本日も遅くまでお疲れ様です




趣味は仕事にするべきではないとはよく言ったものである。

日付の変わってしまった真夜中でも華やかに明るいライモンシティ。そのチカチカとした明かりに僅かな頭痛を覚えながらノボリは小さくため息を吐いた。
幼い頃からポケモンバトルも鉄道も好きであったノボリにとって、その両方に関わる仕事をできているというのは非常にありがたいことなのだと思う。
しかしこうも毎日終わりの見えない残業やら何やらに追われ、ぐったりと帰路につく日々が続けば嫌気がさしてきてしまうのも致し方ないものではなかろうか。
もう自分も若くはない歳なのだ。体力の限界を感じてしまうものである。
まあそれでも。ノボリは身につけているモンスターボールをそっと撫でた。
電車に触れて生きていく時間を、そして何よりこの愛するポケモンたちと共に戦い過ごす日々を失うなんていうこともまた考えられないことであり。
結局自分はこの仕事なしには生きていけないのだと、寒空を見上げながら毎日のように思うのだ。



「あ、おかえりノボリ」

体の芯まで凍てつくような寒さに耐えて家に帰り着けば、暖かな空気とそして嬉しそうに笑うクダリがノボリを迎えた。
ぱたぱたと温かそうなスリッパを鳴らしながら寄ってきて、冷えきってしまっているノボリのコートを脱がしながらきゅうと抱きつく。
まるでトレーナーの帰りを待つポケモンのようだなあと思いながら、ノボリはクダリの頭をそっと撫でた。まだ風呂から上がって間もないのか、少しだけしっとりと湿った髪。

「まだ起きていたのですか、あなた今日早番だったんでしょう」
「うん、でもぼく明日休み。だからノボリのこと待ってた」

風邪を引かせてしまってはいけないと、ノボリはクダリに抱きつかれたままそれを引きずるようにリビングへ向かう。外よりはずいぶん暖かいとはいえ、玄関だって冷えているのだ。
コートは脱ぎ散らかしてしまったがまあそれは後回しでいい。なにせクダリはノボリに抱きついたまま離れようとしないので。このような時のクダリはもうどうすることもできず。
仕方がないのでそのままソファに二人でもつれこむように座って、それからクダリをぎゅうと抱きしめ返してやる。ほんのりと柔らかなシャンプーの匂い。

「今日はずいぶん甘えたでございますね」
「だって最近ノボリずっと遅いから、さみしくて」
「せめて手洗いうがいくらいはさせてほしいのですが」
「んーもうちょっとだけ、充電」

そう言ってもやはりクダリは離れてくれず、いやいやと首を振りながらノボリの胸に顔を押し付ける。
全くどうしようもなく我儘な弟だ。しかしそれを甘やかしてしまう自分もまたどうしようもない兄だ。
愛しさと呆れの両方を胸に抱えながらノボリは小さく笑った。
ノボリ、ノボリ、と小さく何度も名前を呼んでくるクダリに、その度はい、はい、と適当な相槌を打ちながら点けっぱなしになっていたテレビをぼんやりと眺める。ああ明日もまた寒いらしい。
とりあえずこの子は明日休みらしいから風邪を引かせることはなさそうだ、と過保護なことを考えつつ、名前を呼ぶ声にはい、とまた相槌を打つ。
こういう穏やかなじゃれあいの時間を疎ましいと思うはずもなかった。例えどれだけ疲れていようとも。
だってクダリがノボリのことを寂しいと愛しいと思うのと同じように、ノボリだってクダリのことが愛しくて仕方なくて触れたいと思っていたのだから。

「あ、そうだ」

そんなことをぼんやり考えていたら、急に顔をあげたクダリに驚いてしまうことになった。
わ、と小さく声を漏らしたノボリにしかしクダリは気づかず、にこにこと言葉を繋ぐ。

「ご飯作ってあるよ、今日頑張って作った」
「それは楽しみです」

クダリの作る料理は贔屓目を除いて見ても美味しいものだと思う。
暇さえあればレシピの本などを見ながら凝った料理を作るのだから、そのへんの女性よりもよほど上手なのではなかろうか、と一人心の中でのろけてみたりする。
しかしその頑張った料理とやらが最優先ではないらしく、クダリは更に続ける。

