからぎゅうぎゅうに埋め込んだ指を動かすのをやめない。代わりにあやすようなキスをくれる。
でもそれじゃ足りなくて。優しいキスも好きだけど今は持っと激しいのが欲しい。下の方と同じくらい口の中もかき回して欲しい。
そう思って舌を出して自分からもっと、とねだったらノボリはちゃんと応えてくれた。こういう風にねだった時、興奮でゆらってノボリの瞳が一瞬揺れるのが、好き。
ぼくもノボリも落ち着きなくキスをするから、すぐに口の周りが唾液でべたべたになってしまう。でも、これも好き。

「んん、ふ…ぅ、はっ、はぁっ」
「…は、クダリ…」
「ぁ、ねえっ、ノボリ、ぼく」
「ほしいですか?」

ノボリは指でとんとんと奥を叩く。すごく気持ちいいけれど、もうそれじゃ物足りない。
ほしい、ほしいって必死で首を縦に振るぼくの顔は今酷いことになってるんだろうなあと思う。涙でぐしゃぐしゃで、口の端から涎が垂れてるのも自分で分かって、かゆい。
でもそんな顔見せるのなんてもう今さらだし、ノボリはこの顔に興奮するとか言ってるし(ちょっと変態だと思った)、もう別に構わない。だからおやつを欲しがる子どもみたいにはやく、ってノボリにねだった。

「分かってますから」

ぐじゅ、とかすごいやらしい音がして、下半身の圧迫感が一気に無くなる。だけどまだ熱くて、じくじく急かすみたいにそこが疼いて。我ながらどうしようもないなって。
はあはあと息を整えながらノボリを見上げれば嫌でも自分の勃ちあがった性器が目に入った。ノボリのは好きなのに、なんでこう同じようなものに嫌悪感を覚えるのか今でもふしぎ。
シャツを脱ぎ捨てて、ベルトを外して。ようやくノボリがぼくの上にのしかかってくる。お待たせしてすみません、とぼくの涙を舌で舐めとって、太ももに手をかける。
ノボリの固くなった性器がひたりとぼくのそこに触れて、期待でひくひくと震えるのが自分で分かった。焦れったくて仕方なくてノボリの肩をぎゅっと掴む。

「触れただけですのに、吸い込まれそうですね」
「分かってるなら、はやく、ぅ…」
「はいはい」

自分だって興奮でぱんぱんにしてるくせに。余裕ぶった口調でノボリは言う。でもそれも嫌いじゃない。
ぐ、と足を開かれて、触れるだけだったその熱いものが既にぐずぐずに溶けたそこを拡げながら中へと入り込んできた。

「ひぅ、う、んく…」

この、ノボリのものが奥まで入ってくる瞬間が一番好き。
そういうことをする器官じゃないのに、ノボリの性器を受け入れるためだけにできてるみたいだっていつも思う。それくらいノボリのそれはぼくのここに綺麗に馴染む。
でも、このときのノボリの顔はあんまり好きじゃない。
いつも、目を閉じてたから知らなかった、最近知ったこと。今日も薄目を開けてちらりと確認する。ああやっぱり。

「ノボリ、っあ、ああっ」

ぼくの中に性器を押しこむ時、ノボリはいつも悲しそうな苦しそうな、何かを噛み殺すような顔をするのだ。

「っふ、もう、少し…」
「ぁ、あっ、ノボリ、ぃ」
「はぁ、クダリ…」

ゆっくりと腰を進めていくのがもどかしくて、でも気持ちいい。
奥まで進んでしまえばノボリの顔からさっきの表情は消えていて、また熱に浮かされたようなとろんとした顔。ああ、その顔は好き。もう一度ぼくはキスをねだる。
とろとろに溶かされるようなキスの中、ぼんやりと思い出す。いつだか忘れたけど、最初に繋がった時ノボリはとても後悔した顔をしていた。
あの時ノボリが抱え込んでいた感情、あの時はまだよく分からなかったけど、今ならちょっとだけ分かる気がする。

「っ、ね、ノボリ」
「なん…、ですか」
「ぼく、っ、こうしてるのが、いちばん、しあわせ、」

ノボリはまじめだから、優しいから、きっとこうなっちゃいけないんだろうなって思ってたんでしょ。
肉親で、しかも双子で愛しあうってことがどれだけおかしいのかってことくらいぼくでも分かる。でもぼくはノボリほどまじめじゃないからそんなのどうでもいいんだ。
だってぼくたちはひとつになりたがってるから、お互いに。そう思ってるからもうどうしようもないって、それだけしかぼくには考えられない。
でもそれを上手に全部伝えられる気はしなくて、そもそも今長ったらしい言葉なんて紡げる気がしなくて、だからそれだけ口にした。

「わたくしもです、クダリ」

ちゃんと分かってくれたかな。ぼくは言葉が拙いから少し不安。
でもそれを確かめる余裕なんてなかった。ノボリがぼくの腰を掴んで一気に奥を突き上げてきたから。ずくんと最奥のいいところを突かれる気持ちよさで視界も意識もぐらぐらする。気が遠くなってしまいそう。

「あっ、やら、いきなり、はげしっ」
「あなたが煽るからでしょう…っ」

ベッドのスプリングが軋む音も、ぐじゅぐじゅいう水音も酷い。でも一番酷いのはきっとぼくの呼吸の音、と声。
漏れる声も暴れだしてしまいそうなほどの快感も抑えるすべが見つからなくて、とりあえずぎゅっとシーツを掴んだ。そしたらすぐにノボリがぎゅっと手を重ねてくる。あつい。

「あ、いく、いきたい、ノボリっ」
「クダリ…」

どうぞ、と急かすようにノボリがもっと奥まで入ってきて。そのまま我慢できずにううう、とか情けない声を出してイってしまう。
一気に開放された快感で頭がふらふらする。意識がまっしろでなんにも考えられないからとりあえず荒い呼吸を繰り返す。
じんと痺れたそこからずるりとノボリが出て行くのが分かって、同時にそこからどろっとしたのが流れていくのも感じて、ああノボリもイったんだなって思った。
身体が全然動かせない。ここまでノボリが激しいのは久々だなあって働かない頭で考えながら、薄目でノボリを見上げた。

「愛していますよ、クダリ」

降ってくるキスはやっぱり優しい。でもやっぱりそれはいつか見た顔で。

ぼくたちはもともとひとつだったんだから、ひとつに戻ろうとしてなにが悪いのって、思う。
だからそんな顔しないでよ、そんな泣きそうな顔しながらキスしないで。




割り切れないノボリさんと開き直ってるクダリちゃん。
()内はwikiから引っ張ってきました。




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