「お風呂もさっき入ったからまだあったかい」
「ありがとうございます」
「あ、それとも」

ギシ、とソファを鳴らし、クダリはノボリの膝を跨ぐように座り直す。

「月並みだけど、それともぼく?」

見つめてくる瞳、絡まる視線には明らかな欲の色が浮かんでいて。
どうやらクダリの中で何よりも優先順位が高いのはどうやら自分自身の性的な欲求らしい。
その色濃い情欲の瞳に見つめられて自らの本能が煽られないわけがあろうか。いや、ない。
胸のどこか奥辺り、じわじわとした欲望の熱が沸き上がってくるのを感じながら、ノボリはクダリの頬へ手を伸ばし柔らかな唇へそっと親指を滑らせた。
しかし人間というものは不思議なものであって、そこまで期待されると逆に焦らしてやりたくもなるというものである。
据え膳食わぬは男の恥とは言うが、しかしあえて後から味わうのもまた良しというものだ。
ノボリはそっとクダリから手を離す。

「お風呂から先に頂きますね」
「つれないノボリ」

不満を口にしながらもその口元は緩んでいて。
クダリもまた、お預けされると燃えるタイプであるらしい。
後から与えられるであろう、その望むもの。その甘美な妄想に浸りながらその熱を溜めて、待ってこそ味わえる快感というものもあるのだ。



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「ごちそうさまでした」

風呂に入っている間にクダリが温めなおしてくれていた遅めの夕食を綺麗にたいらげて、ノボリは丁寧に手を合わせた。
クダリの頑張って作ったという料理はハンバーグであった。凝り性のクダリはわざわざデミグラスソースまで手作りして周りを彩る野菜も茹でて、まるでお高いレストランの料理のように綺麗に盛りつけてある豪勢なもので。
まあそんなところの料理よりもクダリの手料理の方がよほど嬉しいのだけれど、とまた心の中でのろけつつ、おいしかったですよとクダリに声をかければへにゃりと嬉しそうに笑った。

「あ、ぼく食器洗ってくる」
「いいですよそれくらい、自分でします」
「だめ、そんな体力あるんだったらぼくのためにとってて」

疲れているノボリを気遣ってかはたまた自分の欲望のためか(多分その両方だろうが)。
立ち上がろうとしたノボリを押しとどめて、クダリはさっさと片付け始めてしまう。
なんだかその、いかにも急いているような仕草が愛おしくて。
焦らすのもそろそろここまでにしておこうか、と。いやそれよりも自分の据え膳もそろそろ限界なのだ。
疲れているせいかやたらむらむらと沸き上がってくる欲望をこれ以上抑えていられそうもないし、その必要もない。だってクダリの方も今か今かと待ち望んでいるのだ。

「…それでは食器は後で洗いましょうか」

言ってクダリの手を引けば、ぱっと目を輝かせてノボリの胸へと飛び込んでくる。
それをしっかりと受け止めてやって再びソファへと腰を下ろせば、待ちきれないというように唇を重ねた。どちらともなく。

「ん、…」

重ねる、というよりも貪ると言ったほうが正しいかもしれない。
飢えたけだもの。解かれた欲望をお互いぶつけあうように舌を絡めて口の中をまさぐって。いくら求めても足りない、その状況は自らがつくりだしたものなのだけれど。
興奮に火照った頬を撫で擦って熱い舌をじゅうと吸ってやれば、クダリはもどかしそうに喉を鳴らす。
与えられる快感に素直に反応する愛しい身体。慈しむようにそのラインをなぞって腰を抱き寄せてやる、しかしクダリはそれでは足りない待ちきれないという風にノボリのスウェットの中へ手を差し入れた。

「こら、クダリ」
「へへ」

全く順序も雰囲気もへったくれもない。しかしノボリの方も拒む気はさらさらないから困ったものである。
結局欲に正直なのはお互い同じなのだ。
クダリに流されるままに下着ごと脱がされて、そのまま自分の太ももの間あたりに座り込んだクダリの頭を撫でてやる。

「これ、すき」

まだ完全には勃ちあがりきっていないノボリの性器をやわやわと握って、クダリは愛おしそうに頬ずりする。
うっとりとした目で自分の性器に頬を寄せる愛しい弟の姿は酷く甘美な光景であったが、しかしその曖昧な刺激はノボリを焦らさせた。じわじわとくすぐるような感触。時折ちゅ、ちゅ、と柔らかな唇を触れさせてくるのがまたもどかしい。
クダリの手の中でゆっくりと自らの性器が熱く硬くなっていくのを感じる。
早くその温かな粘膜に包まれたい。そのいやらしい口の中を自らの性器でぐちゃぐちゃにかき回してやりたい。
そんな焦れた欲求に駆られながらノボリはクダリの頭をそっと抑えて、手の中で弄ばれているその性器を咥えるように促す。しかしクダリはいやいやと首を振り、それを拒んだ。

「だって、すぐイっちゃったらつまんない」
「…わたくしが早漏のような言い方はやめてくださいまし」

一体この可愛らしい唇のどこからそんな生意気な言葉が出てくるのか。はあ、と一つため息。
しかし兄を弄ぶようなその仕草さえ愛おしいと感じてしまうのだからどうしようもない。
しばらく好きにさせてやろうかと柔らかな髪を撫でてやれば、冗談、といたずらっぽく笑ってクダリはようやくノボリの性器をその温かな粘膜の中へ咥え込んだ。
その、焦らされた分の快楽といったら。
早漏ではないと今言ったばかりだが、すぐにこの口の中に熱を吐き出してしまいたくなるほどで。

「っは、クダリ…」
「ふ、っん…、のぼり、きもちい…?」
「ぁ、まり、喋ると…、」

じゅぷじゅぷとわざとらしい唾液の音をたてながら、煽るようにクダリは快楽を問う。
待ち望んでいた、その生温い粘膜がノボリ自身を包む感触。もごもごとクダリが言葉を発する度にその腔内や舌が擦れて、その度電撃のように走る快感にノボリは大きく息を吐いた。
その間にもクダリの手はノボリの性器の根本を擦り、先ほどの焦らすようなそれとは違う、急かした刺激をひっきりなしに与えてくる。
気持ちいいところくらい全部知っている、どう触ればノボリが悦ぶのかくらい全部知っている。そんなことでも言いたげに、喉の奥を締めて先端を舌でつついて。

「は…、ぁ、っ口の中、出し、ますよ」
「!っん、」

ノボリの右手がぐ、とクダリの頭を押さえてそのまま喉の奥へと溜まった欲望を吐き出す。
その一瞬の圧迫感に息が詰まりそうになる、けれどどろりとした熱が流れていくのが気持ちよくて、たまらない。クダリは自ら更に咥え込んで一滴も零さぬようにごくりとその全てを嚥下した。

「…んぅ、やっぱり、早い」
「あなたが悪いです」

ぺろ、と唇を舐めながら呟くクダリにバツが悪そうな口調で返してみるけれど、反省する気などさらさらないしその必要だってない。だってクダリの顔も非常に満足気であり。
あざとい上目遣い。次は?と伺うように見上げてくるクダリに応えるように抱き寄せる。と、クダリは自らさっさと自分のスウェットを下着ごと脱ぎ捨ててしまって、自らノボリの膝の上に跨ってしまった。それも仕方のないこと、クダリが興奮でどうしようもない状態なのはその勃起した性器を見ればすぐ分かる。
お互いの顔が近くで向かい合うかたちになって、そうなれば唇を寄せてしまうのは必然というものである。先ほど吐き出したばかりの自分の精液の味がするのも構わず、クダリの唇を喰んだ。
そうしながらクダリの腰を撫でてやれば、重なる下半身がひくひくと物欲しげに震えた。目は口ほどに物を言う、もとい体は口ほどに、ということか。
ならばそこに欲しいものを与えてやるまでだ。クダリがそうであるように、ノボリだってクダリの好いところ、望むものなど知り尽くしているのだから。
ぺろりと自分の人差し指に唾液を絡め、ひくひくと震える窄まりの入り口をつついてやる。するとノボリの予想以上にすんなりとそこは自分の指を吸い込こんでいって。

「あなた、もう準備万端だったというわけですか」
「うん、ノボリのこと待ちながら、おふろで準備してた」

だから早く、いれて。
耳元で囁く魔性の声。疲労も理性も、自分のダイヤを何もかもかき乱す淫靡な誘い。
ならば誘われるまま流されてやるまでだ。
さっさと指を引き抜いてしまって。先ほど熱を吐き出したばかりだというのに既に硬くなり始めた性器をクダリのそこに宛がってやれば、クダリはぎゅうとノボリの体に抱きつき甘えるように体をすり寄せた。
快楽に身を震わせながら囁かれる声。その愛しい言葉の一粒も聞き逃すまいとノボリは耳を澄ます。

「ノボリも、明日おやすみでしょ?」
「おやバレていましたか」
「だから、ね、いっぱい」

そんなこと、言われずとも。
愛する人間にここまで求められて、いったい他に何を望むことがあろうか。いや、あるわけがない。
自分の疲労など知ったものか。明日の予定などそれ以上にどうでもいい。
今ノボリの頭にあるのは目の前のこの弟のことだけ。
微笑むクダリに口づけをひとつだけ返してやって、あとはクダリの望むまま、快感を待つその身体を思い切り貫いてやった。




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